☆すみれ色の涙☆



母しゃん、菫を長い間かわいがってくれてありがとう
身体が弱くなった菫を心をこめてお世話して下さってありがとう

そして、最後はこちらに送り出してくれて、本当にありがとうございました

本当はすぐにお手紙を書きたかったんだけど、こちらの世界も結構忙しくって、今頃になっちゃったの

ごめんね

母しゃんにとって、私がそばにいた時間は、どんな風に感じてたかしら?

私にとって母しゃんは…、母しゃんは私の全てでした

私が母しゃんの子供になったときは、いつも甘えん坊の茜ちゃんがやきもち焼いて、私に噛みついたりするもんだから、大変だったわ(^^)

それに、姉貴分のももちゃんもいたわね

そのももちゃんなんだけど、いつも私の隣で嵐と一緒にお昼寝してるのよ

私がこっちに来る時、玄関のところで寝てると、外に自動車の音がしたの

外にでてみると、お尻が左側に傾いた車が止まっていて、運転席から
「おおーい、すみれ~」
っていう声がするので見ると、ももちゃんが得意げな顔をしてクラクションを鳴らしたの

「ももちゃん、どしたの?」
「菫が、もう少しでこちらに来るっていうから様子を見に来たのよ」

すると、少し後ろの方から
…パタパタ…パタパタ
という羽ばたきの音が聞こえてきました

見上げると、なんと嵐が車からつながったロープの先に、まるでパラセーリングみたいに、たくさんの風船につかまって背中の翼を羽ばたかせて浮かんでいるのです

「…嵐」
「菫ちゃん、迎えに来たんだよ、もうがんばらなくてもいいんだよ」

「嵐…」

外は涼しい風が吹いていました
「そうよ、菫。その時が来たの。もう苦しくないのよ」
「ももちゃん…」

私はももちゃんに手を引かれて立ち上がりました
お外は、なんだかミルク色の霧がかかっていました

その霧の中にとても不思議な七色の橋が架かっていました
橋は途中から先は見えません

誰かが、私の背中を押します
振り返ると、嵐がにっこり笑いながらうなづいています

私はゆっくりと橋の上に乗りました
一歩また一歩とすすむ度に、私に向かってとても暖かな光が降り注いできます

橋の上からは、周りの様子がよく分かります
玄関で私を抱きしめてくれているのは…

そう、もちろん母しゃんです
「きれいなお顔だよ、菫ちゃん」

…ううん、私なんかより母しゃんの方が、ずっときれいに輝いているわよ

とても名残惜しかったけど、この橋は一旦乗ったら途中で止まることはできません

ああっ、母しゃんが……!

…菫、お帰りなさい
明るい方角から優しい声がします
光さんです

光さんって本当にいるんだぁ

…何言ってるの?ついこの間、あなたは「行って来ま~す」って、私にあいさつして物質世界へ旅立ったのよ

ええっ?ついこないだ?
もうずいぶん昔のことじゃないの?

…そう、物質世界には時間があるから昔のように感じるのね。でもこちらでは昨日のことも、百年前のことも同じくらいの時間なのよ
…どうでしたか?楽しめた?今回の旅は?

うーーん、どうなんだろ?いろいろやらかしちゃったからなあ(^^;)

…では、これから私と一緒に今回の人生を振り返りましょうか?

「待ってました!」
大きな声を出したのは嵐です(^^)

正面の雲が左右に割れて、その向こうに大きなスクリーンが現れました

画面をのぞき込むと遙か下の方に、春の田舎道が見えてきます
私の知らない景色です

その細い道を元気よく走っている小学生くらいの、おかっぱ頭の女の子が見えます
女の子は突然走るのをやめて、道ばたにしゃがみ込みます

そして手を伸ばして、紫色の小さな花に話しかけます
「こんにちは、かわいいすみれちゃん!」

突然名前を呼ばれたので、私はびっくり
「かわいいかわいいすみれちゃん、きれいなきれいなすみれちゃん」

女の子はその場で作った歌を歌います
画面は花のところまで降りていきました


すると、どうでしょう!
歌を歌っている女の子は、「母しゃん」です

あっ、ああっ!
思い出した!
私は昔、生まれていく前、このシーンを見て、この子のところに行きたいって思ったんだ
でも、この子が大人になってからでないと、途中で離ればなれに暮らさないといけないことを知ってたので、この子が大きくなるまで待っていたんだ

画面の女の子は見る見る大人になっていきました
女の子はお母さんになっていました

いつも近くにわんにゃんがいる、にぎやかなお家でした

そのお家ではえりちゃんというシェルが亡くなって母しゃんは、とても寂しがっていました

そろそろ私の出番かな?
と、思って見てると、ととさんがわんこを連れて帰ってきました
茜ちゃんです

先を越されちゃった(^_^;)

ある時、女の人が私のそばにやって来ました

…菫、あなたの力を貸して欲しいの
「私の力?」

…そう、あなたがあの子のそばにいてあげて欲しい。そして、あの子がいつも幸せな気持ちで毎日を過ごせるように見守って欲しいの
「あなたは誰?」

…さあ、誰かしら(^^)。でも誰だっていいでしょ、今度あなたがこちらに戻ってきた時に分かるでしょう

…ここに書いた文章をゆっくり、心を込めて読んでみて…

『何も心配しなくてもいいのよ……あなたの生き方は間違っていないわ。もっと自信を持ってね…私はこのとおりすっかり元気よ。いつもありがとうね』

…これは、魔法のメッセージ。あの子が自信をなくしたり、困っているとき、この言葉をあの子の耳元で囁いてやって欲しいの

…さあ、行っておいで、菫…

私は虹色のすべり台を滑り降りて、母しゃんの娘になりました

でも、先に来てた茜ちゃんというのはなかなか手強いやきもち焼きで、母しゃんが私にかまうと、すぐに噛みついてきて困ったわ(^^;)

母しゃんのお家には、二人のお兄ちゃんがいました
二人とも、とてもとても母しゃん思いの、優しい子です

母しゃんは、それに感動していつもうれし泣きしたり、時には心配してハラハラしたり、その度に私に「ねえ、菫はどう思う?」なんて相談してくれるのです

私もその度に、あの魔法の言葉
「何も心配しなくていいのよ。(…ええっと、その先何だったっけ)…、あなたの生き方は間違っていないわ。…、…もっと自信を持ってね。…いつもありがとうね」
って話しかけます

すると母しゃんは
「そうやね、菫ちゃんがそう言うんやから、うまく行くわね」
といいながら笑います

「かわいいかわいいすみれちゃん~」
母しゃんは、また歌っています
そういう時の母しゃんは、昔の子供の時のおかっぱ頭の女の子になっていて、とてもかわいいのよ

子供の頃の私はとてもバカ力で、母しゃんの手に負えないことがたくさんありました
色々考えた末に母しゃんは、私にアジリティの訓練を受けさせてくれました
私は、だんだん母しゃんの言うことが分かるようになりました
私も母しゃんも、アジリティにもう夢中で、姉御のももちゃん連れて日本中あちこちの大会へ行って、いっぱい賞をもらったね、母しゃん

母しゃんは、とても芯の強い人
だから、納得行かないと、ととさんにも一歩も引きません
だんだん二人の話は白熱してきます

すると、どこかから声が聞こえます
…菫、そろそろ止めてやってね

私は、ととさんのところへ走っていき、顔面めがけて『すみれ、パ~ンチ☆』

すると二人は大笑いして喧嘩は収まります
ととさんは、
「何で僕ばっかり、菫にパンチ浴びせられるねん」
と言いながら、笑っています

私は、とにかく母しゃんが好きでした
母しゃんが座っていると、お尻の方からお膝にドーーンと乗っかります
母しゃんは
「菫、やめろー」
なんて、大騒ぎしています

でも、その後はすぐにぎゅーっと抱きしめて
「菫ちゃん、ずっとそばにいてね」
って、言ってくれます

もちろんよ、母しゃん、私は母しゃんを幸せにするために生まれて来たんだもん(^o^)

私には子供はいなかったけど、子供みたいにかわいい仲間は、たくさんいました
母しゃんは、かわいそうなわんにゃんを放っておけない人で、すぐ家に連れてかえってうちの子にしてしまうのでした

にゃんこの風と華なんか、私のおっぱいで育ったのよ(^^)

その様子がテレビに出たこともあったわね(^o^)

仲間が多いと言うことは、うれしいことも多かったけど、悲しい別れもありました
ももちゃんが旅立ったときは、母しゃん毎日泣いてた

するとまた、声が聞こえてきたのです
…何も心配しなくてもいいのよ。私はすっかり元気。安心してね

それをそのまま母しゃんに伝えます
「そうかぁ、ももちゃん元気にしてるんだ!愛してるよ~もも~っ」
伝わったみたいです

近いところでは、嵐も長いこと難病と闘った後、旅立ちました

母しゃんは、看護師からケアマネに転身!
どちらの母しゃんも一生懸命です
いつも誰かに相談されています
母しゃんは、自分のことのように、それを聞いて一緒に考えます

でも、母しゃんが一生懸命心を込めても、それが伝わらないこともたくさん、また誤解を受けて攻撃の矢面に立たされたこともありました
そんな時の母しゃんは、とてもしんどそうでした

母しゃんは、腕を顔の上に乗せてゴロリと横になります
「もうあかん、もう限界」

すると私の頭にまた、あの言葉がよみがえって来ます
…何も心配しなくてもいいのよ。…あなたの生き方は間違っていないわ。もっと自信を持ってね

私はそう囁きながら、母しゃんに添い寝します
「菫!」
大丈夫よ、母しゃん!

