Bar UK Official HP & Blog(酒とPianoとエトセトラ)since 2004.11.

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2017/05/28
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 52.マルガリータ(Margarita)

【現代の標準的なレシピ】 (容量はml)テキーラ(30~40)、ホワイト・キュラソー(またはコアントロー、トリプルセック)(15)、ライム・ジュース(15) ※グラスを塩でスノースタイルに  【スタイル】 シェイク

 マルガリータは現代においても、とても有名で重要なカクテルですが、残念ながら誕生の経緯・由来について、確かな説や裏付け資料は現時点では確認されていません。
 にも関わらず、日本ではいまだに、「1949年、ジャン・デュレッサー(以下の 【注】ご参照 )というバーテンダーが、全米カクテルコンテストで3位になった自分のカクテルに、かつてハンティング中の流れ弾に当たって亡くなった悲運の恋人の名をつけた」という説が、定説のように信じられています。
【注】John Durlesserは、日本ではこれまで「ジャン・デュレッサー」と表記されることが多かったのですが、本稿では以下、より原音に近い「ジョン・ダーレッサー」と表記します。ダーレッサーは実在の人物で、カリフォルニア州ロサンゼルスの有名レストランのチーフ・バーテンダーでした。

 なぜかよく分からないのですが、日本国内で発行されるほとんどのカクテルブックでは、この根拠不確かな「流れ弾説」がよく紹介されています。非常に残念ながら、最も権威と信頼性があるはずの「NBAバーテンダーズ・マニュアル」の最新改訂版(2016年、あの「食の専門出版社」・柴田書店が刊行)を始め、Wikipedia日本語版、大手ウイスキー会社のHPでさえも!。

 Wikipedia英語版では「流れ弾説」はまったく見向きもされていないのに、同じWikipediaの日本語版ではこの「流れ弾説」を定説として紹介しているのを見ると、もう笑うしかありません。結果として、日本のバーの現場では、ほとんどのバーテンダーがこの根拠のない「流れ弾説」を信じ、拡散し続けています。

 確かなことは、この「ダーレッサー=流れ弾説」は欧米の専門サイトや文献ではほとんど取り上げられていないということです(Wikipedia英語版の掲示板では、「このフィクションは日本人のほとんどに信じられている。バーテンダーを主人公にしたドラマがさらに、そのフィクションを事実のように取り上げた」という批判的な書き込みもありました)。

 2008年、この「流れ弾説」が幅を利かせる日本のバー業界の現状に一石を投じたのが石垣憲一氏でした。石垣氏は『カクテル ホントのうんちく話』(柴田書店刊)を著し、その地道な調査の結果、(日本人による)後世の作り話である可能性がきわめて強いことをほぼ証明しました。

 石垣氏によれば、1949年当時、全米カクテルコンクールが開かれたという記録はなく、ダーレッサー考案説は、その前提自体が疑わしいということです。国際バーテンダー協会北米支部の公式見解によると、マルガリータの原型となるカクテルは、1930~40年代にメキシコ・アカプルコのバーで生まれたといいます。ただし当時はどういう名前が付いていたのかは定かではありません。

 同支部は1940~50年代に、アカプルコに別荘を持っていたマーガレット・セイムズなる米国人女性がこのカクテルをいたく好んで、米国内に広めたといい、カクテル名も彼女の名前マーガレットにちなんで「マルガリータ」となったと説明しています(ただし、このセイムズ説について、同支部は裏付け資料を示しておらず、「考案者」とは言っていません)。ちなみに、このセイムズなる女性は2000年代前半、日本のテレビ番組にも登場し、「私がマルガリータの生みの親」と語っていたそうです。

 しかし、石垣氏によれば、彼とマルガリータの創作を結びつける根拠ある証拠資料や証言は見当たらず、ダーレッサー自身のコメントもまったく伝わっていません(もしそれほど有名な考案者であれば、普通当事者の何らかのコメントが伝わっているはずです)。第二次大戦後に、日本人の誰がこのような、手の込んだ「作り話」を考えつき、拡散させたのか…。本当に罪作りと言うしかありません。

