のんびり生きる。

のんびり生きる。

僕の人生は



ジルはコーヒーをすすって肯く。そしてこう言う。
「私も祈ってますわ、お母さんが無事向こうにお帰りになって理想の場所に落ち着かれることを」
「落ち着いたら ―神に誓ってこれがもう最後の引越しだよ― お前たちが遊びに来てくれると嬉しいね」と母は言う。そして同意を求めて僕の方を見る。

「遊びに行くよ」と僕は言う。でもそれが嘘であることは自分でよくわかっている。僕の人生はそこで無茶苦茶になってしまったのだし、今更戻りたくなんかない。



「ここでお母さんがもっと幸せになれればよかったんだけど」とジルは言う。「少しは辛抱というものをなさればいいのに。ご存じないとは思うけどあなたの息子さん、あたなのことが心配で参っちゃったのよ」
「よせよ、ジル」と僕は言う。

でも彼女は小さく頭を振って構わずに話し続ける。
「心配がこうじて眠れないことだってあったのよ。時々夜中に目を覚ましてこう言うの。『駄目だ。お袋のことを考えると眠れない』って。ねえ、言っちゃったわよ」と言ってジルは僕を見る。「でもずっと胸につっかえてたの」


「だから私にどう思えっていうんだよ?」と母は言う。「私くらいの歳になれば、普通の女ならみんな落ち着いた平穏な暮らしをしてるものなんだよ。・・・・・


                   「引越し」177頁

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