RUNRUNRUN♪

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H13年7月


あきらめの悪い私は、我が子が男の子だけで一生を終えるのが納得できなくなっていた。4回目も帝王切開になることは妊娠する前から十分に予想がついていたけれど、もしかしたら次は女の子が生まれるかもしれないのに、ここであきらめてしまったら一生「むすめ」が得られないのだ、と思うと迷うことなく4人目に臨んだ。
 同僚が「ふたりでやめる」と言っていたのに、育児休業が明けたとたんに3人目を妊娠したと聞いて、よけいに燃えてきた。
 しかし、今度はそう簡単にはできなかった。帝王切開などの手術後は、癒着が起こっている可能性があり、よって卵管が通っていなかったりすると当然、そう簡単には妊娠できない。
「もう、妊娠できない体なのかなあ。」
と思いながら、妊娠本を読みあさったりもした。

 基礎体温を根気よく測って体調を見計らい、妊娠しなくて何度か落胆をしたものの、ヒーが2歳になって間もなく、第4子を妊娠したかもしれないことがわかった。

 妊娠すると、基礎体温の高温期が2週間以上続く。最近の市販の妊娠検査薬は精度がよくなっているので、条件さえよければ実に早い段階から妊娠したかもしれないことがわかる。
 きっと、ほんとうに自分は妊娠をのぞんでいたのだろうな。通勤カバンには、いつも妊娠検査薬が入っていた。(今思えば、なんか変だよね。)
 高温期が少し長いな・・・・・・と言っても2,3日長い程度だったが、ドブに捨てるつもりで妊娠検査薬を使ってみた。すると、はっきりくっきりと陽性とでた。「よっしゃーー!」とガッツポーズが出た。新世紀ベビーだ!

 つわりは長く苦しかったし、今回も切迫流産で仕事はたくさん休んでしまったし、およそ妊娠中のトラブルと言われるものはほとんどこの妊娠で経験した。(むくみと静脈瘤は本当に辛かった。)親知らずが痛くって、7ヶ月の時には抜歯もした。自宅では階段から落ちた。
 それでも妊娠経過としては順調で、あっという間に出産の日を迎えることになった。・・・いや、最後の2週間は長かったか。もちろん、予定帝王切開だ。

 手術に先だって、医師に尋ねられた。
「5人目はどうするのかな?」
「いえ、もう結構です。」
・・・・・・男の子だったとしても、もう産まないと決めていた。
「うん・・・4回までは切ったことがあるんだけど5回目は・・・。ほかの医者にも聞いてみたけど、5回目ってのはしたことないって言ってたし・・・。」
「もう、いいですいいです。これでおしまいです。」
「避妊のことなんだけど・・・・・・。」
ということで、開腹のついでに卵管を縛ってしまうか、リングを入れるか、それともピルを飲むかという、避妊の説明を受けた。
「手術までに考えておいて」
と言われたが、私は何にもしない、ということで気持ちは固まっていた。旦那に相談したところで「なんもせんでいいでしょ。」としか言わないだろうしね。

 例によって手術前日に入院。あてがわれた部屋はまた一緒で、これで3回目の住人になった。(ターを産んだ時は病院の場所が違ったんです。新築移転したんですわ。)いつものように手術前の処置がされ、のんびりするにもTVはないし、本は目が疲れるからと止められるし、非常に退屈な時間を過ごした。
 晩ご飯はしっかりと食べ、絶食が始まる10時まではおやつを食べまくった。10時を過ぎたら「これで大きいお腹とはお別れなのだなあ」と、退屈をもてあますだけでなく、感慨にひたる余裕が出てきた。

夜が明けて手術当日。あと「○時間で赤ちゃんに会えるのだなあ。」などと考えながら、午前中になされる処置(浣腸、点滴)を受けていた。

 お昼ご飯は当然ナシ。今日のメニューはなんだったのかなー、と余裕のありそうなことを考えてはいたが、この時の気持ちは結構、緊張してた。

 手術予定時刻は1時半だったのだが、12時半に早くもおっさんとターがやってきた。
「まだ始まるまで1時間もあるで。」
と言っていたのだが・・・・・・

 1時10分前に看護婦さんがやってきて、手術前の注射をした。(麻酔を効きやすくするためのもの。)これ、通常は筋肉注射であとあと何日も腕が痛くてたまらないのだが、今回は点滴を打っている管から注入してくれたので、痛いの一回分得をした。

