ミステリの部屋

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2006年11月13日

風が強く吹いている：三浦しをん

(6)

テーマ：お勧めの本(7418)

カテゴリ：ミステリ以外の小説

新入生とわかった彼を、寛政大学4年のハイジは自分たち学生が住むボロアパート竹青荘（ちくせいそう）に連れて行きます。
通称「あおたけ」の10人目の住人が決まったとき、リーダー的存在であるハイジは「十人の力を合わせて、スポーツで頂点を取る。」と宣言します。
それが箱根駅伝だとわかったとたん、住人たちから巻き起こる怒号と混乱。
その挑戦がどんなに無謀な事か知っている陸上経験者の走は反対しますが、ハイジの熱意と根気とおだてと脅し（？）により、いつしか全員が箱根に向けて走り出すことになります。
壮大でとんでもない夢の行き先は……？

夫は元陸上部、しかも長距離だったので、影響を受けて私も駅伝やマラソンが一層好きになりました。
自分が走るのではなく、見て応援するだけですが。

今年の予選会もテレビで見ました。
そこには、箱根駅伝を目指してひたすら努力してきた学生たちの姿がありました。
ある大学では、これまで引っ張ってくれたエースが不調だから、自分たちが頑張らなければ行けないとみんなが同じ気持ちを口にしていました。
力走むなしく、ほんの何秒かの差で予選を通過できず涙にくれる姿もありました。

箱根駅伝は、全国からエースを集めた強豪校が何年もきびしい練習を続けて、それでもなかなか出場できないような大会です。
即席素人集団が出るなんて無謀です。

一緒に笑い、泣き、最後には一緒に走っている気さえしました。

漫画オタクや、お金持ちの留学生、気のいい双子、クイズマニアや司法試験に合格した秀才、などなど、個性的な面々が楽しい。
そして彼らの健康管理から練習メニューまで細かくサポートするハイジが偉い。

一人ひとりを実に良く見ている。そして理解し、それぞれに合った練習メニューを組んで力を伸ばす。こんな先生がいればいいのにと思うし、親としても見習いたいくらいです。

走っている時は、一人一人がいつしか自分と対話しています。
スムーズな人生ばかりではないけれど、この瞬間は誰もが同じ熱いものを感じている。
色々な思いが切なくてじーんときます。

何が起こるのかドキドキする読書も好きだけど、素直に身をゆだねて楽しい時間をすごす、こんな読書もたまにはいいものです。

箱根駅伝を沿道で応援すると、選手たちは信じられないくらい速い。
あっという間に目の前を駆け抜けていきます。
いい風が吹いているんでしょうね。

すぐにでも走り出したくなるような、痛快で爽快な青春小説。