のんびり生きる。

のんびり生きる。

猫にはユーモアのセンスがない


ベルがまさにその失敗をした。彼女はピートが好きだというところを見せようと、彼を犬を扱う手つきで扱おうとした結果――いやというほど手をやられたのだ。引っ掻いた後、ピートは、利口な猫らしく、ひらりと外へ飛び出したまま、しばらく帰って来なかった。おかげでぼくは、ピートを折檻せずにすんだ。ちなみにピートは、少なくともぼくからは、一度もなぐられたことはない。猫は忍耐をもって訓練すべきものでこそあれ、なぐってもなんの役にも立たないのだ。
...
「...しかし、きみの可愛がりかたは、犬の可愛がりかたで、猫のじゃなかったんだよ。猫の場合はたたいたりしちゃ絶対にだめだ。撫でてやらなきゃいけないんだよ。それに猫の爪の届く範囲で、急激な動作をしてもいけない―つまり、こっちがこれからなにをするかを、猫に理解するチャンスをまず与えてやらなくちゃいけないんだ。しかも、猫がこっちの愛撫を望んでいるかどうかが問題だ。望んでもいない愛撫を与えようとすると、つまりそれは、いささか礼儀にはずれたことになる。猫はとても礼儀を重んずる動物だからね」といってぼくはためらった。「ベル、きみは猫はきらいなんだろ?」
...
「かれだよ。ピートは牡猫だ。いや、とくに神経質じゃないよ―いつも、大事にされつけているんだからね。猫を笑うことも絶対にいけない」
...
「猫はけっして面白くはないからさ。彼らは滑稽なんだ。しかし、彼らにはユーモアのセンスがないから、それが彼らを怒らせるんだ。もちろん、笑われたからといって引っ掻きはしない。ただ、向こうへ行ってしまうだけだが、あとで仲直りが大変になるんだ。しかし、それは一番大切なことじゃない。一番大切なのは、猫の抱きあげかただよ。やつが帰ってきたら教えるよ」
              (53頁)
彼女は、例の”ママはなんでも知っている”調の甘い口調で、猫を私有財産とかんちがいしている連中の必ずつかう陳腐な言葉を羅列してぼくを説きふせようとした―それが、彼にはなんの害も与えないこと、それが彼のためにこそなれ、悪いことはひとつもないこと、ぼくが彼をいかに愛しているかは、わたしが一番知っている、だから彼をぼくから取りあげようなどとは、これっぽっちも思っていないこと、それが、どんなに簡単で安全で、おまけにどんなにみんなのためになるかということなど::

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