Bar UK Official HP & Blog(酒とPianoとエトセトラ)since 2004.11.

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2015/08/27
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カテゴリ: カクテルブック
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 ◆「Harry's ABC Of Mixing Cocktails」にみるクラシック・カクテル

  18.サイドカー(Sidecar)


「サイドカー(Sidecar)」はクラシック・カクテルの代表格の一つで、その名はオートバイの横に取り付けて走る四輪の乗り物に由来します (第一次世界大戦で軍用バイクとして開発され、一躍有名になりました)。カクテル誕生の由来や時期については、これまで以下のように数多くの説が紹介されてきました。とりわけ(1)と(2)の2説は有名で、どちらも複数の文献やWeb専門サイトでよく取り上げられてきました。

(1)第一次世界大戦(1914~18)中、パリのレストラン・バーで、コニャックを飲んでいた軍人(米軍人、フランス軍人、ドイツ軍人の3説あり)の元に、「急いで軍の本部へ戻れ」という指令が来た。度数の強いコニャックを短時間で飲み干さなければならないその軍人が、バーテンダーに「ホワイト・キュラソーとレモン・ジュースで割ってくれ」と頼んだのが始まり(出典:多数の文献やWeb専門サイト)。※このレストラン・バーがどこかは不明。

(2)第一次大戦後の1931年、パリの「ハリーズ・ニューヨーク・バー」の経営者、ハリー・マッケルホーンが、いつもサイドカー付きのオートバイに乗って来店する常連客のために考案した(出典:Wikipediaほか多数)。

(3)パリのリッツ・ホテルは、「サイドカーはリッツ・ホテルのBarで誕生した」と主張している(出典:Wikipedia英語版)。

(4)1922年、ロンドンの社交クラブ「バックス・クラブ(The Buck’s Club)」(1919年創業)の初代バーテンダー、パット・マクギャリー(Pat MacGarry)が紹介し、英国内で広めた(出典:PBOのHPやWikipedia英語版 ※「考案者」という表現はしていない)。

(5)ロバート・ヴェルマイヤー(Robert Vermeire)のカクテルブック「Cocktails and How To Mix Them」(1922年刊)には、「サイドカーはフランスではとても人気のあるカクテルで、マクギャリーがロンドンへそのレシピ紹介した」としている(出典:Wikipedia英語版)。

(6)デヴィッド・エンベリー氏(David Embury)の著書「The Fine Art Of Mixing Drinks」(1948年刊)は、「第一次大戦中、パリに駐留していたサイドカー好きの米陸軍軍人のために、あるビストロが考案した」と伝える(出典:同)。
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 今回連載のメインテーマでもある ハリー・マッケルホーン(Harry MacElhone)のカクテルブック「 Harry's ABC of Mixing Cocktails」(1919年刊) には、もちろん「サイドカー」は収録されています。というか、サイドカーは現時点では、「Harry's ABC of Mixing Cocktails」が世界初出の文献です。

 「Harry's ABC…」の発刊年(1919年)から考えると、 欧州では、少なくとも1910年代後半には社交クラブや街場のバーで登場していたことになり、1920~30年代誕生説は誤りだ ということになります( 写真 =Sidecar @ Bar Savoy Kitanozaka, Kobe)。

 それでは考案者は誰だったのかと言えば、 従来、国内外のカクテルブックやWEBの専門サイトでは、「ハリー・マッケルホーンが考案者」と紹介されることが数多く見られました。 これは、マッケルホーンが興したパリの「ハリーズ・ニューヨーク・バー」で「サイドカー」がオープン(1923年)以来ずっと看板カクテルだったこと、そして彼の店が「サイドカー」の普及に大きな役割を果たしたことが背景にあるのでしょう。

 しかし、以前にもうらんかんろが 「カクテル--その誕生にまつわる逸話」という連載 で書いたように、 考案者と言われるマッケルホーン自身は、自著(「Harry’s ABC…」)の「Sidecar Cocktail」の項で、「ロンドンの社交クラブ『バックス・クラブ』のバーテンダー、パット•マクギャリーのレシピ」と記している のです。マッケルホーンは、同著収録のカクテルで自身が考案したものについては、「自分のオリジナルである」と明記していますので、「サイドカー」が自らの考案であれば、間違いなくそう記したはずです。

 うらんかんろは、 マッケルホーン自身が否定している以上、サイドカーの「マッケルホーン考案者」説はもはや取り上げるべきではない と思っています。なので、いまだに国内外の新刊のカクテルブックで、「マッケルホーンが考案した」と間違って紹介しているのを見ると、残念でなりません(「マルガリータ=流れ弾起源説」のように、後世のつくり話が一人歩きして、間違ったまま"定説化"してしまう典型的な例かもしれません)。

 ただし、マッケルホーンが「考案者(Created by)」とは書かず「レシピ(Recipe by)」と記していることから、上記(4)、(5)の説のように、当時(1910年代)パリで流行していたブランデー・ベースのカクテルを知ったマクギャリーが、自らが働く社交クラブで若干アレンジして提供し始めたという推測も成り立つかと思います(マッケルホーン自身は、1910年代後半は同じロンドンの社交クラブ「The Ciro's」で働いていましたし、マクギャリーから情報は難なく入手できたはずです)。

