さしの部屋

さしの部屋

アクイレイア

catedrale

ミラノでは一度週末を挟むことになっていたので、1泊の小旅行をと考えていた。
でも、泊めてくれていた友人に北イタリアのガイドブックを借りてめくってみてびっくりした。
少なくともその本では、掲載されている全ての街にもう既に行ったことがあったのだ。
そもそも、ガイドブックをめくって、行ってみたいところを選ぶ事って少なかったもんな最近。
大概は、見たいものがあって、そこに行くために泊まる街はどんな所かを知るために
ガイドブックを活用していた。考えあぐねていたら、友人が、他の本を貸してくれた。
その本は美術の評論家だか歴史家だかが、自分の興味を元にイタリアをまわった手記のような
もので、それでも、大概は行った事があるところが掲載されていた。
一泊でふらりと行ってくるのにちょうど良い所ってなかなか難しいんだよね。

が、その本の写真を見て、何?これってどこ?って思って地図を見て決定した。
ヴェネツィアの北、ユーゴとの国境近くの町。アクイレイア。
その本には見事なフレスコ画で埋め尽くされたクリプタの天井が写っている。
それを見ただけで、ここだ、って決めたけど、本当はどんなところなんだろう。
まあいいや、行って見るか。イエローページのホテル検索では3件しかない。
1個かけてみると、満室ですと言われ、本当かなと思いつつもワンランク上げて、
3つ星にかけてみた。地方都市の3つ星だから、ミラノの1つ星くらいのお値段である。

まあ、いいや、爽やかに予約完了。そして、土曜日朝。もともとの予定では
ミラノの駅に荷物を預ける事になっていた。ミラノ滞在の後半は別の友人の家に
泊めてもらう予定だったから。そうしたら、今まで見たことがないくらい、
荷物預かり所に行列が出来ているんだよね。
うそぉ。このままじゃ電車に間に合わない?ぎりぎりまで並んだものの、
さすがに見切りをつけて、荷物を持ったまま、ホームへと向かう。
まあ、今までのスペイン旅行はこの鞄と過ごしてきたんだ。そもそもそんなには
重くない。出発時に、空港で10kgちょっとだった。2週間の旅行にしては激軽でしょ。

電車は出発した。予想外に混んでいて、コンパートメントの外の廊下の引っ張って倒すタイプの
椅子に座るも、30分後には普通の座席に移動することが出来た。
ヴェネツィア・メストレ(ヴェネツィアは海の方に飛び出した繋がった島みたいな
立地ですが、大陸の方の街はここ。ヴェネツィアから電車で10分ぐらいの所)で
乗換えをして、北にローカル線で1時間ほど行った所に最寄の鉄道駅はありました。

3つくらいの街の名前が連名みたいになった名前の駅なのは気になったけど、
降りたら、まだそこはアクイレイアではないことに気付く。バスに乗ってしまえば、
15分程しかかからないのだけど、バスは一時間に一本で。。。

まあ、バスのチケットは買わなくてはいけないから、駅のキオスクに声をかけると、
駅の切符売り場で売っているっていう。めずらしい事だ。バスのチケットと言えば、
キオスクで何とかなるもんなのに。。ついでだから、翌日の電車の時刻について
駅員と相談してそちらのチケットも購入してバスを待つ。

ちゃんと電車の時刻に合わせているようで、バスは程なくして到着した。
最後の一本道を抜けて、アクイレイアに到着。運転手に、ここがアクイレイアでしょと
確認してバスを降りる。で、一歩も動かず、あたりを見回した。そして、気付く。
目の前にあるのが、私が予約したホテルなんだ。あらやだ。ラクチン。

ホテルで私を出迎えてくれたのは、どうやら昨日予約電話を受けた本人のようだった。
部屋まで案内してくれ、クーラーの使い方などの説明をしてくれた。
「私どもは夜12時間までレセプションをあけておりますが、それよりも遅くなる場合は
一本電話を入れてください。」と、いうのだけど、私はただの観光客なので
夕食後には戻る予定だ。そんなに遅くなるはずもない。
「いや、それまでには戻りますから、ご心配なく。」

綺麗なお部屋で、ツインルームだった。本当に暑かったし、スペイン旅行の時間的感覚が
身についていたのだろう。もう、4時半はまわっていたのに、観光の時間の事を考えずに
ゆっくりとシャワーを浴びてくつろいでしまった。はて、こんなことをしていていいのかな。

