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2004年10月04日
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テーマ: 吐息(401)
カテゴリ: Essay
 五年ほど前の秋、偶然に訪れた 静岡県立美術館 で、 ラファエル・コラン (参照ください)の絵画に遭遇した。
 それまで、わたしはこの画家の名前すら知らなかった。

 当時、初恋ともいうべき人の、二度目の結婚が決まり、わたしの心中は穏やかではなかった。
 人妻のわたしが嫉妬する権利などもちろんなかったけれど、胸の古傷がちりちりと傷むのだった。

 そんなとき誘ってくれた男友達と、自然薯で有名な丁子屋で麦とろを食べた後、そこへ辿り着いた。
 駐車した場所から美術館までのほんの少しの道のりを歩いていると、どこからともなく金木犀の香が漂ってきた。


 美術館で観た、ラファエル・コランが描いた女性は、どれも肌がなまめかしくて、絵の中で匂いたつようだった。
 何度も丁寧に観て歩き、その絵をわたしは脳裏に刻み込んだ。
 当時の心情と絵が、うまく合致していたのだろうか。

 男友達は帰り道、「お前を好きだ」と言ったけど、わたしはずっと初恋の人を想っていた。

 その彼から、今朝メールが届いた。
 『庭の金木犀の香で、君のことを思い出した。あのラファエル・コランを観た美術館を憶えているだろうか』

 でも、わたしは金木犀の匂いをかぐと、そこから二度目の失恋を思い出す……。







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最終更新日  2004年10月04日 15時37分09秒
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恋多きオンナ  

 電車を下りると、甘い香が漂ってきた。
 ああ、懐かしい。
 金木犀の匂い……。

 夕暮れの坂道をゆっくりと登った。
 峠の頂上に、金木犀の大木があった。
 黄色い街燈の下で、少しだけたたずんだ。
 両手を広げて、思い切り深呼吸をした。
 胸の中に、夥しい数の思い出が雪崩れ込んできた。

 本当にたくさんの恋をした。
 でも、叶うことのない恋ばかり。
 このまま、老いの坂を下るのだろうか。
 成就しない、不完全燃焼の思いをつれて。

 本物の恋は、どこ?
 まだ情熱の残ったわが身を、ほんの少しもてあましている。





  (2004年10月07日 16時16分43秒)

感性(1)  
 帰りの送迎車で、運転手のIさんが
 「紫苑さん、気がついた?」
 と、嬉しそうに運転席から振り返った。
 「何?」
 「え?気がつかなかったの?」
 「あら、なんでしょう?」
 「金木犀を車の中に置いてるんだけど」
 「ごめんなさい。気づかなかったわ」

 わたしは、あわてて辺りを見回した。
 姿は見えないし、匂いもなかった。
 「紫苑さんは感性が鋭いから、期待していたのに」
 「どういうこと?」
 「だって、いつもさ。俺たちが気づかないことに気づくでしょ?美味しいとかきれいーとか、素晴らしいーとか。俺、感心してるんだよ。感性が特別なんだなーって」
 「えー。普通でしょ、そういうのって」
 「ところが普通じゃないんだよ。きっと優しい環境で、のんびり過ごしてきた人なんだろうなって、そんな気にさせるよ」

 わたしは意外な言葉をきいて、目を丸くした。
 そうか、普通じゃないの、そういうのって。
 それに、すんごく苦労して来たんだけどなー。
 一人ごちた。

(2004年10月08日 10時30分44秒)

感性(2)  


 「そうですか」
 わたしは、すでに揺れるススキの穂を見て、言葉を発する寸前だったのだ。
 「きょうはススキ。揺れるススキが風情があってさ、もう秋~って感じてたわ」
 「でしょう?でもね、誰もそういうことを言わないんだよ。この車の中で。あなただけが、見事に反応しては、俺はほーって気づかされているんだよ。野郎ばっかりの中で育ってきたから、どうもそういうものに縁遠くてね。でも、それって良いもんなんだよなー。だからつい、紫苑さんには優しくしたくなっちゃうんだ」
 「もー、Iさんったらー。エコヒイキは駄目だからねー」
 後部の座席から、嫌味の無い同僚の黄色い声が飛んだ。
 「エコヒイキなんてしてないけどさ。気分の問題さ」

 送迎者の前方には、オレンジ色に染まった雲が待っていた。
 「ほら。夕焼けよ。きれい」

 わたしは、またもや叫んでしまった。
 どこかから、ほのかな金木犀の匂いがした。
 「Iさん。金木犀が匂ってきたよ。気遣い、ありがとう」

 Iさんの背中が、心なしか嬉しそうだった。



(2004年10月08日 10時31分08秒)

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