戦場の薔薇

戦場の薔薇

長すぎて書き切れなかった短編小説?

ERX-XXファンタム・ガンダム

ERX-XXファンタム・ガンダム。

ガンダムという名を正式名称としているが、その実はお粗末極まりない連邦軍の策略によって発生したイレギュラー的MS。
内部構造は、ほぼRGM-79ジムの素体を用いており、概観形状の変化に伴う重量増加から来る機体バランスの粗悪化を補う為、各種補強が加えられただけの偽りのガンダムと言って良い。
基本兵装として、ビームサーベルを二本とシールドを装備。加えて、100mmマシンガンを腰部に取り付ける事が可能となっている。


第二段「白い亡霊、ファンタム」

UC.0079.10.07

一ヵ月後にオデッサ作戦を控えた連邦軍は、その足場固めの為、着々と水面下での活動を続けていたが、前日には、ジオン公国軍のギレン・ザビ総帥による大演説が展開され、ズム・シティにおいてガルマ・ザビの国葬が行われた事で大きな動揺を見せていた。
この頃、地球連邦軍の極東方面軍に属する独立機械化連隊の連隊長イーサン・ライヤーの下に、ある一報が齎される。
中央アジアの砂漠地帯に、ジオン公国軍のMS部隊が降下を果たし、連邦軍に対する反抗作戦を企てている。との事だった。
そこで、イーサン・ライヤーは、極東方面軍所属機械化混成大隊コジマ大隊に、これの殲滅を命ずるのだった。

「少尉。君には、コジマ大隊と合流し、この作戦に参加して貰いたいと思っているのだよ」

イーサンの執務室にて命を受けた一人の青年。
彼の名は、ジェフリー・K・キシタニ。
歳は、二十五歳。細身の長身で、ジェフの愛称で親しまれる女性にも人気の高いMSパイロットだ。
性格は軽薄。上官の前に立つ今も、袖を捲り上げた軍服のボタンを外し、全開の状態で臨んでいる。

「喜び給えよ。先の戦闘での功績が認められてね…。君には、この作戦から専用のMSが用意される事になった」

前回の戦闘で、単機による特攻から敵MSを十機も撃墜した彼は、上層部にその功績を認められ、遂に専用のMSを与えられる事になった。
しかし、彼は素直に喜びはしなかった。
何故なら、この処置には疑問があったからだ。
日々命令違反を繰り返し、目の前で仰け反るこの男にも、いい加減目を付けられていたのだ。
如何に戦果を上げたと言っても、そんな自分に対して専用機が与えられるなど考え難い。
そして、その予想は見事に的中する。

「チッ、やっぱりそういう事かよ…。あの腐れイーサンがっ」

彼に与えられた専用機。それは、粗悪極まりない代物だった。
外観はV作戦によって量産計画が進められているRX-78ガンダムに偽装されている。
これは、恐らく敵の目を引き付ける為だろう。
だが、その実はRGM-79ジムの素体に追加装甲を施しただけの動く棺桶。
重量過多でロクに動く事も儘ならないようなMSだった。
その上、今回の作戦という物にも裏が見付かる。
イーサンは、ジェフの率いるMS部隊に敵戦力の謝った情報を与え、陽動をかけさせた後、別働隊による敵本拠地の制圧を目論んでいたのだ。
つまり、彼はロクに戦う事も出来ないMSと少数部隊で囮として敵軍陣地に乗り込み、戦死して来いと命令されたのである。
だが、コレを断る事など出来ない。
軍属である以上、如何に彼が軽薄な男でも、命令には従わなければならないのだ。
ジェフは、最低限可能な改修を自らのMSに施し、東アジアの砂漠地帯へと飛び立つのだった。

「コレが、最後の戦いになるかも知れねぇな…。なぁ?相棒」

コックピットの中で、ジェフは小さく呟く。自身が駆る専用MS、ERX-XXファンタムに…。

東アジア砂漠地帯。
コジマ大隊と合流を果たしたジェフは、極東方面軍所属機械化混成大隊大隊長コジマ中佐の計らいにより、可能な限りのMS部隊を借り受ける。
しかし、それでも未だ油断は出来ない。
何故なら、イーサンから得た情報では、敵MS部隊は多数であるとされていたからだ。
もし、この情報が本当に誤りであったなら、敵は多数ではなく、大多数である可能性が高い。
そして、現地に到着したジェフは、その残酷な現実に打ちのめされるのだった…。

