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なんで、そんな高い本を買ったのか。 まあ、そう問われてもうまく答えることができません。ただ、 2003年 にまだ存命だった詩人が
「現在集められる限りの詩作品を一冊にまとめて全詩集とした。」 と、この 詩集 の あとがき で述べていますが、
彼の書いた詩を一生のうちにすべて読み切りたい。 という、人にいってもわからないないだろうと思い込んでいる願望のようなものが40代の終わりのボクにはあったということですね。
「ぼくが真実を口にすると ほとんど全世界を凍らせるだろうといふ妄想によつて ぼくは廃人であるさうだ」 という詩句と十代の終わりに出逢ったことで始まった、この 詩人 に対する信頼と憧れがその願望を培ってきたことは紛れもない事実ですね。
「えっ?」 という驚きを感じたのですが、スマホの画面で、いくつかの詩を読み返していくにしたがって、50年、溜まりに溜まった、なんだかわけのわからない妄想にも似た、忘れていたはずの記憶が、次々と湧いてきて、まだ、やり残していることの一つが見つかったような気がしたのでした。
廃人の歌 吉本隆明
ぼくのこころは板のうへで晩餐をとるのがむつかしい 夕ぐれ時の街で ぼくの考へてゐることが何であるかを知るために 全世界は休止せよ ぼくの休暇はもう数刻でおはる ぼくはそれを考えてゐる 明日は不眠のまま労働にでかける ぼくはぼくのこころがゐないあひだに世界のほうぼうで起ることがゆるせないのだ だから夜はほとんど眠らない 眠るものは赦すものたちだ 神はそんな者たちを愛撫する そして愛撫するものはひよつとすると神ばかりではない きみの女も雇主も 破局をこのまないものは 神経にいくらかの慈悲を垂れるにちがひない 幸せはそんなところにころがつている たれがじぶんを無惨と思はないで生きえたか ぼくはいまもごうまんな廃人であるから ぼくの眼はぼくのこころのなかにおちこみ そこで不眠をうつたえる 生活は苦しくなるばかりだが ぼくはまだとく名の背信者である ぼくが真実を口にすると ほとんど全世界を凍らせるだろうといふ妄想によつて ぼくは廃人であるさうだ おうこの夕ぐれ時の街の風景は 無数の休暇でたてこんでゐる 街は喧噪と無関心によつてぼくの友である 苦悩の広場はぼくがひとりで地ならしをして ちようどぼくがはいるにふさはしいビルデイングを建てよう 大工と大工の子の神話はいらない 不毛の国の花々 ぼくの愛した女たち お訣れだ
ぼくの足どりはたしかで 銀行のうら路 よごれた運河のほとりを散策する ぼくは秩序の密室をしつてゐるのに 沈黙をまもつてゐるのがゆいいつのとりえである患者だそうだ ようするにぼくをおそれるものは ぼくから去るがいい 生れてきたことが刑罰であるぼくの仲間でぼくの好きな奴は三人はゐる 刑罰は重いが どうやら不可抗の控訴をすすめるための 休暇はかせげる
「転位のための十篇」(1953)(「全詩集」P75~P76)
追記
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