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イベロ・アメリカ研究所シンポジウム
上智大学イベロアメリカ研究所主催のシンポジウム
上智大学イベロアメリカ研究所主催のシンポジウムに行ってきました。’2005年11月記)
テーマは「人間の安全保障を脅かす<新自由主義>とは何か~「構造改革」日本の未来/ラテンアメリカの経験から考える~」
内容をざっとまとめてみます。
内橋克人氏
1.構造改革は新たなもっと深刻な構造問題を生み出している。
・working poor と呼ばれる働いているのに十分な生活が得られない人々
・労働差別 ひとつの企業に正社員、と非正社員がいる。非正社員にはフリーターのほかに、自営ということにはなっているが、実際には雇われている人と、生産受託会社からの派遣社員がいる。給与など待遇にも差があり、トイレの順番まで決まっていたりする。
貧困が装置化されてゆく。
・地域社会の崩壊を放置している(財政が苦しくなり交通手段もないなど地域コミュニティーの機能が崩壊)。市町村合併により、新たな僻地ができたり、廃村寸前の村が多数ある。
2.戦前から続いてきた日本人の魂に「くさび」が打ち込まれた。
日本人は義理堅い、勤勉、情に厚いなど美点を持っていたが、強いものに弱いという短所があり、いじめられるのが嫌だからいじめる方にまわってしまうという、頂点同調主義(コンフォーミズム)、群集心理、熱狂的等質化主義が生じている。
3.
「小さな政府大きな国民負担」
に1日も早く気付いてほしい。
佐野誠氏「アルゼンチンを超えて~強制経済への戦略」
アルゼンチンは早くから構造改革を行ってきた。構造改革とは、新自由主義による自由化、規制緩和、民営化など。しかし、大失敗したので、補正し、立ち直ってきたところでまた構造改革を実施したところ、また経済が落ち込んでしまった。失業率、不完全雇用、貧富の格差、自殺率が上昇した。
日本でも構造改革は今はじまったわけではなく、今やっているのはこれまでの延長で、規制緩和による98年の金融危機以来、それまで2万人だった自殺者が1万人増え、3万人になった。
日本より先に新自由主義をとりいれ失敗した南米に学ぶことがあるのではないか?
ブラジルでは「社会自由主義」の思想が生まれている。
チリでは「第3の道」
チリでは貧富の差はまだそのままだが、教育や医療はよくなってきている。
共生経済へ転換するには、権力構造を変えないといけない。南アメリカの野党連合などがヒントに?
小池洋一氏
日本の風景がブラジルに似てきた。高層ビルが建つ華やかな街がある一方でシャッター商店街がある。
ブラジルでは80年代に経済が落ち込み「失われた10年」と呼ばれるが、当時高級マンションが建つ一方でホームレスも増加した。
ブラジルでは4分の1の人が4分の3の富を持っている。
日本も税制、社会保障が変り、不平等が大きくなるにつれ、治安が悪くなるだろう。
競争は社会に活力をもたらすという意見もあるが、短期的な効果しかない。競争力をつけるため労働単価を下げれば国内の市場は高級品と100円ショップなどに二極分化し、どちらも輸入品が多いので日本の活力にならない。
ブラジルでは「社会自由主義」という考え方が生まれており、外交、防衛などは国家の仕事だが、他のことは民間でやる、社会的サービスは国家がお金を出すが運営するのは民間でやる、また、私企業に対し社会的責任(公害や子供の労働などの問題)と、収益の分配、マイノリティーの扱いなどに関して報告を求めるなどの内容になっています。
地域社会を強くする試みもあり、150の都市で市民が予算を決めている。
協同組合、労働者自主管理企業(倒産した企業を労働者が経営)、交換クラブ、零細企業のアソシエーションなどが多様な支援組織の支援を受けて新たな経済「連帯経済(共生経済)」を創造しようとしている。
今井桂子氏
コスタリカは中米にある面積は日本の約7分の1、人口400万の国で、そのうち100万人は難民を受け入れた。
「中米のスイス」と呼ばれ憲法で非武装平和・中立・民主主義を宣言している。非武装といっても、必要なときには軍隊を組織できることになっているが、高校生、道行く人へのアンケート、どちらも「もし攻め込まれたどうしますか?」という質問には皆が「外交力、交渉力、国際世論で戦う」と答える。
コスタリカは労使の対立などから内戦を経験しており、2度とそのようなことを起さないため1949年平和憲法を制定した。
中米紛争の折にはアメリカが基地を置こうとしたが、断ったため、和平交渉の仲介に立つことができ、アリエス大統領はノーベル平和賞を受賞した。
それが国民の自信になっている。国民の政治参加の意識も高い。
クエーカー教徒の移民が寄付した土地に世界の平和運動のセンターがあるが、そこでは講演会のあと、全員参加の討論会がある。運動をやらないとコスタリカ人も忘れてしまうからだそうだ。
もともと資源に乏しいため、教育に力を入れている。
高福祉高負担。
環境保全に勤め、エコツーリズムが外貨収入源になっている。開発は人間にとって幸福な暮らしのための手段(人間開発と呼ぶ)。
有機農業で付加価値をつけた農業生産物を輸出。
ネオリベラリズムに対しては慎重。
「コスタリカ」的ライフスタイル―中庸・現実主義、信頼関係の形成と対話、世界に向けた積極的な価値観の発信と理解者の獲得
学校では「正直、友好、平等、公正、善良、慈しみ、寛大」などの価値観を教えている。
個人が違憲だと提訴できるので、最初はアメリカのイラク侵攻に賛成の国にはいっていたが、一法学生が違憲だと提訴し、国民が賛成し、国としても反対することになった。
WTOに加入することにより、食糧の自給率が低くなってきたり農民の生活が苦しいなどの問題がないわけではない。
質疑応答(時間の関係で質問は休憩時間に紙に書いて提出)のコーナーでの話題も貴重なものでした。
日本の与党は労働契約法をつくり、強い企業と弱い個人が1対1で戦わなくてはならないようにしようとしている。労基法そのものが改廃される。
公衆衛生もいらない、という方向にもっていこうとしている。
アメリカでは4500万人が健康保険に未加入で病気になっても病院に行かれない。
新聞では権力にすりよる「権論」が幅をきかせている。今回の選挙で自民公明の得票率は50パーセント切っている、という意見に対し「いまさら」と書いた学者がいるが、その人は
小選挙区制が導入されるとき、反論に対し、改革に水を差す、などといっていた。
全世界の経済学部で教えているのはミクロ経済学であり、基本的に新自由主義の立場に立っていることを考えると恐ろしい。
アルゼンチンでは民営化した結果、公共料金が高くなり、それにより経済力が弱まり、アクセスできない人も増えた。
コスタリカでは軍事力に頼らない「人間安全保障」をモットーにしているが、国家安全保障というものは本来人間の安全を保障するはずなのに、わざわざ「人間」と強調しなければならないのは、国家と個人が乖離してきていることを示している。
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