若い男性 Hさん


Hさんはもともと先輩の受け持っていた患者さんでした。
しかし、先輩の転勤に伴い、「勉強になるから」と私が受け持つことになりました。

もともと腸の病気があり、それが悪くなり、腸が腐ってしまったHさんは、緊急手術で、腸を切除、人工肛門(ストマ)を作りました。

もともとの病気と、緊急手術だったこともあり、本来ならお腹から出っ張っているはずのストマは、お腹と平坦な形となってしましました。
全身状態もあまり良いとはいえず、20代だったHさんは、どんどん精神的に落ち込んでいきました。

そんなに痛みがある状態ではないのに痛みを訴えたり。
ベッドから動けないほどではないのに寝たきりになってしまったり。
お母様もそんな状態に不審を抱き、病院上層部に訴えたりもしていました。

年が近かったこともあり、どう接していけばいいか悩みました。
精神的に追い込まれたHさんには、ナースたちも近寄りがたい様子となり、なかなかHさんの元に行かなくなってしましました。
そんな状況はいけない。
受け持ち看護師だった私は、出勤の時は必ず、帰りにHさんのところに寄ろうと計画しました。
帰りなので、十分に時間はとれる。
なんの話でもいいから、Hさんと話そうと思ったのです。

なかなか話が弾まないこともあり、苦痛に思うこともありましたが、そうしてHさんの受け持ちを続けていました。

結局は、もともとのHさんの病気を専門としている病院をお母様が探してきて、転院することとなりました。

何ヶ月か経ったとき、Hさんが病院を訪ねてきました。
ベッドから動くこともできなかったHさんは、普通の青年として、歩いてきました。
最初は誰だか分からなかったくらい。
転院して、専門の病院で治療を受け、元気に社会生活を送っているとのこと。
ほんとに良かったです。

「あの時はほんとに優しくしてくれて・・・。お礼に食事でも」
とお誘いを受けましたが、丁重に断らせて頂きました。
あれはナースとしてのお仕事の中でしたこと。
決して、恋愛感情とかではないのです。

ナース服を着ていない私は、タダの人。
もしかしたら、彼の中では「白衣の天使」だったかもしれないので、幻滅させちゃ悪いですもんね。

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