絶対幸運圏 ~憩~

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2005/12/20
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カテゴリ: 小説更新日


――刮目せよ、汝が前に立ち塞がりしは一騎にして万軍の力を持ちし異能。



 その眼差しは万里を貫き、その意思は億の悪意にも染まらず。

 悠然と、銀の長髪を風に揺らし、身に纏し鎧は一点の曇りのない純白。

 見据えるは地平を遥かに覆い尽くす≪魔種≫の群れ。いや、それはすでに群れではなく奔流。無数の“個”が一つとなりて万物を呑み込もうとする、悪意の津波。

 果てを見ることはかなわず。ともすれば半刻を待たずして全てを覆い尽くすだろう。

 だが……だがそれは、ある一定の地点を境にぱたりと途絶えていた。

 まるで白と黒の境界線の如く、混じりあうことなく線引きされたその場に、彼女はいた。


―― ギチ、ギチと音がする


 戦力差は絶望。それを迎え撃つは無謀。しかし彼女は退かず。恐れることなく臆することなく前を、前のみを見据える。

 彼女にはそれを御するだけの実力があるのか、否。彼女はある一つの役割があることを除けばその力は普通の女性とさほど変わりはしない。



 故に、彼女にはこの無数に存在する≪魔種≫を滅ぼせる。


―― ギチギチと、不快な音がする


 その胸に秘めるものは一抹の懺悔。

彼ら ・・ はただ滅ぼされるためだけにここに集められた生贄。

 後悔はない。彼女はそれを成さねばならないのだから。

 無念はある。なぜ自分が選ばれたのかと、なぜ自分でなければならないのかと。

 そして、彼女は罪を背負う。決意を表すかのように大地を踏みしめ、怯むことなく前だけを見据え、未練を断つかのようにその手を掲げる。


―― 自らの心が感情に揺さぶられることなきよう、ギチギチと心を閉ざす音がする


 彼女の名は、アリステス=イスファニア。

 “ 世界 ヴアータ 王国 マルクト ≫に座する 十天聖 じゆつてんせい

 そして、この愚かしくも尊い偽りの≪ 崩壊戦役 クライムダウン ≫の立役者――“聖英”と呼ばれることとなる戦乙女。



§◆◇◆§


「此度の戦の大勝を祝して!」

「イスファニア家に無窮の祝福を!!」
「乾杯!」
『乾杯!!』

 セリティア大陸北部にある騎士国家――クライン王国。その北方地区の片隅に彼女、アリステス=イスファニアの生家であるイスファニア子爵家は慎ましくその居を構えていた。

 慎ましくとは言っているが、瀟洒なレンガ造りの外観を持つ白亜の館は、それなりには大きことから館の主はそこそこの地位にいるのだろうということが伺える。

 実際は王家付きの爵位を持つ家ではあったがその歴史はまだ浅く、また実績もそれほど持たない中流貴族の一族になるのではあるが……。

 ―― 閑話休題 それはさておき

 そんな新進気鋭の貴族であるイスファニア本邸では、そんな事実はどこ吹く風と一族が総出になってこの場にはせ参じ、戦勝祝賀会を催していた。

 その会場である大ホールでは、その場にいる誰もが華美に着飾り、談笑に花を添えながらワインのグラスをあおり、豪華な料理に舌鼓を打っている。

 宴は大いに盛り上がり、誰も彼もが浮かれ、自分たちに訪れた幸福を――自らの身内に十天聖という選ばれた存在が現れたことを、そしてその人物が一族をより繁栄させてくれるだろうという事を誰はばかることなく喜んでいた。


 ――ただ一人を除いて。


 そのただ一人、アリステスはその美貌を一層際立たせるラ・フィ調の純白のパーティドレスに身を包みながらも、不機嫌そうな顔を隠すことなく壁に寄りかかり、この宴をつまらなそうに眺めていた。

 本来ならばこの祝賀会の顔とも言うべき彼女だったが、『気分が優れませんので』と言う理由で挨拶回りを辞退し、だが顔だけでも見せておけと言う父親の面子の為にこうしてここで不貞腐れているのだ。

 それをみた貴族の子息どもがここぞとばかりに彼女を心配しているようにさも見せかけ、あわよくば取り入ろうと声をかけてきていたが……今のところ全戦全敗。全てアリステスの無言の姿勢に耐えられなくなりその場を後にしていった。

 (まったく……お父様もそうですが皆浮かれすぎです。気を抜くなとは言いませんが、もう少し やりよう ・・・・ というものがあるでしょうに)

 それが、アリステスにはお気に召さなかった。

 あの惨状。あの悪意。あの眼差し――思い出す全てが心を砕く怨嗟となって拭い切れない泥のように身に纏わりつく。

 それを知らずして何の祝賀か、こんなことをしている暇があるならば一つでも多く“彼ら”をどうにかする手段を考えていたほうがまだ実益があるというもの。

 今回はまだ運がよかったほうだ、“彼ら”はまだ生まれて間もなかった。だから彼女 程度 ・・ でも勝つことができた。だがもし、アレ以上に強大な≪魔種≫が同じ数だけ現れたらと思うと――

