2007年1月30日 【ジゼル】 -全2幕- レニングラード国立バレエ
2007年1月31日 【ジゼル】 -全2幕- レニングラード国立バレエ
(於:東京文化会館)
ジゼル: オクサーナ・シェスタコワ
アルベルト: ファルフ・ルジマトフ
森番ハンス: ロマン・ペトゥホフ
ペザント・パ・ド・ドゥ: タチアナ・ミリツェワ、アンドレイ・マスロボエフ(30日)
エレーナ・エフセーエワ、アントン・プローム(31日)
バチルド: ナタリア・オシポワ(30日)、オリガ・ポリョフコ(31日)
公爵: アンドレイ・ブレグバーゼ(30日)、イーゴリ・フィリモーノフ(31日)
ジゼルの母: アンナ・ノボショーロワ
アルベルトの従者: アレクセイ・マラーホフ
ミルタ: オリガ・:ステパノワ(30日)、イリーナ・コシェレワ(31日)
ドゥ・ウィリー: スヴェトラーナ・ロバノワ、エレーナ・カシチェーワ(30日)
タチアナ・ミリツェワ、エレーナ・フィルソワ(31日)
指揮: セルゲイ・ホリコフ
管弦楽: レニングラード国立歌劇場管弦楽団
ジゼルのことをゆっくり思い返す余裕もなかったけど(バヤデルカにすぐ巻き込まれたので)、ほんとにいい舞台でした。
おとぎ話の世界に入り込んだような、純真で素朴で心が温かくて、ほほえましい一幕前半。この雰囲気をつくりだしたのは、シェスタコワがそんなジゼルだったから、というのが大きいと思う。村のみんなが大切にしている、かわいらしい存在。かわいらしく恋をして、幸せな夢を見ているごくふつうの村娘なんだけど、か細くて壊れそうな繊細さは、薄幸そうな弱々しさもある。
男の人からすれば、守ってあげたくなるタイプというか、きっとルジはこんなジゼルがイメージだったのでは。あまりにかわいくて、恋に走っちゃうのを止められなくて、猪突猛進...。(おりしも今年は猪年) 両手をがしっと包み込むわ、超至近距離で見つめるわ、今年のルジは心の衝動を隠さない人だ...。
ルジがかわいらしいポイントがいくつもあって、ジゼルの一幕は楽しすぎだよ。
・ジゼルが家へ戻ろうとするのを遮って、微かに首を振り「だめだよ」と目で訴える。「行っちゃいやだ」にも見える。それが真顔なんだな。置いてけぼりにされそうな子供みたいで、超ツボ。
・恥らうジゼルの手をとり、「きみは、ぼくと、こうするんだよ。」というように腕を組ませるうやうやしい仕草。手をとられているシェスタコワが、なんともいえない顔ではにかんで、なんつー初々しさ。
・花占いが吉と出て、ふたりで腕組んで弾むようなジュテを繰り返すところ。笑顔になったジゼルに、満面の笑顔ではしゃぐルジ@アルベルト。
・胸が苦しくなったジゼルに慌てふためいて、頬をつつみ、顔色を見て、汗ばむ額に触れ、「あぁ、ジゼル…!」とその両手に二度キスをして頬をうずめるところってば、う~ん、とっても情熱的~。
・村人と踊りながらとっても楽しそう。ジゼルにしきりに投げキッスを繰り返し、大きく手を振るアルベルト。童心にかえっちゃって、とても貴族の振る舞いには見えませんが。つまりはジゼルといると素のままでいられる、自然体になれる。心を開放できる存在だったのね。
・母が出てきて、あわてて息を整え身だしなみをチェックするジゼルを背中合わせになって隠しているアルベルト。背中で愛おしさを感じながら、「まだ大丈夫だよ」と言っているみたいだった。
ジゼルといるアルベルトはもちろん美しいけど、気持ちがゆるゆる。(浮かれすぎ) でも、ハンスに向ける目のするどさといい、毅然とした態度といい、到底村人にゃ~見えない。
貴族の自分も身に沁みついていて、逃れたいわけでもないし、どちらの自分も同時にもちあわせているもの。でもいざバチルトが登場すると、ジゼルのことを否定してしまう。
ジゼルの繊細で子供のような愛らしさは、ちょっと異常かもというくらいだった。その純真さは心の繊細さでもあったから、裏切りという最もむごい事実にとても耐えられなかったのだと思う。
壊れ方がぞっとするほどで、音もなく、見る間に幼女のようになっていくジゼル。小さな花びらが、ひとひらひとひら散るように、少しずつ正気を失っていく。
そんなジゼルを信じられない面持ちで見るうちに、自分の身勝手さがジゼルを狂わせてしまった、と自分を苛むアルベルト。自分は卑怯なのだとわかっても、手を差し伸べられない。後ろを向き従者の肩に手を置くと、「見るのは耐えられない」なのか、「許してくれ」なのか、背中がつらそうだった。
シェスタコワは狂乱の場で髪をほどかず、ジゼルの中身がすっかり変わってしまったように、ふつうではない状態を示して見せた。髪を振り乱すと、いかにも気がおかしくなったとわかるし、激しく演技すればそれはまさに「狂乱」なのだけど、わざわざ髪をほどくのも考えてみれば変。
シェスタコワはもともと童顔なので、愛らしい顔は得意と言ったらなんだけど、四歳児かというような顔つきになってたときは、この人すごい、と思った。(次、ガムザッティやる人とはとても思えず) 内側から人間が壊れていく様って、きっとこんな感じなんだろうな。止めようとするハンスに向けた狂気じみた笑いが、実にコワかった。
ジゼルがくずれ落ちたとき、アルベルトの動揺は最高潮に達し、彼自身もなにかが壊れたのだと思う。
ハンスに八つ当たりする、勇ましいほどのルジの姿は、ファン・サービスなのかと思うほどカッコよかったし、あとでキレるならなぜ見放したのだ、とも思うけど、まさか死ぬなんて、ということなんでしょう。元を正せばおまえがばらすから悪い。と言うけど、もっと元を正すと自分が悪いんだよね。
どうあがいても自分が悪い。卑怯者の自分が(自分のなかで)クローズアップされて、心は激しく慟哭し、衝動的にその場を去った。その嘆きがあまりに強くて、目の前のものも見えていないようなアルベルトが痛ましかった。