放浪の達人ブログ

安さこそ全て



買い付けのためタイに行って来た。昔のバックパッカー貧乏旅行時代から合わせると
もう30回は行ってるだろう。6年前に更新したパスポートのスタンプを数えただけでも
19回行っていた。その割にはタイの夕焼けというのを見た事がない。
青い空がだんだん暗くなり何となく夜になってしまう、いつもそんな気がする。
買い付けをしている最中にふとそんな事を思った。
遺跡の中で夕焼けを見たい、頭の中で欲求が転がる。
行きたいけど買い付けの仕事が・・・でも行ってみたい・・・よし、行っちゃえ!
頭の中のもう1人の自分と交渉成立である。
考え始めてから数秒で俺の足は駅へと向かっていた。

昼下がりの閑散とした電車に乗り、2時間後にアユタヤで降りた。
駅前からは小さな河を舟で渡る。船ではない、舟である。
対岸で自転車をレンタルし遺跡に着いたのは夕方だった。
遺跡は夕陽でオレンジ色に染まっていた。大きな大きな太陽が沈んでいく。
空はオレンジから紫、紺色に変わり、やがて黒色になった。
4時間はそこにいただろう。今夜はこのまま野宿しちまえ、と思った。
俺は高校の頃から野宿は得意である。野宿に得意とかヘタとかはないんだけど、
まぁツッ込まないでくれ。とにかくお手のものである。
遺跡で星を見ながら野宿、おお、ロマンじゃねえか。
でも実際は野犬と蚊に降参し、すごすごと裏通りの静かな宿にチェックインしたのであった。


誰が泊まるんじゃい!という程の立地の悪さにその安宿はあった。
部屋はコテージ風に独立していて中庭にテーブルがあり、南国の花が咲き乱れていた。
そんな宿にもイタリア人男性が1人泊まっていた。
世界中を放浪するバックパッカーはどんな場所にも出没するのだ。
そして彼らは共通の事を口に出す。
「日本には行きたいけど行った事がない、ホテルやメシが高いから」
そうだろうな、ビジネスホテルでも1泊5千円、食事したり移動したりしたら
1日1万円はかかってしまう。1万円もあったらインド、ネパールなら
1ヶ月ぐらい旅を出来るもんなあ。(基準は俺のスタイルなので参考にしないように)

ここはひとつ観光客誘致に努力している日本政府のスポークスマンとなり、
1人でも多くの観光客が日本を訪れて欲しいという思いから
俺はけっこうムチャにこじつけて「安い日本旅行の方法」を彼に教えた。
「公園や河原でテント可能だ、治安はいいぞ。日本人は優しいのでヒッチハイク可能。
マジックペンで大きな紙に行き先を書けばいい。日本の公園にはトイレ、水道があり
全て無料。マクドでハンバーガーは1ユーロで買える。
タバコもイタリアで買う¥600の半額で売ってるぞ。」
こう説明すると彼のまゆ毛はピクンと動いた。
バックパッカーを説得するには何も要らない。「安さ」を知らせればいいだけだ。

いつか彼は日本に来るかも知れねえな・・・。
そんな事を考えながら遠い昔、栄のエンゼルパークの噴水を
夜中にシャワー代わりにした自分を思い出していた。


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