 その考えに至りそうになって、慌ててアリステスは かぶり を振ってその思考を隅へと追いやる。

 (だめ――そんなことは絶対にさせない。そうなってしまったら“あの子”は……)

 彼女にはその覚悟があるからこそ“彼ら”と戦い勝つことができた。だがここにいる者たちはどうだろうか、戦う力がないとは言わないが、それでも彼女と比べると明らかに惰弱。

 一線級の騎士の姿も多数見られるが、それでもまだ足りない。

 それなのに彼らはこうして今は全てを忘れようと酒宴に明け暮れている。

 それが、更にアリステスの機嫌を悪くしていった。

「よぅ、お ひい さん。えらい不機嫌じゃねぇか」
「あら、オルス…?」

 そんな氷点下の状況の中、この場に似つかない 葬祭用 ・・・ のくたびれた礼服を身にまとった無精髭の大男がアリステスに声をかけてくる。

 男の名はオルス=クランベル。アリステスと同じ十天聖であり、≪ 勝利 ネツアク ≫に座する西方騎士団一の 問題児 おおざけのみ

 粗野粗暴の代名詞であり、個人的な諍いで騎士団長に呼び出されることは毎夜のこと。

 さらには以前一度だけではあるが直接王城へと乗り込み、自分たちを“戦う道具”と卑下した大臣を一撃の下にのしたという前科もある。

 これに関しては騎士団員全員から喝采が上がったが、流石に相手が悪い。

 十天聖で無ければとうの昔に騎士団を除名され、無職街道はおろか縛り首にされても文句が言えないような男だろう。

 だが、アリステスはこの男を少なからず好いていた。無論、それは愛情などではなくただ単純に誰に対しても裏表が無いこの男の心意気に対して、と言う意味ではあるが。

 今まで不機嫌だったアリステスも、オルスの明け透け無い態度に相好を崩し、その手の中にあるワイングラスを受け取る。

「ありがと。でも珍しいわね 貴方達 ・・・ がこんな場に来るなんて」

 その言葉に、オルスの背後から一人の小柄な少年が顔を見せた。

 年のころは12、3だろうか、利発そうな表情としみ一つ無い肌、癖の無い金髪がいかにも育ちのよい可愛らしい少年と言う感じを表していた――が、その身を包んでいる 真っ黒なローブ ・・・・・・・ が全てを台無しにしていた。

 いかに可愛い少年だろうと、これでは誰もお近づきにはなりたくならない。ある意味それを狙ってのこの格好なのかもしれないが……

 その少年は、アリステスの前に進み出ると軽く一礼をし――

「今晩は、アリステス様。今日も良い してますね、どうです今夜あたり、ボクと甘い一夜の想い出でも?」

 ――場が凍った。

 近場で談笑していた貴婦人も、遠くでこちらを伺っていた貴族たちも、誰一人漏れることなく時間が止まったと錯覚できるほど動きを止めている。

 唯一給仕の手の中にあるトレイ上のグラスだけがカタカタと震えていたが、一つとして取り落としていないあたりは流石と言えるかもしれない。

 その様子を見たアリステスは、気付かれないようにプッと吹き出しながらも、この愚か者たちにわずかばかりの仕返しをすることに決めた。

「お生憎様。私に 少年性愛 シヨタコン の気は無いわ。100年経ったら出直してきなさい」
「あはは、やっぱり……わかりました。今夜は貴女以外にも 美味しそうな獲物 はたくさんいるみたいですから、そっちで我慢しておきます」

 (獲物ってなんだ獲物って――!)

 奇しくもその場にいたほぼ全員の思考が一致する。

 だが誰も動けない。たぶん、動いたら真っ先に標的にされる。“何に”とはあえて言わないが。

 ここに、アリステスの仕返しは成った。

 してやったとばかりに苦笑しているアリステスに、少年も同じような笑みで返す。

 その少年の名前はマゼット=ローア。

 アリステスやオルスと同じく十天聖、≪ 王冠 ケテル ≫に座する 宮廷法術士 セクハラこぞう

 性格は大いに破綻しているがその反動なのだろうか、実力は非常に高く、オルスと二人一組での“覇軍”を率いる戦いでは 第十座 マルクト であるアリステスをも凌ぐほどの 規格外 デタラメ になる。

 そんな彼らであるからこそ、尊敬よりも畏怖や敬遠の眼差しを向けられる機会が多く、こういったパーティーなどの人が多く集まる格式ばった場は忌避する傾向が見られた。

 それなのにこの二人がここにいると言う事実。それがアリステスには物珍しく思えた。

「なに、俺ぁ酒が飲めれば どんなところにでも ・・・・・・・・・ 出向くゼ?」
「ボクは…… 野暮用 ・・・ かな?」

 アリステスの考えでも読んだのだろうか、そういって二人は小さくアリステスに対して目配せをする。

 それだけで、彼女はこの彼らがここに出向いた訳を理解した。

「はぁ…貴方達ときたら……良いわ、ここではなんでしょうから別室に酒肴を用意してあげる。ついてらっしゃい」

 そう、微かに笑みを浮かべきびすを返し、いまだ固まっている父に『少し席をはずします』と伝えると、静かにホールを後にした。










* To be next *





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最終更新日  2005/12/20 08:41:11 PM
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