椿



貴方は椿のように散っていった
自分自身であることに誇りを持つために
自分自身である為に
散っていった

或いは「散っていった」という言葉は適切ではないかもしれない
貴方は其の名のとおり
椿のように完璧な魅力を持っていたけれど
其れは完璧なんかじゃなくて
貴方が自分自身を守るために創っていた
冷たく重い鎧だった

貴方は老い捌いて散っていくのを余りに恐れていた
其れは貴方自身が自分であることに限界を感じていたから
僕は気付いていた
だけれど止めることなど出来なかったのは
自ら命を絶つことが
貴方が最後まで自分自身であるということの誇りだと知っていたから

ねぇ 椿_

僕はきっと永遠に貴方以上の人に出会うことは無いだろう
僕は永遠に貴方だけを想って生きていくのだろう
其れは絶望にも近い未来
貴方の居ない世界はきっと僕にとっては残酷過ぎるから

だけど僕は貴方の後を追うことなど出来ないよ
貴方はそんなことは望まない
独りで逝くことが貴方にとって
誇りだったから


たった一つだけの美徳を持ち続けて
其の美徳故に自らの命に限界を感じていた
そう、僕にとっても貴方は誇りだったから

「気取らぬ優美」は「完璧な魅力」のようで
でも僕は気付いていた
貴方は完璧であるということに
苦痛を感じていたんだ

「其の潔さを…_」

貴方は最後まで貴方自身で在るために
椿のように
潔く散っていった
醜態を晒すことは貴方にとって何よりも恐れていたことだったから

椿が咲く頃になると
必ず花束を添えに行くから
「気取らぬ魅力」を持っていた貴方へ
貴方のためだけに涙を流すから

ねぇ 椿…

鎧は冷たすぎて
貴方は自分自身であることに苦痛を感じていた
其の一握りも僕には見せようとはしなかったね
自分自身であるために_


「完璧な魅力」「誇り」「美徳」「気取らない優美」
貴方は今もきっと美しい儘
貴方の美徳には何も適わない
素敵だろう?
貴方だけの世界を永遠に_




貴方だけを永遠に見てるから

© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: