しろねこの足跡

しろねこの足跡

旅立ち


いじめは相変わらず続いています。

男子はおじょうさんと口を利いてくれません。
体育の着替えを覗いている、とか鼻の穴が大きいとかおじょうさんを屈辱的な気分にさせることを楽しそうに行っています。
おじょうさんはつまらない、と思いました。
他人を貶めたり、身体的特徴を揶揄して楽しむなんて。
子供のうちからこんな悪趣味なことで楽しめるなんて将来絶対イイオトコになるわけないわ。

おじょうさんは自分も子供の癖に、子供が大嫌いでした。
子供がというよりは、子供特有のデリカシーのなさや、子供のくせに評論家めいたことを、したり顔でいうようないやらしさを嫌っていました。
でもこの手のいやらしさはオトナでもあるわね、とおじょうさんは思ってもいました。
そのとき、おじょうさんは自分のおとうさんのことを思い浮かべて、口の中に苦い唾液が流れるのを感じました。

おじょうさんは残りの日々の胸苦しい現実を必死でやり過ごし、はやく卒業するのを待っていました。
誰もおじょうさんのことを知らない人達の世界で、一からやり直したかったのです。
夢をもち、意思をもつおじょうさんとして。

卒業式の日、おじょうさんは、こんなにもすがすがしい気分になったのはいつ以来だろうと思いました。
また5月にはおとうさんの仕事のせいで北国の地へ戻ることが決まっていました。

おじょうさんの新しい旅立ちが近づいていました。

しろはそのときネコとしてはだいぶオトナになりすぎていました。ネコは人間よりも生き急ぐイキモノですから。


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