放浪の達人ブログ

屋根

    【屋根】

2月か3月からやろうとしていた庭木の剪定をGWの休みにやっとすることができた。
なぜやろうとしてから数ヶ月も経ったかというと、キジバト夫婦の巣があったからである。
巣といっても細い枝を少し集めただけの貧相なものでとても暮らせるシロモノではない。
卵を産み落とそうものなら枝の隙間から地面にそのまま落ちそうなほどだ。
それでも時々キジバトの夫婦は揃ってポッポポッポとその巣の上で鳴いていた。
いくら貧相な巣といっても壊すのは忍びなくてしばらく見守っていた。

そうこうしているうちにその金木犀の木は春の日差しを浴びて伸び続け、
キジバト夫婦も時々しか来ないので遂にGW中に剪定を決行したのである。
剪定時に巣の中を見たら幸いにも卵はなかった。
それでもどこかからキジバトの夫婦が剪定作業を見ていないか気になった。
「お父さん!私達の巣が!」「おお!もうすぐ上棟だというのに!」と
近くの電線で嘆いているのではないかと思ったのである。
一応巣の周りは剪定しないようにしたので何とも妙な切り方になってしまったが
巣に戻った夫婦はきっとこう言うだろう。
「母さんや、これじゃ雨漏りが酷い。ここじゃもう暮らせん」
「もう引っ越しましょう。ほんと人間って酷いわね」

キジバト夫婦のことを考えていたら知人のスリランカ人の家のことを思い出した。
2年前にスリランカのダンブーラという山岳地方の知人の家に泊まったのだが、
彼は自分で設計して知り合いと一緒に家を建てた。
居間はシンプルだが見事なエスニック調で、台所には仏陀を祀った小さな祭壇もあり
庭で摘んできた綺麗な花達が祀られてお香も焚かれていた。
当初は世界遺産シーギリア近くの森の中のゲストハウスに泊まる予定だったが、
この知人の家に泊まることにして正解だったなあと思った。

俺が泊まりに行った夜、遅くなってから段々雨が激しくなってきた。
屋根を叩く雨の音は凄まじく、部屋の中に雨漏り用のお皿が無数に置かれ始めた。
「いやあ、屋根を作るお金がなくてね、まだトタンを乗せてあるだけなんだ」
そういうわけで会話はトタンを叩く雨の音にかき消されないように叫ぶ感じだ。
それに加えてトタンと屋根裏の隙間にメガネザルが住み着いているらしく、
ドタンバタンと大きな音がする度に家主がホウキの柄で天井をつつく。
「あ~、やっと逃げて行ったよ。これでしばらくうるさくない」
いやいや、この雨音だけでも充分うるさいって。しかも室内のお皿に落ちる雨垂れ。
コン、キン、ピチャン、とまるで楽器のようである。
普通さ、家建てるなら屋根も一緒じゃねえの?日本じゃ上棟とか建前とか、
柱立てたら次は屋根を乗せるんだけど。その後に内装工事じゃん。

数日後、今度はコロンボの東にあるピタコッテという町の友人宅に招かれた。
3階建ての新築で地下には20代の息子が使うレコーディング・スタジオまである。
家を建てるついでにインド製の新車ナノまで購入したそうだ。
(後日大人4人で乗った際は坂道を上がり切れず運転手以外全員降りて歩いたが)
招かれた日に俺はまたしても衝撃発言を聞くことになった。
「屋根を作るお金が無くてね、あと2年ぐらいで作れたらいいんだけど」
おいおい、車やレコーディング・スタジオの方が優先かよっ!
スリランカの住宅事情ってのはよく分かんねえな。


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