ホテルを出て、まずはカテドラルに向かった。例の天井画が目的である。
ホテルの裏手の街が広がっていそうな所に行って、そこがもう、
カテドラルの広場なんだという事に気付いた。何はともあれ、入ってみることにする。

navata

嘘でしょう?って思った。もしかして嘘なのかもしれないって思った。
床一面が少なくとも見た目にはロマネスクよりも古いと感じられるモザイクで
覆い尽くされているのである。いわゆる古代ローマ的な床モザイクは今までもたくさん見たことがあった。

だけど、ここのこの感じは初めてだ。ローマのものではない。初期キリスト教会の
床モザイクだ、古代ローマのものであるはずもなく、明らかにもう少し彩色が効いている。
でも、本で見てあこがれていたオートラントのもの(ロマネスク)ともなんだか違う。
私の頭の中に浮かぶ一番近い例は、ラベンナのモザイクなんだ。いや、ラベンナのモザイクと
いえば、ターコイズブルーなどがきらびやかなものをイメージする人も多いのかもしれないけど
床のモザイクは一方もう少しローマ的で、幾何学的だったりする。

でもここのは、幾何学性よりは、物語性がずっと強いし、先ほども言ったように、
彩色が随所に効いている。その一瞬で思った。ああ、私が知らないだけで、
すごい所っていくらでもあるんだなぁ。知らなかったなぁ。

ふと左手を見ると、クリプタの入口があって、入場券を販売するカウンターがある。
私はまだ、教会に足を踏み入れただけで、祭壇には近づいていない。通常、クリプタは
中央祭壇の地下部に位置しているので、何でこんな所に、って思ったけど、もしかして
ここに、例の天井フレスコ画があるのかもしれないし、とりあえず、入ってみることにする。

cripta2

入ったら、もう、これは、嘘ではないんだとはっきりと気付く。先ほど見かけたような
床モザイクが、教会の北側にもっと雄大に広がっているんだ。その“クリプタ”をぐるりと一周できる
経路になっていて、ガラスで作られた遊歩廊は、その下のモザイクを余す所なく
私たちに見せてくれるんだ。そして気付く。私たちは、モザイクの上に無造作に築かれた
後世の塔を一周している形になる。確かに、外観で確認できたあの、塔である。

cripta3

一周周り終わると、私は、もう一周、ゆっくりと歩いてみた。ガラスの床の下には、
1つづつ目を見張るようなモザイクが連なる。動物表現が目立つ。ヴェネツィアも近いこの土地、
海が近いこの立地。日本で言うところの、“伊勢海老”のような姿も見られる。

mosaico

そのクリプタを出て、身廊の床モザイクを見学しながら、中央祭壇の方に進む。
中央祭壇の地下部の入口と思われるところに、先ほどのようなチケット売り場がある。

今度こそ、例のフレスコ天井画があるに違いないと思って、チケットを買いたいと
売り場の女性に言うと、さっきのクリプタの半券で第2のクリプタに入場できると
いうことが分かる。入ってみる。すぐに、友人の本で紹介されていたクリプタだと分かる。

cripta1

クリプタのフレスコ画は確かにすばらしかった。だけど、、先ほどの驚きよりは
ずっとひそやかで、だけど、やっぱり美しかった。1つずつ、内容を確認しながら見入って、
そのクリプタを後にした。先ほどのチケット売り場の人は新たに来た人に説明していた。
「もうすぐ、閉館するので時間がありませんが、それでもよろしいですか?今日は6時に閉まるんです。」

6時と言えば、後、15分だ。私は、慌てて、教会内部を見学した。
身廊の床モザイクは、第一のクリプタに負けず劣らずすばらしい。ヨナがみられる。
大魚(鯨)に飲み込まれるシーンと、吐き出されるシーンが確認できる。
描写が繊細でリアルだ。海辺の街だけある。他にも、あれもこれも。
だけど、時間が近づいたので、私は慌てて外に出た。

手前に見られた洗礼堂が閉鎖されるのを恐れたからだ。洗礼堂は教会にくっついている。

battistero

入ってみると、通常の8角形ではなく6角形の洗礼盤がある。
洗礼盤内部には、また、6角形の段があり、浸かりやすい工夫もみられる。
こう言うの、見たことなかったかも。6角形でこの形。洗礼盤の直径は4mほどある。
潜水式の洗礼盤なのだ。つまり、全身を浸すタイプの洗礼をしていたのだ。
通常、キリストに洗礼を授けた洗礼者ヨハネにまつわる8という数字にちなみ、
8角形が取られるが、ここで、あえて6角形であるということは、意図があってのことだろうか。

教会の裏の、ローマ時代の物資の運搬をになっていたであろう運河沿いに歩いてみる。
地元では聖なる道と名付けられた遊歩道になっていた。確かに、惜しげもなく、
ローマ遺跡が広がり、紀元前の遺跡がこともなく並べられている。思えば、
先ほどのカテドラル(司教座が設けられる街のメインの教会)の前の広場にも、
通常では考えられないような、墓石や、柱頭が、まるで、ほんの飾りと言た
具合に野外に並べられている。
ちょっと行ったところには、床モザイクの装飾豊かな遺跡も広がる。本当に惜しげもない感じだ。

聖なる道を越えたところには、初期キリスト教時代の博物館があるのは分かっていた。
民家を抜けて、気付く。休館日なんだ。残念。じゃあ、引き返して、
もう1つ、重要そうな考古学博物館へと足を伸ばす。庭があって、所狭しと、考古学的石彫が並ぶ。
だけどおかしいの。閉館時間には1時間以上あるはずなのに、庭を囲む柵の一部の、
博物館入口に鍵がかかっているんだ。納得いかず、がたがたと門をならずと、少しして鍵ははずされた。
私は、やっとの事で、迎え入れられるように館内に足を踏み入れる。

チケットを買う時、あと一時間で閉館しますと念を押された。
地方の町の考古学博物館なんだ、十分なのではないかと思った。
他に客が居ないから、追っかけるように私の動きに合わせて、
監視員が私に目を光らせていた。ひどい時には、平気で、「あがったよ~、
彼女、2階に。」って声が聞こえ、3人ぐらいが慌てて私について来るんだ。
これじゃ、落ちついて見学も出来ない。でも、馬鹿にしていたけど、
びっくりした。量も質も考えられないほどに充実しているんだ。

3階建ての博物館の1階の奥の部屋にたどり着いた頃、おじさんが寄ってきて声をかけてくる。
「倉庫の方、今開けたけど、一緒に見に来るかい?」
行く行く行く。時間がないけど、そんなの、断る理由が思い当たらないでしょ。
中庭を抜け、倉庫に近づく。困ったもんだ。中庭にも、所狭しと展示品が並んでいるんだ。
え?ちょっと何これ。ヨーロッパに数ある考古学博物館の中でも、密度が本当に濃いんだ。

倉庫は、別棟の建物だったが、この倉庫だけで、1つの博物館が十分に成立しそうだった。
本館よりも、乱雑にものが並んではいるが、ぞろぞろありすぎて
どこに置いていいのか分からないような感じの色んなものが、収められていた。

最後の部屋が、特に印象的だった。どこの考古学博物館でも見ることが出来るローマ時代の
ガラス製品に並んで、ガラス自体が加工されているものの破片が色々と置いてある。
加工されているとはどういうことかと言うと、例えば、よくヴェネツィアで見かける
モザイク柄やマーブル柄がガラス自体に入っているということだ。
ガラス製品のシルエットの繊細さを見るのとは違う、テクニック自体が驚きなのだ。
こんな時代にここまでの技術があったの?見たこともないよ。

おじさんに聞いてみることにする。「こう言う柄が入っているガラスの考古品はめずらしいですね。」

でも、おじさんのお返事は本当にあっさりしている。
「ああ、そうそう、ムラーノ(ヴェネツィアのガラスが有名な島)よりもずっと前のもんだよ。」
って、こんなものを見なければ、ガラスモザイクなどのテクニックはムラーノが
オリジナルのものなんだろうって思っていたよ。知らなかった。

と、感動するのもつかの間、ふと、半2階にずらりと並べられたガラスの壷が目に入った。
200個くらいあるだろうか。何かが入っているのが見えるんだけど、よく分からない。

「ところで上の、あの壷には何が入っているんですか?」
「ウルナ(骨壷)の中身だよ。」え?そう言えば、、、最初にこの博物館に入ろうとして
門をガタガタした時に気付いていた。庭に、たくさんのウルナが積まれていて、
まるでピラミッドのようになっていた。一辺が3mくらいありそうなのが3個か4個あったんだ。
「ああ、あの、庭に積まれているものの中身なの?」

urne

おじさんは「そうそう。」と答えるけど、ここにある何百個かの壷は全てではない。
きっともっとあるんだけどまだ、全部開けられていないんだわ。数が多すぎるんだ。
この街は一体なんなんだろう。ローマ遺跡が整理できないくらいに溢れている。

その後も、博物館に戻り、丁寧に見学するが、あまりの監視状態に結局、閉館時間よりも
随分と早くその場を去ってしまった。でも、満足。他の、ヨーロッパの考古学博物館とは
何かが明らかに違っていたから。展示品と、住民の関係が違うと思う。もっとずっと人に近い。
もっとずっと、その古代との関係が近い。そんな気がした。確かにローマも日常に非常に近いところに
考古というものがあるが、もっともっと、重い敬意が感じられる。でも、アクイレイアでは
そのあたりが、自然なんだ。考古学博物館に収まっていないいろいろな物も、自然なんだ。

その後、観光できる時間も終わり、野外の遺跡を見学したあと、街をさまよってみた。
夕飯を食べれるレストランも探しておきたかった。が、しばらくして気付く。
あ、この街には、中心の徒歩で歩いていける圏内にはレストランがないんだ。
テーブルが外に出ているお店はいくつかあったけど、軽いランチを取れる程度のバールであって、
夕飯は取れそうにないものばかり。確かに、人口は3000人と言っても、
周辺に広がる広い農地を含めてのことであろうし、もう、いざとなったら、
泊まったホテルにレストランがあったのは確認していたし、そこで食べるしかないなぁ。

私は諦めて、また、食前酒がてら、広場でビールを飲んだ。スペイン旅行の名残というか、
いずれにしても夕飯には少し早かったから。カテドラルの前の広場では
いろんな事が起きる。ボーイスカウトがいっぱい、街に帰ってきて解散したり、
夜、広場で行われるコンサートの準備をする人が行き来したり、もう閉まってしまった
カテドラルの前で記念撮影する人が現れたり、そう、このバールの横に座っている家族はスペイン人だ。

ホテルに戻り、レストランに足を向ける。私を出迎えた彼女は、先ほど、部屋に案内してくれた
あの人だ。バスで来たことも分かっているのに、12時をこえる事を心配したのはなんなのよ。
そこでしか食事、出来ないのにさぁ。イジワル。さあ、どんなレストランだろう。

奥に進むと、広いホールのようなレストランがあった。先客は3組程度。
老夫婦や、一人旅らしい短パンの外国人青年。そしてもう一組は、大家族なんだ。
どうやら地元の人らしく、各世代10人ぐらいのグループなんだ。こう言うグループが
このレストランの基本的な財源なんだろうなぁ。

まず、老夫婦はしばらくして席を立った。ホテルの部屋に戻ったんだろう。
その後、短パンの青年が面白かった。ご飯を食べ終わり、退屈していたのかもしれない。
トイレにでも行くのかと思うような感じで立ち上がり、レストランの内部をくまなく
観察しているんだ。しかも、カテドラルのモザイクを真似た壁画を見るだけならば気にならないが
ごくごく神妙な顔で、腕組みして彼が近づく先には、イタリアではあまりにありきたりな、
例えば日本の街で、自動販売機を見るくらいに平凡な、生ハム切り機を見ているんだ。

しばらくして、大家族と私だけになった頃、もう一団体がやってきた。
やっぱり地元の大家族だった。大家族の集いは、ここのレストランでするのが
基本なのかもしれない。確かに、味はおいしかった。メインディッシュに頼んだ
アンコウは盛り付けもオシャレで味も格別だった。ただ、店員さんは
あくまでもボーっとしていて、お会計の時も、「あ、ワインの料金入れるの忘れた」って
叫んで、伝票に500円ぐらい足して口頭で言って来るいい加減さ。
まあね。騙そうとしているんじゃない事は、よ~く分かりますよ。

さてさて明日。まだまだ、今回の旅行は続く。まだまだ、長い話が続くんだ。。



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