「クソ…、冗談じゃねぇっ」

ジェフが見たのは、砂漠の向こうに待つ巨大な軍事施設。
彼が想像していたのは、精々大規模な野営陣程度だったのだ。
だが、その現実は余りに過酷な物と言える。
単純に考えて、砂漠のど真ん中に基地を構えるなど容易な事では無い筈だ。
ならば、この基地は、遥か以前からこの場所に存在し、しかも、ジオン公国軍が頻繁に出入りしていたと言える。
敵戦力が多数などと…それ所の話しではない。
これは、一個大隊が配置されていても不思議ではない状況だった。

「確認出来るだけでも、敵MSは十機…。格納庫にゃ、あとどれだけ隠れてやがるんだ?」

コジマ中佐が用意してくれたパイロット達は、みなエース級の兵ばかり。だが、数は五人…。つまり、味方のMSはたったの五機しか存在しないのだ。
如何に性能で勝っているとはいえ、ジオンのMS-06ザクIIは強力だ。しかも、その数が最低でもコチラの戦力の倍以上と考えると、死を覚悟したくもなるだろう。
しかし、隊員の一人が敵陣営に奇妙な点を見付けた。

『隊長、妙じゃありませんか…?』

それは、敵MSの基地内における布陣状況だった。
イーサンの情報では、敵陣営の南西が守備も手薄だとしていた。
そして、南西からの侵攻を余儀なくされたジェフ達だったが、目の前の軍事施設は、本当に南西の方角が手薄だったのだ。
これを奇妙と言わず、何と言うべきだろうか?
イーサンは、これまでの情報で全て真逆の内容を告げている。しかし、ここに至って、情報が正しいなどと…。
推測を巡らせるなら、イーサンの情報に、最初から間違いがあったのか。それとも、敵軍が既に連邦軍からの攻撃があると情報を聞き付け、北東の守備を固めているのか。
しかし、そのどちらも考え難くある。
もう一つだけ、考えられる可能性がある。だが…、それだけは、考えたくなかった。

「とはいえ、都合はいい…。上手くやれば、いけるかっ」

おそらく、イーサンが派遣した別働隊は、既に北東に陣取ってコチラの出方を覗っているだろう。
ならば、作戦通り、少数の敵を弱所から小突いて戦力が整う前に各個撃破すべきだ。
ジェフはファンタムを駆り、友軍のジムに対して攻撃開始の合図を出すのだった。

「ん…今、南西で何か…っぐぉあっ!!!」

友軍機のジムが放った180mmキャノンの一撃が、ジオンの軍事基地を守備するザクIIの胸部を直撃し、木端微塵に粉砕する。
その轟音を皮切りとし、砂漠の砂山を陰に潜行していたジェフが率いるMS部隊が一斉に飛び出し、攻撃を開始した。

「なっ、どうなっている!敵は北東から進軍して来るんじゃなかったのかっ!?」

ジオンのMS部隊に明らかな動揺が広がっていた。
ジェフ達にとってはそうでなくとも、状況は彼等に味方し、計らずも奇襲と成り得たのだ。
残された九機のザクIIが次々とジェフ達に向かって襲いかかる。しかし、おかしな事に、基地内からそれ以上のMS部隊は出撃して来る気配がなかった。

「いけるっ!!全機、固まって行軍。各個包囲し、確実に数を減らして行けっ!!」

『了解!!』

数で劣るジェフの部隊だが、奇襲という条件とその指揮により、徐々に敵MSを撃墜して行く。
そして、十分が経過しようという頃には、敵MS部隊は壊滅。
基地の制圧を開始するまでに至っていた。