ある時、私は大きな手術を受けました
手術を受けている間、私は夢を見ていました

…菫
ああっ、この人は私が生まれる前に、魔法のメッセージを教えてくれたお姉さん!

…ふふっ、思い出した?
「あなたは、誰なの?」
…私は、あの子の姉ちゃんよ。あの子にも子供が恵まれてこれから私が親としての相談に乗ろうと思ってたのに、こっちに来ちゃったの
「ふーん」

…だから、あの子が困ったときは、いつも菫に相談に乗ってもらってるのよ。いつもありがとうね

エヘヘ、ほめられちゃった(*^_^*)

…菫、これからもあの子をお願いね
「はい、姉ちゃん!」

それから、私はまた元の体に戻って母しゃんと暮らしました

でも、だんだん私の身体はおばあちゃんになって行きました

今年になってからは、起きているよりも寝ている時間の方が多くなりました
私は、向こう側の世界を少しだけ知っているので、死ぬことは少しも怖くもなかったし、嫌でもありませんでした

春頃からは、母しゃんのお友達が何人もお見舞いに来てくれました
みんな、一緒に散歩に行ってくれたり、いっぱいなでなでしてくれたり、とても優しい人ばっかりでした

みなさん、ありがとうございました(ペコリ)

母しゃんは、私が少しでも元気が出るように、色々調べては身体にいいものを食べさせてくれました

母しゃん、本当にありがとうね

母しゃんの日記のタイトルは、「菫といっしょ」「菫の介護日記」など、必ず私の名前が付いていました
どこかで、私と別れなければならないことを受け入れようとしていたのだと思います

私の最期の日が近づいても、お友達は絶えませんでした

7月29日朝早く、お別れの時間がやってきました
とても静かで涼しい風が吹いていました

私はその風に鼻先を向けて、少し上を向こうとしました

すると、私の頭の後ろの方から、私が抜け出して来ました

苦しくともなんともありません
とても涼しくって、とても温かくって不思議で自分が風になったみたいな気持ちです

母しゃんは、じっと私をだっこしてくれています

身体から抜け出した私は、母しゃんの背中の方に回りました
そして、今度は私が、母しゃんをだっこしました

母しゃん、…思っていたよりも軽い
こんな小さな身体で、いつも私をだっこしてくれていたの?

母しゃん
母しゃん!何も心配しなくてもいいのよ!
あなたの生き方は間違っていないわ!!
もっと自信をもってね
私は、このとおりとても元気よ
今まで、本当にありがとうね

すると、母しゃんの身体は天の川みたいにキラキラと光り始めました

「菫、ありがとう!愛してるよ!」
私もよ、母しゃん!

「きれいなお顔だよ、菫ちゃん」

ありがとう、…ありがとう(T_T)

私は、涼しい夏の朝の空に架かった虹の橋を渡り始めます

ここで、スクリーンは真っ白になりました

…菫
「光さん(T_T)」

…どうだった?今回の人生は?
「…どうだったも何も…。『幸せ』、『いつも一緒』っていう言葉と『ありがとう』っていう言葉以外に思いつかないの…」

…そう(^o^)、そのとおりよ!菫
…あなたの人生は、どんな場面でも幸せに満ちあふれ、いつも母しゃんと一緒、そしてお互いに感謝の気持ちが一杯でした
…縁があってそばに生きる者は、どんなことがあっても離れることはないの
…それを、母しゃんやみんなに知らせるのがあなたの使命だったのよ

「でも、今は母しゃんから離れてこっちへ来ちゃった(T_T)」
…いいえ、それは違います。ここは母しゃんから離れた場所ではありません
…というより、今まで生きてきたよりも母しゃんに近い場所と言えるでしょう

「ここは、どこなんですか?」
…そうね、ここは…『心の中』、『鏡の中』、『光の中』または『魂の中』、『命の中』とでも言えばいいのかしら

…生きとし生ける者は、すべてここから出発して、またここに帰ってきます
…ここは、あらゆるものと繋がっています

…たとえば、地上で言えば、『陸』『海』『空』
…それぞれ、すべてと繋がっていて、離れているように感じても陸は必ず陸と、海は海と、空は空と繋がっているように、あらゆるものは心と心、魂と魂、光と光で繋がっているの

