ミステリの部屋

ミステリの部屋

2006年10月20日
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ところがいつのまにか見慣れた金沢の町にいることに気づきます。
不可解に思いながらも自宅に戻ると、存在しないはずの姉、サキに出迎えられます。
そこは、自分が生まれずに、姉が生まれた世界でした。



ホラーを読んでいるときのような怖い、ではなくて、見たくない物を見せられる予感におびえたのです。
それは嵯峨野リョウがつきつけられるであろうこと。
同時に読んでいる自分にもつきつけられる、生きていることの意味。

これはパラレルワールド、のようなもの。
ある日、一人の女性が地下鉄に滑り込む。もしも間に合わなくてその地下鉄に乗れなかったら……その時はもう一つの違う人生があったはず、という映画がありました。
リョウの場合はその違う人生に突然放り込まれるのです。
しかもそこは自分が生まれなかった世界。代わりに別の人間が自分のポジションで生活しています。
それが姉に当たるサキです。


姉のサキがとにかく元気でまぶしくて、どこか奉太郎の姉を思い出させます。
リョウは無気力で、淡々と運命を受け入れることでしかやりすごせないこともある、と思って生きてきました。

自分でなかったからこうなった、という事実を次々につきつけられる残酷さ。
これは運命のいたずらなのでしょうか?それとも誰かのたくらみなのでしょうか?

ボトルネックの意味には衝撃を受け、
最後にリョウが姉に告げる言葉には切なくて涙が出そうになりました。

米澤さんの描く青春、今回はつらく痛々しいものでした。

絶望の中、最後の一行が皮肉で素晴らしかったです。
これを光と捉えるかどうかは人それぞれでしょう。

心に少しでも闇を抱える人が読むと、すごく揺さぶられることになると思います。
私はひととき、ぐだぐだになりました。


ボトルネック ボトルネック :米澤穂信








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最終更新日  2006年12月07日 18時12分34秒
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