『隊長!基地の制圧を完了しました。ですが…』

ここに来て隊員の一人が、またも奇妙な事を報告してきた。
それは、MS部隊以外に、この基地に敵兵の姿が見えない。という内容だった。
だが、奇妙なのはそれだけではなかった。
ジオン軍が仕使用していたにしては、余りに基地の荒廃が進んでいたという事だ。
遠くから見ていては気付けなかったが、基地の外壁は所々剥れ、格納庫や工場らしき跡には錆による腐食も強く見られる。
そこがまるで、ずっと前から破棄された場所であったかのように…。

「どういう事だ…?」

ジェフは小首を傾げた。だが、その答えは直ぐに見付かるのだった。

『ク、クソ…ッ、もはや貴様等でも構わん。この基地と…心中して貰うぞっ!!』

「なにっ!?」

突如として基地の各所から検知される高熱源反応。
それは、基地に設置された大量の爆発物が発する物だった。

「ちぃっ、全機転進!速やかにこの戦域を離脱しろっ!!」

悪い予感は的中してしまった。
もっとも考えたくなかった展開。…そう。これは、ジオン軍が仕組んだ罠だったのだ。
この基地に大多数の敵戦力が駐屯していると嘘の情報を流し、大部隊を率いて制圧に来た連邦軍を基地ごと爆破する。そういう作戦だったのだろう。
だが、現実に現れたのは小規模のMS小隊。
爆破の機会を見誤った起爆者は、耐えに耐え兼ねて、遂に起爆スイッチを押したのだ。
しかし、ジェフの素早い判断が功を奏し、友軍機は一機たりとも爆発に巻き込まれる事はなかった。

「…ったく、とんでもねぇ奴等だな…」

額に浮かんだ嫌な汗を拭い、ジェフはフッと溜め息を吐く。
しかし、これで作戦は成功。見事に敵軍を退けた。
歓喜に湧く隊員達。しかし、その直後、状況は一変するのだった。

『ザ…ザザー…ッ隊!…ザッ…援を…とむっ!!…ザザーッ…シタニ隊ッ』

突如、ジェフのファンタムに届く声。それは、救援を求める別働隊からの通信だった。
ミノフスキー粒子のせいか、通信内容は上手く聞き取れないが、どうやら別働隊が敵MS部隊に奇襲を受けているとの事だった。
恐らく、基地の爆破の後、後詰めとして残存兵力の掃討任務を行う予定だったジオンのMS部隊が基地の爆破を合図に別働隊へと奇襲に転じたのだろう。

「馬鹿が…っ!くだらねぇ作戦なんぞ考えるからっ」

イーサンの作戦が裏目に出てしまったらしい。
別働隊は既に任務が完遂されたと踏み、浮き足立っていたのだろう。
そこへ大部隊に奇襲をかけられ、反撃の機会を失ってしまったらしい。

『全くですね。助ける必要なんてありませんよ。ねぇ?隊長』

『そうですぜ。こちとら危うく殺されかけたんだ。今更何が救援だっ』

口々にイーサンに対する不満を口にする隊員達。
言うなれば、捨て駒として使われたのだ。無理も無い。
だが、彼だけは、その救援に応えようとしていた。

「悪いが…ココからなら、お前等だけでも帰還出来るよな?」

『え…?』

隊員達の表情は、まるで信じられない物でも目にしたかのような驚いた物だった。
だが、そんな彼等に背を向け、ジェフはファンタムを基地の北東に向ける。

「…オレは、軽薄な男だ。けどよ…」

そこまで言い掛け、ジェフは微かに微笑んだ。

「仲間を見捨てるような男にだけは、なりたかねぇんだ」

そう言うと、ファンタムは隊員達の返事を待たず、空高く飛び立つ。
目指す先は、北東の別働隊が奇襲を受けているであろう地点。
前方に黒煙と爆光が上がっている。これ以上に目立つ目印などありはしないだろう。
ジェフは…ファンタムは、只管に走り続けた。
一分でも、一秒でも早く、仲間の下へと駆け付け、救いたい。
どうしてこんな性分に生まれてしまったのか、そんな事を口では悔やみながらも、呆れ顔で自身を笑う。
そんな自分が嫌いではなかった。
しかし、偶然から救われた命をみすみす捨てに行くような物。
奇襲を受けたせいだとはいえ、大部隊が救援を求める程の相手だ。当然の結果として、未来は見えている。
だが、それでも、ファンタムの脚が止まる事はなかった。
そして、ジェフとファンタムは、遂にその場所へと辿り着くのだった。

