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2009.04.05
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カテゴリ: びしびし本格推理
島田荘司の”御手洗潔じゃない方の主人公”吉敷刑事の総決算と言われている作品の上巻を読んだ。

○ストーリー
加納通子は「龍臥亭事件」の後でも悪夢にさいなまれていた。その原因が自分が封印した記憶にあるという可能性に気付き,彼女は故郷・盛岡での生い立ちを振り返る。一方で,通子の元夫である吉敷刑事は偶然知り合った婦人の夫が,冤罪と思われる状況で30年以上拘束されていることを知る。その事件を調べ始めた吉敷がたどり着いた場所は盛岡だった。

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島田荘司の「吉敷刑事シリーズ」を読み切るにあたり避けて通れないのが,「加納通子モノ」とも呼ばれる元妻・加納通子が登場する作品群だ。それらは「北の夕鶴2/3殺人事件」(85年刊行),「羽衣伝説の記憶」(90年),「飛鳥のガラスの靴」(91年),御手洗潔作品に属する「龍臥亭事件」(96年),そして「涙流れるままに」(99年)だ。

加納通子は吉敷刑事の元妻であるが,吉敷の方は今でも彼女のことを忘れられない。けれども通子の方では,罪とヨゴレに満ちた自分の過去を,吉敷は受け入れきれないだろうと思っている。そうした”昭和演歌”の関係にある2人なので,通子が登場する作品では吉敷刑事の行動がおかしくなって作品もヘンになる,ということで島田荘司のファンの中でも何かと評判が悪いのが「加納通子モノ」だ。

若いファンの要望によって華麗な過去が創作された御手洗潔とは異なり,ファンがどんなに呪っても加納通子とのしがらみを断ち切れさせない吉敷刑事とは,作者・島田荘司にとってはどんなキャラクターなのだろうか?自由にできないということは,血の通った人物として島田荘司の中に位置づけられているのではないか?とそう思う。

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この作品は「加納通子モノ」の集大成であり,読者に多大なる忍耐を要求する。上巻440ページを読み終えた段階で,「北の夕鶴」の過去編の部分と「羽衣伝説」の内容をカバーしている。それだけでなく通子の辛く混乱した青春を事細かに描写する。さらに吉敷刑事が主人公であるパートでは,この頃に島田荘司が取り組んでいた冤罪事件問題がテーマになっており,重苦しい筆遣いである事件が語られる。



これはもうほとんど踏み絵のような作品じゃないかと思う。「御手洗潔シリーズ」に惹きつけられた読者にはひどく高いハードルだろうし,「吉敷刑事シリーズ」ファンでも「加納通子モノ」だけはダメと宣言している人もいるので決して楽なゲートではないと思う。

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こうして書いてみると,この作品は本格ミステリーでも社会派ミステリーでもなく,人間を描いたひとつの文学作品なのではないか,という気がしてならない。










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Last updated  2009.04.06 20:32:45
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