rirical world

rirical world

ベルばらにおける愛のかたち


 年季の入ったファンの方からは、年を取るにつれて「親子愛」にぐっとくるようになった、という意見も多いのだ。子を思う父心、母心、とかね。

 とはいえ、ゴージャスで華麗なあの絵柄は、なんといっても恋愛を描くのが一番しっくりくる。
 池田先生の描き方で目立って特徴的なのが…身体表現を、ネームに取り入れてみたり、大胆なコマ割りを使ったり擬音で描くところだと思う。感覚重視というか。あとは、翻訳者の池内修氏が「死の匂いがする黒の背景」を多く使っていると分析していたのも、すごく納得がいく。
 メインカップルを見ると…オスカルは喀血性の病らしいのが示唆され、アンドレは失明の危機が近づいていて、二人ともその事に気付きながらお互いに告げない。そして明日がどうなるか分からない、文字通りの極限の状況下でも、希望を捨てない。まるで、死を看過した先を見据えているようですらある。
 個人的には、ここが一番の白眉だと思う。

 男性として育ったゆえの奥手で、軍服にずっと身体を閉じ込めてきたオスカルが、本当の恋で一気に女性として覚醒していく姿が好きだ。まるで与謝野晶子の世界を体現してるかのように官能的で、美しい。それでいて、遅れてきたセクシュアリティの噴出に戸惑っているのも、人間くさくてカワイイのだ。その制御できない感がとてもリアルなので、女性だったら絶対に共感できると思う。
 でもって、オスカルを開かせたアンドレが、長年尽くして来た親友のような存在なのも素晴らしい。彼女達の関係は「赤毛のアン」の二人にもちょっとだけ似ていて。幼なじみで、気心が知れてて、ギャグも通じてどんな話題でも話せてどんな時も支えてくれて。その上、彼は長年彼女に片思い…という流れだ。アンドレはいつも草食系のごとく穏やかで優しいのに、実は肉食系であるというのがツボである。オスカルの言う事を聞いてくれるだけじゃなくって、ここぞという時は怯まずに強引にさらってくれるのだ。
 ここのあたりは、いつも一方的に尽くされるだけじゃーつまらんなぁ…という、ワガママかつ矛盾した女性の願望を見事に突いている。
 オスカルの愛され方は、ホントに女性の理想ではないかしらん。

 そして未だにこのカップルが人気があるのは、ひとえに蜜月時代が短かったこと、描写に余白が多いこと、性的な面にまで踏み込んで描いた点にあると思う。これが、プラトニックで終わっていたら…読者へ与える印象がかなり違っただろう。読者層に小学生もいる週マなのに、やるなぁ。PTAの父兄の抗議にも屈しなかったという当時の編集長が素敵だ。

 ここらへんの解説は、かの田辺聖子先生が大変すばらしい分析をなさっていて…。
「ほのかに白粉の匂い」今は古本になってるみたいだけど、興味のある方は是非一読を!









© Rakuten Group, Inc.
X

Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: