青い島のひだまりで

タイムカプセル



 この作品は、1999年ころに書きました。
 1999年という年は、わたしのとっては、子供のころから大きな意味をもつ年でした。そう、ノストラダムスの大予言。1999年が過ぎないと、その後の 人生なんて考えられないって正直思っていました。もしかしたら2000年は来ないかもしれない。それがどうでしょう。まだ地球は滅亡していないし、わたし も生きています。そんな1999年をテーマに書いてみたいなと思ってできたのがこの作品です。
 これもどこかに応募したようなしなかったような…。5年もたつと記憶も薄れます。

不思議な力をもつヒカル。25年がたった1999年、動物園での写生大会で、不思議な出来事はくり返されます。封印してあったタイムカプセルを開けてし まったばかりに…。


タイムカプセル

 ボクは、オウム。
「コンニチハ、コンニチハ」
 毎日、動物園のオリの中。一坪のコンクリートと鉄格子に囲まれた鳥小屋が、ボクの住処さ。
 今日は、小学生が写生に来ている。
「こんにちは!」
「コンニチハ、コンニチハ」
「わぁ、こんにちはっていうよ!」
 ボクの前に、子供たちがむらがってきた。
……マモル?
 ボクは、集団からはなれたひとりの男の子を見つめた。マモルのわけがない。マモルは、もうかれこれ二十五年くらい前、子供だったのだ。  子供たちは、ちらばって写生をはじめた。あいかわらずパンダやコアラは、人気者だ。
「コンニチハ、コンニチハ」

 男の子が寄ってきた。ボクは、ハネを逆立てて、頭の冠も少し広げて歓迎した。マモルに似ているから。  男の子は、鳥小屋のはしに落ちていたりんごのかけらを差し出してくれた。
 ボクがくちばしでくわえた時だった。

……マモル? ぼく?ヒカルだよ。
……わかるの?ボクのことばが?

ボクは、驚いて翼を広げた。
男の子は、野球帽をひさしの奥で、大きな目をぱちくりさせながらうなずいた。
ボクは、テレパシーで話ができる。人にふれると、その人の心を感じとることだってできる。マモルも、テレパシーが使えた子供だった。

……マモルは、ぼくのパパ。
……そうか。二十五年もたつもんな。マモルはどうしてる。
……パパは、死んだ。自殺したんだ。

自殺。マモルは、自分のもつ力に耐えられなかったのだろう。
……ぼくもパパと同じだよ。
ヒカルにふれた時にわかった。

マモルは、不思議な力をもつ男の子だった。人の心がよめたり、未来のことを予言できたりする力があった。そのために、ひとりぼっちだった。仲間はずれにさ れたり、クラスメートの心がよめてしまうことで、マモル自身がどう思われているかもわかってしまったのだ。マモルは、よく動物園にやってきて、ボクに語っ ていった。 一九九九年、マモルとの約束の日がついにきた。

……マモルから話は聞いたかい?
……なんの?

ヒカルは、ぽつんとひとりぼっちで、足を投げ出してすわった。大きな画板にむかって、鉛筆で下絵を描きだした。 二十五年前の夏。マモルは、『うそつき』といじめられていた。ヒロシの飼っている犬が死ぬと予言したのだ。予言してから、一週間も二週間もなにも起きな かった。 マモルは写生大会の日、今のヒカルと同じようにボクの前にすわって絵を描いていた。『うそつき』と連呼するクラスメートに囲まれ、もみくちゃにされてい た。 画用紙が、大きな音とともに破かれたとき、マモルは叫んだ。
「一九九九年の夏、ヒロシは死ぬ!」
「また、うそいってらぁ」
「うそつき、うそつき!」
「マモルのうそつき!」
ボクの前でマモルは泣いていた。

……人の不幸は、口にしない方がいいぜ。どうせ信じちゃもらえない力なんだから。

キキッー。
車の急ブレーキの音とともに、ボンというような音がした。表通りが騒々しくなった。 同じことが、二十五年後に起こる。 ボクにも見えた。 マモルは、ポケットからプラスチックの丸いケースをとりだした。 二十五年後に取り出すぼくの念。

……マモル、人を憎んだり恨んだりして生きるのはつらいことだぜ。
……わかってる。これをあけなければ、ヒロシは死なない。でも、ヒロシの代わりにだれかが死ななければならない。 それが宇宙の定めだ。

