のんびり生きる。

のんびり生きる。

この正直さ。この冷静さ。むっとしたりせず


・ ・・
「今は干ばつ期だ、と思うようにしたらどうかしら」、ケイトはなにか言わなければならないと感じて言った。
「ほかの人が花粉症にかかるようなものね」
「ぼくたち二人、というよりはぼくのせいなのか」、リードがたずねた。突然、ケイトは彼がいとおしくて胸がいっぱいになった。この正直さ。この冷静さ。むっとしたりせず、まず気配りを見せてくれるようす。奇妙なことに、とはいっても土台のしっかりした結婚ならそれほど奇妙なことではないのだが、ケイトは突然なにが問題なのかがわかり、それを説明することができた。
「あなたに会って、愛するようになったとき、あなたは地方検事だった。もちろんいつも仕事に不満があるとは言ってたわね。予算が少ないこととか、若い弁護士のできの悪さとか、警察のこと、それに警察に課されるいろんな制約とか。でも、あなたは仕事に打ち込んでいたし、はりきって事件に取り組んでいたわ」
・・・「・・・でも前みたいに生き生きとした感じじゃない。あなたの中で、なにかが消えてしまったの、リード。前と同じくらい愛してる。でも前と同じようには夢中で愛せないの」
「でもぼくは、ロー・スクールでクリニックを始めようとしている。いままでクリニックのなかったところでね。少なくとも本物のクリニックは」、リードは言った。
「そして君も同じところで講義をすることになっただろう。だから一緒に同じ学校を新しく体験できるじゃないか。それ以上のことを望んでいるのか? ぼくは教えるのをまったくやめたっていい。異例の早さだが引退しよう。それとも、もう一年休暇をとってもいい。前と同じ気持ちになるために、何をすればいいんだ?」彼は眼鏡をはずし、ふいた。ケイトは、彼の動揺ぶりにショックをうけ、テーブル越しに手をのばした。
「君のいうことは正しい。もちろんのこと」、彼は言った。
・・・「問題は、ぼくの仕事のことだけじゃない。結婚生活そのものだけでもない、そんな気がするよ」、彼は言った。・・・・「・・・ともかく君には、精神的におちこんで不毛感にとらわれる時がある。君も言ったとおり、以前にもあったことだ。お願いだから、ふたりでこれを乗り切ろう。気軽なお楽しみのチャンスがある時だってあるかもしれないし、それに君の気持ちが動かされるかもしれないけれど、今二人の間にあるものを、失わないように大切にしようじゃないか」
「あたなは信じられないほどいい夫だって、誰かから言われたことがあるわ」
「いい夫というわけじゃない。実際、今の本当の気持ちは腹がたって気も狂わんばかりさ。でも君を愛しているから、冷静になんかなれない時でも、がまんして冷静にふるまおうとしているんだ。知りたければ言うが、最悪の気分だよ」(35-42頁)

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