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2009.08.24
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カテゴリ: びしびし本格推理
数多い島田荘司作品の中でも傑作と名高い作品を読んだ。

○ストーリー
記憶を失くし,過去も不明な中年男性エゴン。彼が書いたファンタジー童話『タンジール蜜柑共和国への帰還』には,巨大な蜜柑の樹で暮らし,空を飛ぶ妖精たちが描かれていた。そこでは飛行機は人工筋肉を持ち,一方で妖精たちはネジ式の関節を持っていた。不思議なファンタジーとしか思えない作品から,御手洗潔は真相を読み取り,そこからはエゴンの過去の大きな謎が浮かび上がってきた。

---------------

島田荘司作品の読破にチャレンジしているわけだが,大作も多いので,中には手に取っただけでゲッソリしてしまうものもある。長さを感じさせない作品もあれば,そうでもない作品もある。大作続きの1990年代初頭から比べると,2000年代に入ってからの作品はやや短いのだが,「ネジ式ザゼツキー」は,久々の600ページ超えだった。

だが,この作品は抜群に面白い。エゴンという記憶障害の患者と御手洗潔の出会いが語られるが,エゴンの行動が謎に満ちていて興味を引く。直後にエゴンが書いたとされる作中作『タンジール蜜柑共和国への帰還』が始まるが,この作品はファンタジーとしてもカラフルなイメージにあふれていて楽しめる。

そこから現実世界に戻った後,御手洗潔による『タンジール蜜柑共和国』の解題が始まるが,このパートは知的好奇心にあふれていて,興奮が抑えられない。フツーはそこで終わりなのだろうが,そこからいよいよミステリーが始まり,と物語は続く。

作品の構成そのものが,短編と中編を4つほどつないでいるようになっているので読みやすい。それが上に書いたように,まずは謎編→ファンタジー→ファンタジーの謎解き→過去の事件の発覚→解答編となってつながっており,終わってみれば見事な一本の長編になっている。

この作品を読んで,「1本取られた」と思わない人はいない,と断言できる。



つくづく感じるのは,物語の豊かさだ。この頃の島田荘司の作品の特徴の1つでもある旧約聖書のエピソードの引用があり,アジアのある国の文化についての考察があり,ロマ族の音楽への称賛があり,と,作品世界を奥行きのあるものにするために必要な,作者の豊富な知識と感性が,このある意味アクロバティックな作品を成立させる1つのキーとなっている。

冒頭から結末まで,ある意味知的なジェットコースターに乗っているようなものなので,読み終えた時は,長い旅をしたような感覚になる。実際に作品の中で,距離も時間も探索するので,その感覚がますます強くなる。

ただ,最後に立ち返るのは人を信じる心のところだ。ねじれ切った物語が解明され,いくつもの不幸が明らかになるが,それでも爽やかな気持ちになれるのは,登場人物たちが相手を信じる気持ちを失わなかったからだろう。

島田荘司は相当のひねくれ者みたいだし,一時期の刊行物は人気に便乗したような商品もあったが,こうしたエンディングを書ける,というのは,気持ちは真っ直ぐなのだろうと思う。

読んで損はないと思う。

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「あとがき代わり」というふれ込みのエッセイが巻末に付属している。マンハッタンというより近代と現代建築の様式とあるものを比較したエッセイなのだが,この傑作の巻末には不要だと思った。








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Last updated  2009.08.25 00:05:17
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