放浪の達人ブログ

旅人のわがまま

    【旅人のわがまま】

10年程前にネパールにトレッキングに出掛けたことがある。
首都カトマンズからローカルバスに10時間近く揺られてポカラという町に着き、
そこで知り合いのネパール人の家にホームステイして数日後に出発した。
どこまで登るかという目的もなかったし地図も持っていなかった。
ガイドもつけずに独りでブラブラと山間部の村から村をのんびりと歩き、
気に入った集落に辿り着いたらそこの安宿に泊まるという旅だった。
寝袋とロウソクと少しのお金があればそれだけで幸せな旅で、
毎日ヒマラヤ山脈を眺めながら極上の気分で歩いていた。

歩き始めて2日目にはタトパニという露天風呂のある村に到着した。
夕暮れの中で星を見ながら温泉に入り、宿は1泊100円もしないほど安かった。
マルファという桃源郷のような村で泊まって各国のトレッカー達とパーティーをしたり、
カグベニという集落ではお寺を改造した30円程度の宿で夜中遅くまで語り合ったり、
標高4000メートルを過ぎた聖地ムクティナートに着くまでにはのんびり歩いて1週間、
広大で荒涼とした風景の中をまるで地球の最果てを歩いているかのような体験だった。

先日なんとなくネットでネパールの記事を読んで驚いた。
数年前にポカラからムクティナートまで乗り合いバスのルートが開通したという。
記事には「今やこのルートを歩いているのはもの好きな外国人トレッカーだけ」とある。
現地の住民や聖地への巡礼者、一般的なトレッカーは皆バスを使うという。
ということは俺が歩いたトレッキングルートは今や忘れ去られた道ということなのか。

このバスルートを便利と思うのか、それとも邪道と感じるのか、それは各々で違う。
現地の人にとっては利便性が良くなって麓の町まで半日で行けるようになった。
これで東洋伝承医学ではなく、西洋医学による処置が出来る病院にも行けるとか、
村で糸を紡いで作った伝統的な服じゃなくて、街の市場できれいな服が買えるとか、
いわゆる消費が最大要素となる生活に変わっていくことになるのだろう。
そのためには当然収入が必要となるわけで、山間部の村では収入源となる仕事がないから
麓の町に働きに出る若者が増え、交通利便性とは裏腹に山間部の過疎化が進むのだろうな。

そう、今の日本と同じではないか。
作るだけ作って離発着便数が1日数便だけの地方空港、山を切り開いて作った新東名高速道路、
オラが県にも駅を、とやっきになって誘致してぐねぐね路線となったリニア新幹線などなど、
利便性という名のもとに土建屋と政治屋が自分の私腹を肥やすために結託するビジネス。
まあそれによって流通が生まれるわけだから必ずとも必要悪とは限らないが。

そういう日本の延命治療的な開発とは違うが、ネパールの山間部も似たような道を辿り、
いつかは安宿も廃業して忘れ去られた集落となっていくんだろうなあ。
10数年前に俺はこの山間部バスルート開通を予想してブログに書いていたが
実際にそうなってしまうと寂しいものがある。
じゃあオマエはバス使わず歩けばいいじゃん、てか日本からカトマンズまで飛行機も使うなよ、
大袈裟な極論にすればそういうことになるので開発の許せる境界線なんてないんだけど、
富士山や槍ヶ岳山頂まで車やロープウェイで行けるようになったら
本当の山好きの人は登らないんじゃないかなあ、それと同じ感覚だ。
ヒマラヤトレッキングルートの開発云々、それは「旅人のわがまま」なんだよなあ。


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