Bar UK Official HP & Blog(酒とPianoとエトセトラ)since 2004.11.

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2017/08/20
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  64.オールド・パル(Old Pal)

【現代の標準的なレシピ】 【スタイル】 シェイクまたはステア ※米国内では、カンパリの代わりにグレナディン・シロップを使うレシピも普及している。

 「古くからの仲間」「懐かしい友人」との意を持つ「オールド・パル」は、ウイスキー・ベースのカクテルとして、現代のバーでも注文されることが多いかと思います。誕生の正確な時期は定かではありませんが、少なくとも1920年代半ばには、欧州の大都市で飲まれていたことは間違いありません(出典:Wikipedia英語版)。

 「オールド・パル」が初めてカクテルブックに登場するのは、「ABC of Mixing Cocktails」(ハリー・マッケルホーン<Harry MacElhone>著、1919年初版刊)の1929年刊の改訂版です。そのレシピは、カナディアン・ウイスキー、ドライ・ベルモット、カンパリ各3分の1ずつ(ステア))です(出典:http://drinks.seriouseats.com/2014/02/classic-cocktail-old-pal-cocktail-history-harry-macelhone.html)。

 考案者は、マッケルホーンが1923年、パリに開いた「Harry's New York Bar」の常連客の一人でもあった、スパロー・ロビンソン(William "Sparrow" Robinson)と伝わっています(出典:http://punchdrink.com/recipes/old-pal/ )。ロビンソンは当時、ニューヨーク・ヘラルドトリビューン(New York Herald Tribune)のパリ特派員でもありました(肩書については、同紙の「パリ駐在のスポーツ面エディター」とするサイトもあります)。

 考案者についての異論はほとんど聞かれません。しかし、初めて登場した文献(カクテルブック)については従来、「ABC of Mixing…」の1919年の初版説、1922年刊の同書第2刷説、さらに同じマッケルホーンが1927年に出版した「Bar Flies and Cocktails 300 Recipes」説など諸説が入り乱れてきました(出典:Savoystomp.com、https://cold-glass.com/2013/03/05/the-mystery-of-the-old-pal-cocktail/ほか)。
 しかし近年、著名なカクテル史研究家のデヴィッド・ワンドリッチ(David Wondrich)氏がマッケルホーンの著書の原本を検証した結果、「1919年初版説や1922年説、1927年説は後世に誤って伝えられたもので、『ABC of Mixing…』の1929年刊・改訂版に収録されているのが初出に間違いない」と説明しています。

 なお、1927年刊の「Flies and Cocktails 300 Recipes」では、同じくハリーズ・バーの常連客だったアーサー・モス(Arthur Moss 1889~1969 米国の詩人・雑誌編集者で、1921年以降はパリなど仏に在住)が後書きのなかで、次のような思い出を綴っています。
 「私はよく覚えている。あれは1878年の2月30日の出来事だった。マッケルホーンが私の友人でもあるスパロー・ロバートソンと議論を交わしていた。そして、ロバートソンは言った。『僕はこんなドリンクを考案したんだよ。カナディアン・クラブとスイート(イタリアン)・ベルモット、そしてカンパリが3分の1ずつさ』と。そして、ロバートソンは『My Old Pal』という名のそのカクテルを『マッケルホーンに捧げるよ』と言ったんだ」

 しかし、このモス氏の文には明らかな間違いがあります。マッケルホーンは1890年生まれなので、これは1878年の出来事ではあるはずがありません。それに、昔も今も2月には28日(か29日)しかありません。さらに、ロビンソン氏の名前もロバートソンと間違っています(モス氏はジョーク好きだったという伝説もあり、年や月日、名前はわざと間違えたのではという専門家の見解もあります)。

 実際、1929年版の「ABC of Mixing…」に掲載されている「オールド・パル」は、スイート・ベルモットではなく、ドライ・ベルモットを使っています。万一、モス氏の言うようなエピソードがあったとしても(近い逸話はきっとあったのでしょうが)、それはもう少し後の、ハリーズ・バーが開業した1923年以降の話でしょう。

 ワンドリッチ氏は、「1922年版にはオールド・パルはまだ登場していないし、1927年の後書きに登場するオールド・パルと称するカクテルも、モス氏の誤記の多い記述からしても、正確性に大いに疑問が残る」としています。同氏は「1922年説は、マッケルホーンがロンドンからパリにやって来た年と混同して誤って定着し、SNSなどで拡散されてしまったのだろう」と推測しています(出典:http://drinks.seriouseats.com/2014/02/classic-cocktail-old-pal-cocktail-history-harry-macelhone.html)。

