のんびり生きる。

のんびり生きる。

一度刻みつけられた醜さは


 アンジーとフィルも同じだった。アンジーが彼と知りあった時、彼はこのあたりで一番の男前で、人を引きつける魅力をそなえ、最高におもしろいジョークをいったり最高に人を感動させる話のできる、生まれながらのリーダーだった。みんなのアイドルだったし、すばらしい男だった。人間は時に良い方向に変わりうるということを、彼女は――たとえどんなに冷笑的に世の中の他の出来事を見ていたとしても――いまだに思い、願い、万が一の可能性を信じて祈っているのだ。フィルこそ、そういう人間のひとりのはずだったし、そうでなければあまりにも不条理というものだ。
 そしてローランド――子供の頃からおりに触れたたきこまれてきた憎しみや、醜さや、悪行をすっかり身につけ、コマのように回転しながら今度は世の中に向かってそれを撒き散らしている。彼は父親と闘いながら、それさえ終われば平和に暮らせるのだと自分にいい聞かせている。だが、彼に平和が訪れることはない。そんなことはありえないのだ。一度刻みつけられた醜さは、血の一部となり、血を薄め、心臓を駆けめぐってはまた元に戻り、すべてを汚していく。醜さは決してどこへも行かず、なにをしようと体の中に溜まりつづけるのだ。そうでないと考える人間がいたとしたら、あまりにもうぶというものだ。あとは、なんとかそれをひとつの塊に押し固めてどこか一ヵ所に留め、常に圧力をかけて決して外に出ないようにし、そうやって制御することを望むだけである。
         『スコッチに涙を託して』294ページ

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