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七月、そして八月にかけて、ハワイの仏教寺院の境内は連日『ボン・ダンス』で賑わう。ボン・ダンスとは盆踊りのことである。日本では、盆踊りはとくに仏教寺院との関係を意識されないが、ハワイでの盆踊りは、お盆の先祖供養行事の一環として行なわれている。各寺院でのボン・ダンスの日程が重ならないようにと時期を少しずつずらしてやるから、この二ヶ月間は、ほとんど毎日のように、どこかでボン・ダンスが行なわれていることになる。
ボン・ダンスには若者もやってくる。日系人ばかりではなく、いろいろな人種の人たちも踊りの輪に加わってくる。やぐらの上からは威勢のいい太鼓が鳴り響き、日本のリズムが流れる。祖父そして父親から見習ったというフクシマ音頭はマウイ島のケイ フクモトさんが中心となって復興、盛んになった。グループの名を、『マウイ太鼓』という。戦争に負けた日本の血を引く日系人の心の復興を願い、戦後間もなく復活したという。そのリズムは、相馬盆歌とも三春盆踊りとも似ている。「それも最初は周囲に気を遣い、小さな音で練習をしていた」とケイは笑いながら話してくれた。やはり日本が敗戦国だということが、頭にあったという。現在はハワイと福島県の各種の団体とも、広く交流を重ねている。
『九十周年式典に参加した有志・約四十人で、福島県知事へのお礼を兼ねて福島県を旅行したいので・・・』という協力要請であった。
——さあ大変!
急遽私と、福島市に住みホノルル福島県人会会員でもある森口マリアンさんと、『いわきハワイ交流会』の鈴木常雄氏の3人とで連絡を取り合い、計画を立てはじめた。そして翌年の四月、ハワイから県人会のメンバー約40名が、十日間の日程で福島県へやって来たのである。
四月十一日、彼らは県庁で佐藤知事と会見、次のような話を頂いた。
「ハワイから三十人以上のグループで、しかも十日間も福島県に滞在されるのを歓迎します。放射線被害を受けた福島県ですが、あなたがたが来られたそのことだけで、農産物など食物についても安全だと世界に知らせることになります。福島県に対しての風評払拭に大きな力になるあなた方のふるさと訪問旅行に感謝します」
さらには、行く先々で、次の方々のご挨拶を頂いた。
松本友作 前福島県副知事。南相馬市副市長。伊達市副市長。郡山市市長夫人。三春町長。いわき市副市長。
この十日に渡る旅行の間には、若干の行事があった。福島県知事を表敬訪問し、郡山の県農業センターで放射能の勉強をし、福島市の桜の聖母女子短大やいわき市の『いわき海星高校』を訪問して寄付をしてくれた。その他にも、来日前に依頼のあったメンバーのルーツ探しに協力、依頼のあった次の四人全員を捜し当てることができた。そのうちの三人を親戚に会わせ、墓参りなどしていただけたが、残念ながら日本側の一人だけは都合が悪く、会わせることができなった。
Kenneth Akasaka 桑折町 赤坂恒雄
Dave Sharon Ansai 三春町 安斉芳夫
Mel Yvonne Watarai 三春町 (渡会)松井邦雄
Aurleen Kumasaka 二本松市 (熊坂)山本正一
今回のツアーには、帰布二世でホノルルでの取材にも応じてくれたヒロシ ヨシダが、彼の息子のロナルドと一緒に参加していた。帰布後はじめての福島訪問であったと言う。彼らは、森口マリアンの父と弟である。
会津芦の牧温泉の和室に一泊したとき、私は彼らとロイさんと5人の相部屋になった。ヒロシはその旅行の間、ハワイで私の取材に応じていたにも関わらず、『帰米二世』の話を一切しなかった。私もまたそのことを口にしなかった。そして彼は何十年ぶりの帰郷であるのに、日本が、福島が変わったという話もしなかった。したのは、子どものときの話だけであった。それは故郷の川の話であり山の話であった。彼は私に同じ話を何度もするので、娘のマリアンが「それは先程、橋本さんに話したでしょう!」と言って止めさせようしたが、私はそれを手で遮った。私は彼の表情に、厳しさを感じたからである、その厳しさは、『帰布二世』として、そしてあの戦争を差別の中で耐え抜き、そして生き抜いた者のみが持つ、厳しさであったのかも知れない。この旅は、帰布二世の芯の強さ、そしてそれを受け継ぐ三世や四世たちの愛郷心の強さを改めて感じさせられる旅でもあった。
最近そのヒロシから、嬉しいメールが届いた。それには、『ホノルルに住んでいる孫娘に赤ん坊が生まれて自分は曾祖父になったこと。彼が中心になって、福島旅行の際に三春デコ屋敷で習い覚えたあのユーモラスな「ひょっとこ踊り」をみんなで楽しんでいる』ということなどが書いてあった。戦後70年にして、ようやく彼は帰布二世としての心の葛藤から解放されたのであろうか。私は、そうであって欲しいと願っている。そして彼ら帰布二世に限らず、このように行動力のあるハワイの日系人を見て、日本に住む我々も、彼らが望む絆を大事に繋ぎ止めなければならないのではないかと考えている。
終
帰米二世=あとがきと参考文献 2017.03.21
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