「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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Rainbow Seeker
その6
その6
次に左側に大きなルーブル宮が見え始め、それが視界から消える頃にまた
一つの橋の下を渡る。それがポン・デ・ザール、つまり芸術橋である。さり
げない目立たない橋であるが、ここから見るシテ島の構図が素晴らしい。次
に見える橋が「新橋」の意味のポン・ヌフである。この橋の近くに「新橋」
という名の日本料理店があった。初めてパリに着いてまもない夜毎、ともか
く実によく歩き回った。見るものすべて新鮮で一つ残らず目の奥に焼き付け
る思いでしっかり見て歩いた。孤独を払いのけるように歩き続けた。腹をす
かして狭い石畳の歩道をひとり歩いていると、ふとある日本料理店にぶつか
った。店頭のメニューを見ると値段がかなり高かったので中に入らなかっ
た。その店の名が「新橋」だった。
ここからシテ島によって、セーヌ河が二本に分けられている。船は右手を
上っていく。前方に思い出深いサン・ミッシェル橋と同時に左手にノート
ル・ダム寺院が見え始めた。この橋の上から前回の旅の最後の夜、派手やか
なライトを左右の建造物に当てながら、たくさんの観光客を乗せたバトー・
ムーシュが通過するのを見たのを何とも言えぬヨーロッパの哀愁とともに思
い出す。橋の上の若者が声をかけあったり手を叩きあったりしていた。いつ
またこのVIVIDでいつまでも若々しく華やかで魅惑的なパリに来て、こ
の中の一員になれるのだろうかという思いだった。
このサン・ミッシェル広場とかサンジェルマン・デ・プレ辺りでは、夏場
の夕暮れ時の9時頃になるとサックソフォンを首にぶらさげた国籍不明の若
者がカフェの前でいきなり吹き始める場面や、三人でトリオを組んで簡易な
楽器でジャズを演奏している光景などがしばしば見られる。まさにBORD
ERLESSな世界が音楽、美術を通してごく自然に繰り広げられるのであ
る。この様な良い雰囲気を持った街はパリだけだということは、後にロンド
ン、ローマ、デュッセルドルフ、コペンハーゲン(この駅から遠い方のユー
スホステルは青春の旅を彷彿とさせる独特の雰囲気があるが)、ストックホ
ルム。ヘルシンキ等を回って初めてわかったのであるが。仏語、英語、独語
による案内をしながら船は進む。
後ろから見るノートルダムがこれまた正面に負けず劣らず趣がある。しば
らくサン・ルイ島沿いを進み、船はUターン気味にサン・ルイ島と右岸の間
を下り始める。葉と落としたマロニエやプラタナスに囲まれたどれもこれも
由緒ある古い6,7階の建物を左に見ながらどんどん進み、船はシテ島にあ
る革命裁判所の控室として、断頭台に消えた2600の貴族、革命家が最後
の時を過ごしたコンシェルジュリーに近づく。円筒にとんがり帽子のついた
感じの一見お城に見えるこの建物ほど一度見たら忘れられない形はない。
風がますます強まり寒く感じたので1階の室内に移ってガラス越しに見物
することにする。船はピッチを上げ元のアルマ橋の船乗り場を通り過ぎ、エ
ッフェル塔も通過して自由の女神目指して一目散に進んだ。フランス・ラジ
オの近くの細長い人口島の南端に、あのアメリカの独立百年祭にフランスか
らプレゼントされたニューヨークの自由の女神よりはるかに小さいそれがあ
る。原像は私はまだ見たことがないのだが。リュクサンブール庭園内のどこ
にあるらしい。書いている今そのことを知ったので、今度来訪の機には探し
当てることにしよう。
自由の女神を見ながらUターンすると、眼前にあの鉄をふんだんに使った
エッフェル島が実に美しいバランスでパリ独時の何と言うかブルーと濃いグ
リーンがかった灰色っぽい色あいで堂々と立っていた。そう言えば、あのパ
リの屋根のトタンの色。即ち先ほど言ったブルーとモスグリーンの合わさっ
たような色と、その上に並ぶ茶色の煙突群ほどパリらしい光景は他にない。
もっともエッフェル塔も近くで見ると珈琲色の落ち着いた色をしているが、
このUターンしたあたりが写真の構図として絶好なので、皆思い思いにシャ
ッターを押す。エッフェル塔の真ん前のイエナ橋を過ぎてしばらくすると、
元の船着場に到着した。セーヌ河の遊覧も終え、一旦予定通りホテルに戻り