 ちなみに、マッケルホーン没後の1986年に、復刻改訂版として出版された「Harry's ABC of Mixing Cocktails」では、「ニューヨーク・ヘラルドトリビューンのスポーツ面エディターだった、スパロー・ロビンソンが1929年に考案した」と付記されていて、マッケルホーンの遺族も「1929年説」を認めていることが分かります。なお、現在伝わっているレシピは、ロビンソン自身が考えたものにマッケルホーンが少しアレンジを加えているという可能性ももちろんありますが、真偽の程はよく分かりません。

 余談ですが、少し時代背景について記しておきたいと思います。カンパリが初めて商品化されたのは1860年ですが、カクテルの材料としてしばしば使われるようになるのは20世紀に入ってからです。一方、19世紀の後半にはイタリアでベルモットが誕生します。当初は、食前酒として単独で飲まれるお酒でしたが、その後、カクテルの材料としてしばしば使われるようになりました。具体的に言えば、スイート(イタリアン)は1870年代以降、ドライ(フレンチ)は1900年代以降です。

 そして1910~20年代に入ると、バーテンダーは競い合うように、カンパリやベルモットを使う創作カクテルを次々と考案していきました。前々回に取り上げた「ネグローニ」(ジン、スイート・ベルモット、カンパリ各3分の1ずつ)も、この時代に誕生しています。マッケルホーンが1927年刊の「Flies and Cocktails 300 Recipes」で、「ブルバルディエール(またはブールヴァルディエ=Boulevardier)」=遊び人との意=という、オールド・パルによく似たカクテル(バーボン・ウイスキー、スイート・ベルモット、カンパリ各3分の1ずつ)が紹介しています。

 一方、この時期、カクテルに使われるベルモットは、スイートからドライへ、辛口化する移行期でもありました(当初はスイート・ベルモットを使っていたマティーニも、ドライを使うレシピが主流になり始めます)。モス氏の言うように、当初は、マッケルホーンの「オールド・パル」もスイート・ベルモットだった可能性は否定できません(そして、それをその後マッケルホーンがドライ・ベルモットに代えた可能性も…)。

 さて、参考までに1930~40年代の主なカクテルブックが、オールド・パルをどのように扱っているかをざっと見ておきましょう。

・「The Savoy Cocktail Book」(Harry Craddock著、1930年刊)英
 カナディアン・ウイスキー、ドライ・ベルモット、カンパリ各3分の1ずつ(シェイク)

・「World Drinks and How To Mix Them」(William Boothby著、1934年刊)米
 ウイスキー、ドライ・ベルモット、カンパリ各3分の1ずつ(シェイク)

・「Old Mr Boston Official Bartender's Guide」(1935年初版刊)米
 ライ(またはバーボン)・ウイスキー約40ml、スイート・ベルモット15ml、グレナディン・シロップ15ml(ステア) 
 ※現代でも定期的に発刊が続いている「Mr Boston Bartender's Guide」では、(理由は不明ですが)この後もずっとカンパリではなく、グレナディン・シロップを使うレシピが踏襲されています。そして米国内のバーの現場では今なお、このMr Bostonレシピのオールド・パルが一定程度、認知されています。

・「The Official Mixer's Manual」(Patrick G. Duffy著、1948年刊)米
 ライ・ウイスキー、ドライ・ベルモット、カンパリ各3分の1ずつ(ステア)

 「オールド・パル」は戦前には日本にも伝わっていたと想像されますが、カクテルブックに登場するのは、戦後の1950年代に入ってからです。街場のオーセンティック・バーで普通に飲まれるようになるのは70年代以降です。

【確認できる日本初出資料】 「世界コクテール飲物辞典」(佐藤紅霞著、1954年刊)。レシピは、サヴォイ・カクテルブックとまったく同じです。



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うらんかんろ

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kopn0822 @ 1929年当時のカポネの年収 (1929年当時) 1ドル=2.5円 10ドル=25円 10…
汪(ワン) @ Re:Bar UK写真日記(74)/3月16日(金)(03/16) お久しぶりです。 お身体は引き続き大切に…

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