マモルは、桜の木の根元にそれを埋めた。
ヒロシの犬も、写生大会の翌日に大雨で増水した排水溝に落ち流され死んだ。
これが、マモルのタイムカプセルの話だ。


……どうだい? うまく描ける? 
…… むずかしいよ、だって白なんだもん 画用紙が白だからな。

白い画用紙に、白いオウムを描くっていうのも、なかなかユニークな絵になりそうだ。

…… ヒカル、ボクは、ホワイトじゃなくって、アイボリーだからな。それに、日陰にいると、グレーっぽく見える。しかも、頭の冠は奥の方が、レモン色がだぜ。

 「ヒカルのやつ、またひとりでにやにやしてるの。変なやつ」
絵を描くことにあきたクラスメートが寄ってきた。ヒカルは、タダシの方をちらっとみたが無視をしていた。そんなことは慣れっこの様子だった。

……ヒカル、かいてくれよ。頭。

ボクは、頭がむずむずしてきた。背中やおなかは、くちばしで上手にかける。でも、頭は足を使ってもいまいちだ。ヒカルは、画板を置いて、鳥小屋に寄ってき た。金網にとまってるボクの頭を人差し指でかいてくれた。

……う~ん、そこそこ。

ボクは、頭の毛を逆立て首を右にまわしたり左にまわしたりしていた。

 「タイムカプセル?」
ヒカルはつぶやいた。ボクの心をよんだのだ。
「なんだよ、ひとりでぶつぶついってさ。変なやつ!」
 タダシは、そんなヒカルをバカにして笑った。

……マモルがうめたやつさ。
……桜の木の根元だね。

ヒカルは、桜の木に駆け寄った。
「なにしてんだよ。バーカ」
棒きれで、穴を掘っているヒカルの背をタダシは、足で蹴った。ヒカルは地面に倒れ込んだ。肘についたドロをはらうと、また掘りはじめた。
 「あった!」
プラスチックの丸いケースには、ドロが入り込んで不透明な白さになっていた。
「なんだよ、それ。もーらい」
タダシがヒカルからうばいとった。
「だめ!あけたら!」
「なんだよ、ケチ!あけちゃったもんね」
タダシは、パカッとケースをあけた。乾きかけた土がぽろっと落ち、中には湿った土が残っていた。
「なんだよ、こんなもの」
 タダシは、マモルのタイムカプセルを地面に投げ捨てた。

表通りには、営業マンが額に汗をにじませて足早に歩いていた。
動物園か・・・・・・。
今日は、息子のタダシが学校の写生大会で来ているんだったっけな。 ヒロシは、腕時計を見ながら、
「タクシーに乗ろう。約束の時間にまにあわない」
と、つぶやいて道路を渡りはじめた。
ガキの頃、変なやつがいたっけなぁ。一九九九年の夏、オレが死ぬと予言したやつ。
キキッー。
車の急ブレーキの音とともに、ボンというような音がした。表通りが騒々しくなった。


ボクには、タダシのパパが車にはねられた姿が鳥小屋にいても見えていた。ヒカルも、同じだろう。
これは、宇宙の定めさ。タダシのパパが助かれば、代わりに誰かが死んだのさ。宇宙の大いなる意志だ。

……ヒカル、一九九九年じゃよ。世紀末じゃ。宇宙の制裁は、はじまっておる。もうすぐ、惑星が一列に並んだり、十文字のクロスなんかをつくる時期じゃ。宇 宙の意志によって、生き残る地球の生命体は決まっているのじゃ。選ばれ しものだけがな。

オウムとヒカルのテレパシーの会話にくわわったのは、隣の人工池に住むカメだった。

……昔、平安の世にも、この世の終わりと騒がれた時期もあった。再び、世紀末がめぐってきよった。

…… ヒカルくんのせいじゃないわ。タダシくんのパパの事故は。

また、新しい声がする。ヒカルの同級生、ヒトミだった。  
表通りの騒動に、タダシは気をとめていない様子で絵を描きはじめていた。

……ヒカルは、マモルと違ってひとりじゃなくてよかったな。

ヒカルは大きくうなずいた。

……カメさん。近頃は、人間の中にもエスパーが増えてきたね。宇宙の意志によって選ばれた人たちがね。 まあ、人間も悪いやつばかりじゃない。ちいとおごったところがあるがね。 でも、宇宙の制裁の時はくる。

……そうさな。我々もどうなることやら。 カメさんでもわからない? わしだってな、千五百歳しか生きておらないからのう。寿命がある限り、世を見とどけんといかんからのう。ほっほっほっ。  

カメは、太い笑い声を残して、水の中へともぐっていった。 ヒカルが、ボクに絵を見せてくれた。 なかなか男前だな。

…… 気に入ってくれた?
……マモルより上手だ。

「コンニチハ、コンニチハ」

 幼稚園の子供たちがやってきた。ボクは、動物園にいる『動物』としての使命を果たす。時や大地の変動を、じっと見据えている。一坪の鳥小屋の中で。
   


(完)


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