放浪の達人ブログ

夕焼けよりも何よりも



今年の春、ネパールのポカラという町で居候をした。
日本にいるネパール人をお世話したことがあるのだが、
彼の実家ということでムチャクチャにVIP扱いだった。
その家は部屋が13個もあり、高級ホテル並みにデカかった。
俺が使わせてもらった部屋は静かな通りに面しており、
朝陽や夕陽に染まるマチャプチャレというヒマラヤの山が見えた。
総大理石の3階の屋上からも大展望が広がっていた。

前日までカトマンズのスラム街で居候していたし、
ポカラに着いてからも孤児院を廻ったり
ストリート・チルドレンの現状を見ていた俺は
実は何とも居心地の悪いふかふかベッドであった。

その家には4人の家族に加えブドゥーという14歳の女中がいた。
貧しく身寄りのない彼女を買って来たそうだ。
赤いパンジャビドレスの似合うタライ地方出身の華奢な女の子だ。
ブドゥーは家族が起きる前からただっ広い家の掃除をし、
みんなが居間でTVを見ている時も洗濯、料理をやり
夜は冷たい大理石の床に毛布を引いて寝起きしていた。
ビリビリの服でいつも裸足、髪の毛は無造作に束ねてあるだけ。
それでも路上で寝ている子供達よりは格段に幸せに見えた。
雨風がしのげるし食事も出来るからだ。

もともと貧乏性の俺は何もない屋上がお気に入りで、
日向ぼっこをしたりタバコを吸ったり白く輝くヒマラヤの山々をよく見ていた。
たまに自分の衣類を洗濯しようとするとブドゥーがスッ飛んで来て
「ダンナ様、いけません。わたくしが洗いますから」と哀願してきた。
俺は「じゃあ2人で洗おうよ」と言い、2人で笑いながら洗濯をした。

その後俺は2週間程ヒマラヤの奥地を放浪し、
下山後にまたその家で数日お世話になった。
居候最終日の前日、俺は町の市場で半日を費やした。
ブドゥーへのプレゼントを探すためだった。

帰る当日、俺はブドゥーにプレゼントを手渡した。
人からプレゼントを貰った事はないとためらう彼女に、
家族のみんなは開けてみなさいと促した。
赤いスリッパと赤いヘアピンを身に付けてくれたブドゥーは
嬉しそうに笑いながら台所でくるくると回ってくれた。
彼女の笑顔はマチャプチャレの夕焼けよりも俺の心にジンと染みた。


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