「最後の別れ」



返事をしてくれなくても、笑ってくれなくても、
冷たい身体になってしまっていても、まだ生身の身体があるうちは
パパが生き返ってくれるような気がしてた…。
パパが死んでしまったなんて、まだ信じられなかった。
だから焼かれてしまうなんて、どうしても嫌だった。

でも、どうしようもなかった。
私の心とは裏腹にどんどん進んでいく。
お花に囲まれたパパの棺の蓋は閉じられ、焼き場へと…。

幾つも並んだうちの、ひとつの扉の中に納められていく。
公益社の人が何か言っていたようなきがするけど
何も耳に入らなかった。
何も聞こえなかった、聞きたくなかった。
本当は「嫌だっ!!」と大声で叫びたかった。

そして、目の前でスイッチを…。
パパがいなくなってしまう。もう二度と会えなくなってしまう。
笑ってくれなくても、話をしてくれなくても
パパがいてくれるだけで良かったのに…。
これで、パパに触る事すら出来なくなってしまうのが
悲しくて仕方なかった…。

どうやって、部屋まで歩いて行ったのか記憶がない。
昼食も喉を通らない…何故みんな平気な顔で
ご飯を食べてビールを飲んで笑っていられるのだろう?
まるで自分のまわりに目に見えない厚い壁ができたような気がした。

でも、何もしない訳にはいけないので
来てくれた親族の方にビールをついだり、お茶を用意したりする。
こんな事をしてる間も、パパは熱い炎で焼かれているのだと
思うとやり切れなかった。

時間が来ると、公益社の人が喪主の私だけを呼びにきた。
担当の人と二人きりで焼き場に向かう。
先ほどは柵で近寄れなかった扉の前に立つ。
少し近寄っただけでも、熱くて仕方がない…、
パパはどれほど熱かっただろうか。

そして、係りの人がスイッチを押すと
変わり果てた姿のパパが出てきた。
これがパパだなんて、絶対に信じたくなかった。
白く焼けてしまった、骨だけになってしまった。
温かかったパパの手は?優しそうな笑顔は?
さっきまでは確かに存在していたのに、
触ろうと手を伸ばせば触れたのに…
私のパパは一体どこに行ってしまったんだろう…。

お骨上げをする部屋に行くと、みんなが待っていた。
公益社の人がひとつひとつ説明をしながら
壺に納める遺骨を教えてくれた。

事故の衝撃が余程のものだったのか
左足の大腿骨から下の骨は粉々に砕けていて
肋骨も同じように粉々になっていた。
頭蓋骨にも大きな傷があり、事故の大きさを物語っていた。

公益社の人は仕事でやっていて慣れてるのか、事務的に
大きくて骨壺に入らない遺骨は手にした鉄の棒で無造作に砕いて行く。
信じられなかった。悲しみにくれる遺族の前で
何故そういう事ができるのだろうか?
せめて、もう少し遺族の気持ちを考えたやり方はないのか?
パパの遺骨が砕かれるたびに、私の心も砕け散ったような
錯覚に陥る…。

小さくなってしまったパパを抱き締めて私は歩いた。



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