 マルガリータの起源については、今なお諸説入り乱れて、真実は不明です。しかし、専門家による最新の研究によれば、おそらく、禁酒法時代(1920~33)以前から存在していた「デイジー(Daisy)」というドリンクが原型だろうということではほぼ一致しています。「デイジー」はスピリッツをベースに、柑橘系のジュースやシロップを加えシェイクした後、氷を入れたコブレットで味わう古典的なカクテルです。

 テキーラが米国中西部やメキシコ側の国境地域で普及するにつれて、「テキーラ・デイジー」というカクテルへ発展し、それが「デイジー」の原意(「ひな菊」)を意味するスペイン語の「マルガリータ」と呼ばれるようになったと考えるのが現時点では一番信憑性があり、説得力があるでしょう(出典:2021年刊の「The Cocktail Workshop」=Steven Grasse & Adam Erace共著ほか米国の専門サイト)。

 ご参考までに紹介すると、欧米では以下のような諸説が伝わっています(出典:WiKIpedia英語版や米国の複数の専門サイト<drinkmagazine、thewinetimes、vinepairほか>)。当然ながら、「ダーレッサー=流れ弾説」を紹介しているサイトはまったくありません。

(1)=石垣氏が紹介した国際バーテンダー協会北米支部の説
 元々は1930~40年代にメキシコ・アカプルコのバーで誕生した。その後1940~50年代(1948年頃?)に、アカプルコに別荘を持っていた米テキサス州在住のマーガレット・セイムズ(Margaret Sames)なる女性が、別荘で開いたパーティーなどを通じて米国内に広めたといい、カクテル名は自分の名前をスペイン語風に変えて『マルガリータ』と呼んだ」という。
 ※セイムズのパーティーでこのカクテルを飲んで気に入った友人のトミー・ヒルトンは、自らが経営するヒルトン・ホテルのバー・メニューに早速、マルガリータを加えたという。

(2)1936年、メキシコ南部、プエルバ(Puebla)のホテルの支配人、ダニー・ネグレーテ(Danny Negrete)がマルガリータという名の彼のガールフレンドのために考案した。

(3)1930年代後半(1938~39年頃?)、メキシコ国境に近いカリフォルニア州ロサリート(Rosarito)にあるバー「ランチョ・ラ・グロリア」のバーテンダー、カルロス・エラーラ(Carlos Herrara)がマリオーリ・キングという名の女優のために考案した。

(4)1940年代、ハリウッド在住のバーテンダー、エンリケ・グティエーレス(Enrique Gutierrez)が顧客の一人であった、女優リタ・ヘイワーズ(Rita Hayworth)のために考案した。ヘイワーズの本名「マルガリータ・カンシーノ」にちなんでマルガリータと名付けたという。

(5)1941年、メキシコ・エンセナーダのバーテンダー、ドン・カルロス・オロスコ(Don Carlos Orozco)がドイツ大使の娘、マルガリータ・ヘンケルのために考案した。

(6)1948年、テキサス州ガルベストンに住むバーテンダー、サントス・クルーズ(Santos Cruz)がマーガレットのミドルネームをもつ歌手のペギー・リーのために考案した。

(7)テキーラ・メーカーの「ホセ・クエルボ社(Jose Cuervo)」が1945年に自社のテキーラの販促キャンペーンのために考案した。

(8)1910年代に生まれた「サイドカー」というカクテルのベースをブランデーからテキーラに替えたものが、1930~40年代に何かのきっかけで「マルガリータ」と呼ばれるようになった

 欧米のカクテルブックで、「マルガリータ」の名前で初めて登場するのは、現時点で確認できた限りでは、1947年に出版された「Trader Vic's Bartender's Guide」(Victor Bergeron著)です。レシピは「テキーラ1oz、トリプルセック(オレンジ・キュラソー)0.5oz、ライム・ジュース半個分、シェイクして縁を塩でリムしたグラスに注ぐ」(1oz=ounce=は約30ml)となっていて、現代のレシピとそう大きく変わりません。少なくとも1940年代半ばの米国では、マルガリータはある程度認知されていたことを裏付ける文献です。

 ご参考までに、1950~80年代の欧米のカクテルブックから、「マルガリータ」のレシピを少し紹介しておきましょう(塩でグラスをスノースタイルにするのは共通なので省略します)。

