ロス・ブラウンのホンダ代表の就任に時を同じくして、フェラーリも人事の刷新を発表している。ニュースの扱いとしては小さいのだが、奥深い内容が含まれている。中心はF1レース監督の地位にイタリア人ステファノ・ドメニカリが抜擢されることにある。この職はフェラーリチームの中心であり、ジャン・トッド代表が兼務していたものである。この重要な地位にイタリア人が就任するということが、フェラーリの政変を予感させる要因である。ジャン・トッドは事実上レースの指揮から引退することになる。
トップ人事というのは、日本とイタリアでは大きな違いがある。日本では鎌倉時代の北条執権以来、将軍職は飾り物にすぎない。徳川時代も将軍は置物であり、実権は幕閣が握っていく。日本では会長や社長は顔であり、実質的に企業を動かしているのは下部の組織であることが多い。トップが先代のお坊ちゃまでも、企業経営に影響が出ないようにする知恵でもある。イタリアは違う。絶対的な権力を持つドンがすべてを取り仕切る。権力の移譲が行われた場合は、ひざまずいて新たなドンに忠誠を誓うことを求められる。反逆者は許されない。(映画ゴッドファーザーを見た人は理解できるだろう)
ステファノ・ドメカリがイタリア人というところが鍵になる。単なる監督後継者というよりも、フェラーリの新たなドンに選ばれた可能性がある。最終戦でライコネンが王座を獲得したことが、この政変の起きた要素と思われている。新たな「フェラーリのドン」になるためには、血で実績を示さねばならない。激しい権力闘争の果てに、フェラーリの頂点に上り詰めたドメニカリは覚悟している。この新体制に反発したステップニーがスパイ事件を起こしたことは知られている。ドメニカリがイタリア人であるということを考えると、ジャン・トッドの後継というよりも、モンテツェモロの権限を受け継ぐ可能性が高い。
フェラーリがロス・ブラウンを手離した理由が取りざたされている。新執行部が優勝という結果を出したことで、ロス・ブラウンの必要性が否定されたのである。新執行部にしてみると、もう「よそ者」は要らないという強い姿勢を打ち出したことになる。多国籍軍と呼ばれていたシューマッハを中心とした旧首脳陣の多くはフェラーリから去ることになるだろう。そして、どうやら「イタリア人によるイタリア人のためのフェラーリ王国」が始まるらしい。ドメニカリがどれほどの権力を握れるかは、レースの実績にかかってくる。それさえやり遂げれば、新たなドンとして認知されていくだろう。もし、つまずくと不満を持つ挑戦者が現れるはずである。イタリア人社会にドンは一人しか存在しないから。