のんびり生きる。

のんびり生きる。

ささやかだけれど、役に立つこと


出版社:中央公論者
訳者:村上春樹


 これほどの短い期間に、これほど多くのものを、まったく信じられぬほど多くのものを、彼は与えてくれたのだ、と。私たちは、これを祝福として受け入れるべきなのでしょう。レイも自分が祝福され寵愛を受けたことを、そして自分が精いっぱいそれを世界に還元したことを、信じていたのです。そして、それはそのまま真実だったのです。
 レイが亡くなってから一週間後、ファン・デ・フカの海峡を見下ろすレイの墓所に、ある友人ととともに立っているとき、その人の胸にリルケの詩の一節が浮かんできて、彼はそれを口にしました。それはレイが死によってとげた変貌をよく表していると思います。「そして彼はどこにでもいるのだ。まるで夕暮れのように」
 最後に、私は新たに発見された彼の最後の詩を紹介したいと思います。

 『終わりの断片』

 そして君は、これでもまだ、この人生から
 望みのものを手に入れたと言うのか?
 ああ、僕は手に入れたよ。
 おい、君は何を求めていたんだい?
 自らをかけがえない者と呼ぶこと、この地上における
 かけがえのない者と感じることだよ。


From 序文にかえて テス・ギャラハー「レイモンド・カーヴァーを偲んで」

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