・「Esquire Drink Book」(Frederic Birmingham著、1956年刊)米
 テキーラ1oz、トリプルセック1dash、ライム(またはレモン)・ジュース半個分(ステア)
・「Mr Boston Bartender's Guide」(1960年版)米
 テキーラ1.5oz、トリプルセック0.5oz、ライム(またはレモン)・ジュース0.5oz(ステア)
・「Booth's Handbook of Cocktails & Mixed Drinks」(John Doxat著、1966年刊)英
 テキーラ1oz、コアントロー0.5oz、ライム(またはレモン)・ジュース0.5oz(シェイク)
・「The Bartender's Standard Manual」(Fred Powell著、1979年刊)米
 テキーラ1jigger、トリプルセック(またはコアントロー)0.5jigger、ライム(またはレモン)・ジュース0.5jigger(シェイク)※1jiggerは45ml
・「Harry's ABC of Mixing Cocktails」(Harry MacElhone著、1986年刊の復刻版)英
 テキーラ3分の1、コアントロー3分の1、レモン・ジュース3分の1(シェイク)

 なお、1937年に英国で出版された「Café Royal Cocktail Book」(J.W.Tarling著)には「ピカドール(Picador)」、1939年に米国で出版された「The World Famous Cotton Club:1939 Book of Mixed Drinks」(Charlie Conolly著)には「テキーラ・サワー(Tequila Sour)」という、それぞれ「マルガリータ」とほとんど同じレシピのカクテル(テキーラ、コアントロー、ライム・ジュース)が収録されていますが、これを「マルガリータ」のルーツとするかどうかは、残念ながら、私には判断できる材料がありません。

 マルガリータは、日本にもおそらくは1950年代後半には伝わっていたのでしょうが、文献に登場するのは60年代になってからで、街場のバーで一般的に知られるようになったのは70年代以降です。その後は、トロピカルカクテル・ブームなどの効果もあって、幅広く浸透するようになりました。

 くどいようですが、最新の「NBAオフィシャル・カクテルブック」(柴田書店刊、2016年改訂版刊)を始めとして、日本のほとんどのカクテルブックはいまだに、冒頭に紹介した「流れ弾 ・悲運の恋人説」にこだわり、根拠のない説を取り上げて続けています。結果として、多くのバーテンダーがこの作り話を歴史的事実と誤解して、お客様に広めています。

 いい加減、日本のバー業界団体や日本人バーテンダー、出版業界も、この根拠なき「後世の作り話」を忘れるべき時期ではないでしょうか。少なくとも業界最大の団体としてNBAカクテルブックを監修している日本バーテンダー協会とその出版元(柴田書店)は、その責任を考えるべきでしょう。

【確認できる日本初出資料】 「カクテル小事典」(今井清&福西英三著、1967年刊)。レシピは「テキーラ40ml、トリプルセック15ml、レモン・ジュース15ml、シェイクして、塩でスノースタイルにしたシャンパン・グラスに注ぎ、氷1個を加える(氷を加えないこともある)」となっています。冒頭の現代レシピとほぼ同じです。
 ※なお、1962年刊の「カクテール全書」(木村与三男著)には、冒頭のレシピにアンゴスチュラ・ビタースを少し加えた「テキーラ・マルガリート」というカクテルが紹介されていますが、これを日本初出とするかは少し意見が分かれるところでしょう。

※この稿の執筆にあたっては、石垣憲一氏とその著書「カクテル ホントのうんちく話」(柴田書店刊)に非常にお世話になりました。この場をかりて改めて厚く御礼を申し上げます。



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汪(ワン) @ Re:Bar UK写真日記(74)/3月16日(金)(03/16) お久しぶりです。 お身体は引き続き大切に…

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▼Bar UKでも愛用のBIRDYのグラスタオル。二度拭き不要でピカピカになる優れものです。値段は少々高めですが、値段に見合う価値有りです(Lサイズもありますが、ご家庭ではこのMサイズが使いやすいでしょう)。 ▼切り絵作家・成田一徹氏にとって「バー空間」と並び終生のテーマだったのは「故郷・神戸」。これはその集大成と言える本です(続編「新・神戸の残り香」もぜひ!)。
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