「生きてるなっ?お前等っ!動ける奴は、誰でもいい。被弾した友軍機の後退を援護しろ!」

颯爽と戦場に降り立ち、先頭に立って指揮を執り始める白いMS。
追い詰められた友軍機は、その勇姿に奇跡を感じたのかも知れない…。

『白い…MSっ!?』

『ガンダム!?ガンダムが来てくれたのかっ!?』

『ガンダムだってっ?あの、各地で多大な戦果を上げてるっていう…白いヤツかっ!?』

『勝てる…。この戦い、勝てるぞっ!!』

ガンダムという名。そして、その存在が、窮地に追い込まれた友軍兵士達を鼓舞していた。
各部隊の動揺は一気に沈静化し、足並みまでも揃い出す。
これが、ガンダムという存在が持つ英雄的価値。
曲がりなりにもその名を持つこのファンタムは、自身の機体なのだと、ジェフは今更ながらに確信させられた。

「…けど、コイツは…」

そう。見た目こそガンダムに似せて造られてはいるが、中身はただのジム。
しかも、そのジムの性能を、規格外の装甲で覆っている為に、完全に殺してしまっているような粗悪な機体。
彼等もまた、知らされていないのだ。
イーサンの作戦に、踊らされているだけなのだ。

「…クソッタレが。ガンダムって名前が重荷なんだよ…っ」

しかし、そう叫びながらも、ジェフはファンタムの手にビームサーベルを握らせるのだった。

「死ねないじゃねぇか…。コイツが、ガンダムである以上はよぉーっ!!」

ビームサーベルとシールドだけを手に、ファンタムは走り出す。
行く手を遮るザクIIの大群を前に、敢然と立ち向かうその姿は、友軍を更に勇気付ける。

「ぅおぉるあぁぁぁーーーーーーーっ!!」

『な、なんだ、この白い奴…ぁぐはぁっ!!?』

『ちきしょうっ!コイツ、こんなに遅いのに!遅い筈なのにっ!!』

ジオン軍のパイロット達から見れば、そのファンタムの動きはジムと戦うよりも遥かに遅く感じられただろう。
だが、交わせなかった。…いや、動けなかったのだ。
ジェフの放つ気迫。そして、威圧感に、身体が萎縮してしまっていたのだ。
しかも、それだけではない。
明らかに、ザクII達の攻撃は、先読みされているかの如く交わされていた。

「当たってやれねぇんだよ…。ガンダムはっ!!!」

ファンタムの運動性は酷く低い。
しかし、それでも、ザクIIの放つ弾丸やヒートホークの刃は、ファンタムの鼻先で紙一重に交わされてしまうのだ。
だが、それは決してニュータイプが持つという能力などではなかった。
追い詰められ、それでも死ぬ事を許されないという絶対的緊張感。その驚異的集中力が、動体視力を極限にまで高め、攻撃の全てを見切っていたのだ。

「ハァ…ハァ…ッ」

異常なまでに高まる鼓動。
額から流れ出す汗は、まるで滝のように顎を伝い、そしてグリップを握る手の甲に滴り落ちる。

『クソ!そんなトロい奴、囲んでボコにしちまえっ!!』

業を煮やした数機のザクIIがファンタムを中心に包囲陣を組み、一斉に襲い掛かって来る。
身構え、交わそうと身を傾けるジェフ。しかし、それが機体の限界だった。

「ぐあっ!!」

一刃のヒートホークがファンタムのコックピット部分を切り裂く。
その瞬間、剥ぎ取られるようにして切り裂かれたハッチの細かく鋭い破片が、ジェフの全身に幾つも深々と突き刺さった。
大量の血飛沫がコックピット内を赤く染める。
ジェフの意識は、今まさに途切れようとしていた。
だが…