「1時5分にはお迎えにきますから。」

って、予定時刻よりも25分も早まった。心の準備はまだできていなかったけれども、どのみちあの手術室に入ることにはかわりないので、覚悟はすぐに決まった。

 手術室に入り、例によってすっぽんぽんになり、手術台に横たわる。看護婦さんがふつーに会話しているのが手術室の雰囲気に合わず、異様に感じる。むやみに緊張させられる雰囲気も困りものだが、あまりにふつーというのもな・・・。
 とにかく心拍計と血圧計がつけられ、導尿がなされ(ちょー痛かった。)、そして執刀医が登場した。とたんに緊張が高まる。

 看護婦さんが、「麻酔を打ちますからねー。ちょっとチクッとしますよー。」
と言った。そうか、今までのはこの、「打ちますよー。」がなくって、突然にチクッときたからビビって腰を引いてしまったんだな。先に予告しておいてもらったほうが、針がささってもびっくりしない。
「(足に)ひびいていませんか?」
と医師に聞かれ、
「大丈夫です。」
と答える。今度は看護婦さんが
「ちょっと押される感じがしますよー。」
と声をかけてくれて、麻酔薬がぐーーーっと注入されるのが分かった。少し痛くて「ううー。」と唸ってしまったけれど、初めて一回でうまく麻酔が入った。

 すぐに足がしびれて感覚がなくなった。そして、あの、麻酔の副作用による気分の悪さと呼吸の苦しさがやってきた。
「気持ち悪いです。」
と訴え、自分では深呼吸をして気持ち悪さを逃がすようにした。時々看護婦さんが呼吸をリードしてくれた。医師の方は血圧の下がり具合を見ては、
「ヘッドアップ」
と指示を出して頭を少し上げてくれた。(頭をあげると呼吸の苦しさが緩和される。)
 昇圧剤が投与され、血圧が安定し、気分の悪いのも納まった。
「これで麻酔は大丈夫ですからね。」
と言った後、
「では始めます。」
との宣言がされた。

 お腹の方に意識がいかないように、看護婦さんに
「なにか余計なこと、話しかけといてください。」
と頼んだ。これがやたら看護婦さんたちにウケてしまい、お喋りに花が咲く咲く。帝王切開の出産って、開腹してから5分で産まれるって言うけれど、今回は本当にその、時間の短さを実感した。
 5分もかかっていなかったと思う。2,3分に感じた。例の「お腹からスイカを引っこ抜くような」感覚で「ズボッ!」と胎児がとりだされ、「にゃあ~」という産声が聞かれた。この声を聞くと、本当に安心する。

「あ、お嬢ちゃんだぁ」
2938g。初姫のゆかこ誕生だ。やったー!と思った瞬間、涙がぼろぼろでてきた。
 娘を横に連れてきてもらってご対面し、おっさんとターにも見せてもらってから、彼女は保育器に入った。 
 私には痛み止めと眠り薬が投与されだけど、最後の出産を最後まで自身で見届けたかったので、眠いのを我慢して起きていた。
 見せてもらえばよかったなー、と思うのは、胎盤。「副胎盤」と言って今回は胎盤が二つあったそうで、しかも二つともけっこう大きかったんだと。一応、胎盤形成の異常ということになるのだが、「そういうのもアリ」なんだそう。

 時々、薬に負けて「やっぱり寝ようかな・・・」と思うのをがんばって起きていた。だから、看護婦さんと医師が一緒になって、麻酔で自由の利かない私の体を
「せーの!」
と手術台から車椅子に移したのも、エレベーターに乗せられて病室に帰ったのも、車椅子からベッドへ、やっぱり
「せーの!」
と掛け声とともに移されたのも全部、覚えている。

本当のこと言うと、産めるのならばもっともっと子どもが欲しい。でもな・・・。ドクターストップがかかったしな。この6年間で授かった4人の子どもたちを、大切に育てていこうと思う。


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