放浪の達人ブログ

山での昼食



今年の秋は自然の中でのんびりすることが多かった。
滝に行ったり湖に行ったり山に登ったりして日本の秋を満喫した。
静寂の自然の中で食べるランチというのは別格だ。
今月号では強烈に印象に残った山での昼食について書こうと思い返していたら
そのどれもが山仲間のコウベ氏が絡んでいることに気がついた。

数年前に行った岐阜の渓谷では土砂降りの雨の中で鍋料理をした。
目的地の根尾の滝に着いた時にはとても鍋料理なんて不可能な程の大雨。
そんな中でコウベ氏は「よし、この河原で昼食にしよう」と言い出し、
山仲間4人はカッパを着たまま立って食事をしたのだった。
フードから滴り落ちる雨は容赦なくお椀の中に流れ込み、
河原の砂の上に落とした肉を拾い上げ「ええい、しゃぶしゃぶだ」と言って
川で洗って食うというサバイバルのような鍋パーティーだった。

危険度の高かった三重の山では両側がスパッと切れ落ちたナイフリッジ状の
通称「馬の背」と呼ばれる場所でコウベ氏が「ここで昼食だ」と言いながら、
自分で三河湾で獲って来たアサリを鍋で煮始めた。
あんな危険な場所で食事をしたのはあれが最初で最後だろうなあ。

暴風雪が吹き荒れる真冬の山で雪洞を掘ってラーメンを食ったこともある。
あの時のコウベ氏は簡易そりで登山道じゃない谷間に下りてっちゃって、
俺は「そっちは方角違うぞお!」とズボズボの新雪に埋まりながら追いかけて
アイゼンで冬山用のズボンを裂いちゃって乞食のような恰好になっちゃったな。

とにかくコウベ氏と山に行く時には昼食は彼が用意してくれるのが恒例となっている。
先月の滋賀の山での昼食はありゃまた強烈だったというか、
料理そのものではなくコウベ氏の精神構造に疑問を抱いたほどであった。
早朝に俺の自宅まで迎えに来てくれたコウベ氏は開口一番、
「俺、昨日救急車で搬送されちゃってさ」と言うのである。
コウベ氏は昼間はタクシーの運転手で深夜はレストランでバイトをしているのだが、
スーパーで買ったサバを自分でさばいて食べてから深夜バイトに行ったらしい。
そうしたら勤務中に猛烈な吐き気と下痢に襲われて立っていられなくなったという。
救急車が到着したがストレッチャーが職員専用出口を通ることが出来ないということで
お客さんで溢れるテーブルの合い間をストレッチャーに乗せられて運ばれたそうで
「ああ、明日の山は中止だな」と考えながら救急車に乗って病院に緊急搬送されたらしい。
病院に着いて点滴をしてる最中に「あ、原因はサバだ。これで3度目だ」と思い出し、
医者に言ったら「じゃあ原因はそのサバでしょうね、アレルギーでしょう」と言われ、
迎えに来た奥さんには「原因がサバで良かったね、明日の山は行けるじゃん」と
意味不明に背中を押されて俺を迎えに来たらしいのだ。
いやあ、そういう時は中止とか延期でいいよと言いつつ彼の復活の早さに驚いた。

さて、山の上でコウベ氏が準備してくれた昼食を食べる。
おにぎりの他に銀紙に包まれたおかずがあった。
「それな、昨日俺が当たったサバ」
「!!!!!」
「大丈夫、火を通して来たからさ」
「・・・・・」
まあ食ったけどさ、どうにもならずに済んで良かったわ。

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