『ガンダムッ!!』

「!!」

誰かの叫び声だった。
一度目の斬撃で地面に膝を付き掛けたファンタムの身体に、次々とヒートホークの刃が食い込む。
背中、両肩、盾、防ぐ事も出来ずに直撃を受けたファンタムのその姿に、友軍機が不安の声を上げたのだ。
今、ここで倒れていいのか?
ここで倒れてしまえば、どんなに楽だろうか。
だが、今、自分が倒れれば、確実に友軍は壊滅させられる。
立たなければ。
そして、戦わなければ。
例え、どんなに傷付こうと、ガンダムは、絶対に倒れる訳にはいかない。

「立て…」

ジェフの目には、もはや光など灯ってはいなかった。
だが、それでも、心だけは、まだ折れてはいない。
虚ろな瞳で、それでも、何かを映し、見開かれたその眼光で、ファンタムは力を取り戻す。

「立ちやがれ…、ガンダムッ!!!!」

再び力が込められた拳にビームサーベルを強く握り締め、機体そのものを大きく回転させながら、一振りで横薙ぎに四機のザクIIを上下真っ二つに切り裂く。

『ヒッ!!?』

四機連続して次々と爆炎を噴出すザクII。
その黒煙の中で、ジェフは友軍機全機に告げる。

『誰にだって、守りたいもんの一つや二つあるだろ…?それが、大事な人なら…、大切なもんなら、諦めるんじゃねぇ!戦って、戦って、生き抜いて、勝って故郷に帰るんだっ!!』

その言葉は、友軍兵士達の心を大きく揺さぶり、そして、決起させるのだった。

『勝つんだ!』

『勝って、国に帰るんだっ!!』

『オレ達も送れをとるな!!戦局を押し返せぇーっ!!』

『応ぉーーーっ!!!!』

連邦兵達の闘志は沸き立ち、その声が大地をも揺るがしてジオン軍を恐怖させる。

『ど、どうなってやがるっ!?』

『持ち直したっていうのか?あの状況からっ!!』

『アイツだ…。あの白い悪魔が現れてからだっ!!』

『クソッ!!せめて…あの白い奴だけでもっ』

ジオン軍のMS部隊が、一斉にファンタムへと照準を集める。
だが、もはやファンタムにも、ジェフにも、これを乗り切るなでの力など残されていなかった。

「…流石に、終いか…。けど、もう…大丈夫…だよ…な…」

遠のく意識。
だが、その狭間に聞こえて来たのは、信じられない声だった。

『隊長ーっ!!』

『やらせねぇぞ。その人だけはっ!!』

『コジマ大隊長が近隣の部隊に援軍を要請してくれました!もう少しの辛抱ですっ!隊長!!』

『俺達で隊長のガンダムを守るんだ!ジオンの連中に、目に物見せてやれっ!!』

『一斉掃射!外すんじゃねぇぞっ!!』

ジェフが本隊に帰した筈の隊員達の声だった。
帰還したかに思われた彼等は、コジマ中佐に緊急の連絡を取り、援軍を要請して戻って来てくれたのだ。
もう、心配はいらない。
これで、この部隊は救われるだろう。
そう思うと、ジェフの身体から、急速に力が抜けてきた。

「…フッ…、取って付けたような小隊長のオレに…。馬鹿だね…ったく…」

程無くして、コジマ大隊より派遣された救援部隊が到着。
その圧倒的な数によって、連邦軍はジオン軍MS部隊の殲滅に成功した。
イーサン・ライヤー大佐が派遣した別働隊も甚大な被害を蒙ったが、戦死者は零。
これは、偏にジェフリー・K・キシタニ少尉の活躍があったればこそと言えるだろう。
しかし、この作戦の惨状を良しとしなかったイーサン・ライヤー大佐は、上層部への報告をせず、詳細を知る全ての人間に口外を禁じた。
そして、ジェフリー少尉は、この戦闘によって負った負傷が元で軍籍より退いたとされ、その後の行方は誰ぞ知る者は無い。

しかし、この戦いから数週間後。同年十二月。
ラサのジオン公国軍の秘密基地攻略戦の際、アプサラスIIIとガンダムEz8との交戦後、火口へと墜落した二機が爆発炎上する最中、その黒煙の中に「白いガンダムの亡霊」を見たという連邦軍MSジムスナイパーパイロットの証言があるという…。

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