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夏風7537

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見たまま、感じたま… Dr.悠々さん
ツブコの茶店 ミドリツブコさん
2004.08.06
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カテゴリ: カテゴリ未分類
花に水をやる水路を作るのだと言って、大人達は喧嘩している。


そうしている内にも花はしおれていこうとしている。
暑くてからからに乾いているから少しでも早く水を運ばなければならないのに、喧嘩はますます激しくなって、とても終わりそうにない。

私達は水路を作る為に駆り出されて来たのだけれど、花の為にやって来たのだ。
大人達は話し合いが決着するまで作業をしてはならないと、私達の道具を取り上げてしまった。
やさしい花は枯れようとしている。
水路は花の為に作る筈なのに、大人達は喧嘩ばかりしている。

私達は水路のはじめにある泉へ行って、両手で水をすくうと歩き始めた。

両手ですくった泉の水は零れてしまって、花のところへ辿りついた時にはいくらも掌に残っていなかったけれど、私達は温かくなってしまった水をそっと花の根元へ落とすと、泉へ向かって小走りに戻った。

大人達の喧嘩はまだ続いている。
私達はその横を、ただ掌にすくった水を出来るだけ零さずに花に届けられる様に、うつむいて歩き続けた。

やがて泉から花の咲くところまで、私達が歩いた跡が踏みしめられ、小さいみちになり、窪みとなって、
いつかそこへ泉の水が流れ込んで花畑までせせらぎが出来た。
うつむいていたやさしい花は水を得て茎を伸ばし、地に広がり、気がつけばせせらぎの岸にも、泉の周りにも咲き乱れて、やわらかな香りで一杯になった。

大人達は離れた木陰の下に集ってまだ喧嘩をしていた。
素晴らしいショベルカーも大きな掘削機もすっかり錆びてしまって、じっとうずくまっている。

私達はせせらぎの辺に立って、やさしい花びらが風に揺れるのを見、やわらかな香りを胸いっぱいに吸い込む。


やさしい花よもっと咲け。
乾いた土地を覆ってしまえ。


この花が地にいっぱい広がれば、もう、争わなくてもいいのだから。

やさしい花よ、もっと咲け。
やわらかな香りが大人達にも届く様に。
早く、その諍いが無駄なものだと気がつく様に。

やさしい花よもっと咲け。

地面いっぱいに広がってなにもかもを覆ってしまえ。






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Last updated  2004.08.06 11:53:12
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