休憩した。
6時半を回った頃、夕食を取りにクリーシー広場へ向かって夜の街を歩
く。途中で娘がダッコを要求したので胸に抱いているうちに私の肩の上に顔
をのせてこっくりこっくりやりだした。20分ばから歩くと7本の道が集ま
っている賑やかなクリーシー広場に着いた。確かに赤いテントの下オレンジ
色にイリュミネーションされたレストランが多数通りに面して立ち並んでい
る。一通りぐるりとどの観光客もするであろうところの店内の様子とメニュ
ーの視察をし終え、ステーキが中心の65フランの定食風メニューと店内の
雰囲気の良さに誘われて、とあるレストランに入ることにした。
入るとすぐ若い女性のウェイトレス来て、入ったすぐ左のガラス一枚を隔
てて通りの見えるテーブルに娘を抱いた私と妻を案内した。娘は食事の間ず
っと寝ていた。日本を発って以来の一連の移動で疲れたのだろう。起こして
みたが一向に目覚める気配がない。熟睡している。大切な食事の時に困った
ものだと思ったが、ホテルに帰れば一応日本から持って来た小さい方の「ど
んべえ」数個とティーパックのほうじ茶があるので、今晩は何とか凌げると
思って寝かしておいた。
しばらくすると、チーフ格のウエイターが現れ子供の寝ているのを気づか
ってくれて奥の背もたれのあるテーブルに移るように示唆してくれたので彼
の指示に従った。先ほどのテーブルよりもライトの加減もよく、いい感じの
場所だった。娘を寝かせ、注文の品は決まっているが一応メニューを見る。
飲み物、コーヒーは付いていないので小ビンのワインを一本と食後のコーヒ
ーを店頭のお勧めディナーに加えてオーダーした。最初のウエイトレスが私
達のテーブル担当でまずサラダを持って来た。その後生ガキが大きな皿の上
に並べられて出てきた時、少し驚いた。なぜならあのふっくら膨らんだ、普
通日本では食べる黒っぽい部分が全て取られてなかったからである。レモン
をかけて食べたが随分食べる部分が少なく感じたが、味の方はまあこんなも
んだろうってところだった。
次に出てきたステーキはこれは流石メインでとてもおいしかった。焼き加
減といい(二人共ウェルダンで頼んでおいた)胡椒加減といい、言うことな
し。流石フランス料理! アテネで食べたテキサスステーキとは大違いだ。
看板のバカでかい絵につられ店に入ったが、大きさもごく普通だし味もたい
したことはなかった。何事も大きく言うTALL TALE(大ボラ)好き
のテキサス人的表現にまんまとしてやられたような気がしたものだ。それか
ら、どのような物だったか忘れたがデザートが出て最後にカフェをゆっくり
いただいた。パリでコーヒーと言えば普通エスプレッソのことで小さいデミ
カップで出され、どこで飲んでもまず当たり外れなくたいへんおいしい。こ
の店のも例外ではなかった。勘定を済ませ(合計330フラン...1フラ
ン23円位)感じよく給仕してくれたので適切な額のチップをテーブルに置
き、再び娘を抱いてオールヴォアー!(さようなら)と言って店を出たのは
8時半を回っていたように思う。
315号室(トロワソン カーンズ)のクレ(鍵)をもらって例の開きに
くい錠前を開ける。その頃には娘も目覚め空腹を訴えていた。早速出番を待
っていたナショナルの電熱ポットで前もって買っておいたVITTEL水を
沸かし、「どんべえ」を作り娘に食べさせた。おいしい、おいしいと言って
ペロリと食べた。パリ到着二日目にして早くもどんべえのお世話になったわ
けである。私と妻とは熱いほうじ茶を飲んでゆっくりとくつろいだ。おかき
のようなものも食べたと思う。やっぱり熱いお茶は最高。重くてもやはり電
熱ポットを持ってきて正解だった。
しばらくしてバスタブにお湯をはって今晩も又あの気前良すぎるシャワー
を浴びた。本当に癪にさわるシャワーだ。今度はなかなか寝付けない娘がや
っと寝息をたてた後、妻と今日一日の印象や明日のプランについて話し合っ
てから私は奥にある昨日と同じ結構寝心地の良いベッドに横たわり、日本か
ら持ってきた新聞を読みながら「そうだ、私達は今、日本列島ではなくヨー
ロッパ大陸の中心都市パリにいるんだ。明日も早く起きなきゃ」と遥か東方
にある着物を着た女性が横たわっているが如きJAPANを思い描きながら
ライトを消した。
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