…地上に生きている間はそれが分からないだけよ
…あなたは、いつもこちらからの母しゃんへのエールを伝えてくれました。そう、あの『何も心配しなくてもいいのよ…』から始まる言葉です

「ありがとうね、菫」
「その声は…姉ちゃん」

…菫、あなたの仲間たちがお待ちかねよ

光さんは、雲のカーテンを開けました
「菫っ!」「ももちゃん、嵐も」

その先には、かわいい麦わら帽子をかぶったゴールデンが、これ以上幸せな顔はできないと言うくらい笑っています

!?…?!…!
「メグポン…?」

「そうよ(^^)、」
「こっちに来てたの?」

「うん、さっさ着いたばっかり(^^)」
メグポンは、こちらの世界がすっかりお気に入りみたい

さっきから、ルナちゃん、ラブさんやラッ君、スマちゃんや柴のももちゃん、犬太君、めいちゃん達ときゃっきゃ言いながら走り回っています

光さんは、言いました
…ところで、あなたの乗り物なんだけど、あなたやメグポンのような大きな人は、乗り物の代わりにこれを着けてあげることになってるのよ

そういいながら、光さんは星と雲を集めてこしらえたキラキラ光る翼を取り出しました

…さあ、あなた達…

そう言って翼を肩の後ろにパチンと着けてくれました

…どう、ちょっと羽ばたいて見てちょうだい

私とメグポンはゆっくりと翼を羽ばたかせました
すると、翼はだんだん大きくなり、身体がふわりと浮き上がりました

私とメグポンは、スカイダイビングをする人のように両手をつないでくるくると回りながら上へ上がります

メグポンの帽子からは黄色と白の花びらが、私の身体からはすみれ色とピンクの花びらが舞い落ちていきます

…さあ、あななたち、地上の愛する人のところに、ごあいさつにいってらっしゃい

「はい、光さん!」
言い終わらないうちにメグポンの姿は消えていました(きっと、しっぽ母さんのところへ行ったのね(^o^))


そして私もあっと言う間に、雲の間を通り、長いこと過ごした家のそばに降りてきていました

母しゃん…
母しゃんは、私だった身体をまだ抱っこしていました

母しゃん、ごめんね
私はもうその身体の中にはいないの

でもね、母しゃん
心配いらないの

私は、光の世界で自由に羽ばたく翼を着けてもらって、いつでも母しゃんのそばに来られるんだもの

母しゃん、私の身体、ずいぶん重たかったでしょう?
こんな重い私を抱えて毎日毎日、散歩に食事にウンやシーのお世話

ありがとう、母しゃん本当にありがとうございました
まだまだ、たくさんの弟や妹たちがお世話をかけるけど、どうか身体に無理しないで、元気に暮らしてください

いつか、遠い将来、母しゃんがこちら側に来る時は、みんなで大騒ぎしてお祝いしなくっちゃね

それから、また昔みたいにアジリティしよっか?
それに、ももちゃんの車でいろんなところにお出かけしたり、絵本やスクリーンの中に入って思う存分遊びましょう

それまで、いろんなマジックを覚えなくっちゃね
でも、あまりあわててこっちへ来ちゃだめだよ

その時が来れば自然に来ちゃうものなんだからね
それまでは、美しくてドラマチックな地上の生活を楽しんでください

あ、そうそう、柴のモモちゃんから預かってきたものあるんだ
はい!笑いじわパッチ
母しゃんのポケットに入れとくね
悲しい気持ちを忘れたいときに使ってね

ととさん、今までありがとうね
そして、いっぱい菫パンチをかましてごめんね

お兄ちゃん達
ありがとうね

泣き虫な母しゃんをどうか、お願いね

そして、弟分妹分のみんな
しっかり母さんを癒してあげてね

さあ、母しゃん、私は向こうの世界に戻るわね

私はいつも母しゃんのそばにいます

今まで本当にありがとう、ありがとう…、ありがとう(T_T)
私は母しゃんのこと、ずっと忘れません

また会う日まで、さようなら(^^)/~~~

菫はそう言って、パッチと一緒に小さなメモを母しゃんのポケットに入れました

メモには、こう書かれていました
『何も心配しなくてもいいのよ
あなたの生き方は間違っていないわ
もっと、自信を持ってね

菫はこのとおり、すっかり元気よ
安心してね

いつも、ありがとうね  菫』

おしまい

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