+シテキシソウ+

記憶






久しぶりに彼に逢った。

彼は私に色々と付き合っていた頃の話をした。

「そういえば、こんなことがあったね」

そう言って私たちの喧嘩の一つを話した。



彼が嬉しそうに言ってきた。

「ねぇ、小さい時の話をして」

そう言われて私は困った。


私には小さい時の記憶があまりない。

それはみんな当たり前だと言うけど本当に覚えていないのだ。

みんなはパズルの1ピースだけが無くてわからない。

けど、大きいことは覚えていると言う感じらしい。

私の場合は1ピースどころかたくさんのピースが無くて

まったくわからない、絵さえも見えてこない感じなのだ。

私の記憶があるのは小5ぐらいから。


「小5の時の担任が・・・」

彼はあきれた顔をした。

「もっと昔のことを教えてよ。その時のことは

僕も知っているんだから。小学校の一年生の時のこととかさ」

私は再び困った。

小学校一年生・・?

担任が男だったのか女だったのかさえ覚えていない。

クラスの人の名前も一人も覚えていない。

「ごめん、覚えていないや」

「じゃぁ、もう少し先の話でいいよ。」

「小学校五年の時の・・・」

彼は真面目な顔になって怒った。

「だからその時はもうわかっているから!もういいよ。

どうせ僕に話したくないんだろ。だったら初めから

そういう風に言ってくれよ、話したくないって」

私は哀しくなった。

もし覚えているのなら彼に話したいのに

記憶がないから教えることが出来ない。

「違うの。」

「何が違うんだよ」

「だから・・・」

彼は本当に怒ってしまった。

「もういい、帰る」

そう言って去ってしまった。



其の話を聞いても私は想い出せなかった。

そんなことがあったんだとただ想うだけだった。

けど、彼は違っていた。

「ねぇ、小さい頃の話を聞かしてよ。今ならいいだろ?」

そう言ってきた。

「ごめんね、私、記憶力がないみたい。覚えていないんだ」

そう言うと彼は怒るかと想ったけど

「それはきっと思い出したくないんだよ。自分で思い出したくないものを

心の重い扉にしまっているんだ。あるいは記憶したくないと想って

覚えないのかだね。いいよ、嫌なことは忘れな」

彼はそう言ってくれた。

私は自分で思い出したくないことをしまっているのかもしれない。

そうなのかもしれない。

彼の言葉は一生忘れない気がする。

初めてそんな気持ちになった。



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