 いずれにしても、 1910年代の知見を反映したマッケルホーンの著書を信じるならば、現状では、「サイドカー」はやはり、ロンドンのバーテンダー、パット・マクギャリー氏が考案した(あるいは、現在のスタンダードレシピの基礎をつくった)と考えるのが一番信頼に値する と思われます。

 さて、「Harry's ABC…」収録のレシピはどうかと言えば、 「ブランデー3分の1、コアントロー3分の1、レモンジュース3分の1」(シェイク・スタイル) です。「ハリーズ・ニューヨーク・バー」では現在でもこのオリジナル・レシピを頑固に守っているそうです。

 しかし、1920~30年代のカクテルブックをみると、「サイドカー」のレシピは大きく分けて2つの流れが見受けられます。その一つは、マッケルホーンの本と同じ「3つの材料等量レシピ」。これは「フレンチ・スタイル」と呼ばれています。そして、もう一つは、 「英国スタイル」と言われるレシピで、「ブランデー(2分の1)、コアントロー(またはホワイト・キュラソー、トリプルセック)(4分の1)、レモン・ジュース(4分の1)」 です。「英国スタイル」は「The Savoy Cocktail Book」の著者、ハリー・クラドック(Harry Craddock)によって考案されたとのことです(出典:Wikipedia英語版)。

 では、1900~1950年代の主なカクテルブック(「Harry's ABC…」以外)は「サイドカー」をどう取り扱っていたのか、どういうレシピだったのか、ひと通りみておきましょう。

 「Dary's Bartenders' Encyclopedia」 (ティム・ダリー著、1903年刊)米、 「Bartenders Guide: How To Mix Drinks」 (ウェーマン・ブラザース編、1912年刊)米、 「173 Pre-Prohibition Cocktails)」 & 「The Ideal Bartender」 (トム・ブロック著、1917年刊)米 いずれも掲載なし

・「The Savoy Cocktail Book」 (ハリー・クラドック著、1930年刊)英 本文中に挙げた英国風レシピ(シェイク・スタイル)。

・「Cocktails by “Jimmy” late of Ciro's」 (1930年刊)米 ブランデー3分の1、コアントロー3分の1、レモンジューズ3分の1(スタイル不明)

・「The Artistry Of Mixing Drinks」 (フランク・マイアー著 1934年刊)仏 ブランデー2分の1、コアントロー4分の1、レモンジュース4分の1(シェイク)

・「World Drinks and How To Mix Them」 (ウィリアム・T・ブースビー著、1934年刊)米 ブランデー2分の1、コアントロー2分の1(ステア・スタイル)  ※3つの材料等量レシピのものは「Sidecar No4」という名で収録。

・「The Official Mixer's Manual」 (パトリック・ギャヴィン・ダフィー著、1934年刊)米 ブランデー2分の1、コアントロー4分の1、レモンジュース4分の1(シェイク)

・「The Old Waldorf-Astoria Bar Book」 (A.S.クロケット著 1935年刊)米 掲載なし

・「Mr Boston Bartender’s Guide」 (1935年刊)米 ブランデー1onz(30ml)、コアントローオ0.5onz(15ml)、レモンジュース4分の1個分(シェイク)

・「Café Royal Cocktail Book」 (W.J.ターリング著 1937年刊)英 ブランデー3分の1、コアントロー3分の1、レモンジューズ3分の1(シェイク)

・「Trader Vic’s Book of Food and Drink」 (ビクター・バージェロン著 1946年刊)米 ブランデー1onz(30ml)、コアントローオ0.5onz(15ml)、レモンジュース4分の1個分、砂糖でスノー・スタイルにしたカクテルグラスに注ぐ(シェイク)

・「Esquire Drink Book」 (フレデリック・バーミンガム編、1956年刊)米 サイドカーNo1=ブランデー3分の2、コアントロー3分の1、レモンジュース1dash(シェイク)、サイドカーNo2=ブランデー3分の1、コアントロー3分の1、レモンジューズ3分の1(シェイク)

日本へは「サイドカー」は、少なくとも1920年代までに伝わり、日本初の体系的カクテルブックの一つと言われる「コクテール」(前田米吉著、1924年刊)で初めて紹介されています。 前田氏のレシピは、「Harry's ABC…」と3つの材料の分量比は同じですが、「アンゴスチュラ・ビターズを一振り」加えるところだけが違っています。

 「サイドカー」は今日のバーでも不動の人気を誇るスタンダード・カクテルの一つです。もちろん誕生当初は「オリジナル」だった訳ですが、多くのバー・ファンの心をつかみ、またたく間に世界中に普及しました。シンプルな材料のコンビネーションが生み出す奥行きのある味わい、アルコールと酸味と甘味の絶妙のバランス。100年後でも、多くの人々に愛されている理由が分かるような気がします。




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うらんかんろ

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汪(ワン) @ Re:Bar UK写真日記(74)/3月16日(金)(03/16) お久しぶりです。 お身体は引き続き大切に…

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