「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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こころのしずく
第二十二話~第二十三話
本作品は、
「るろうに剣心小説(連載2)設定」
をご覧になってからお読みいただくことをおすすめいたします。面倒とは思いますが、オリジナル要素が強いので、キャラ人間関係・年齢等目を通していただきますと話が分かりやすくなります。
『剣と心』目次
『剣と心』
第二十二話「夕日と河原と悲しみと」(番外編~三年間の記憶 心弥編 前編~)
『あいつらは、この世で一番大っ嫌いだ』
剣路兄ちゃんの言葉を思い出すたびに、おれの心はズキンとする。
その言葉を聞いた次の日から、剣路兄ちゃんが神谷道場へ顔を出すことはなかった。
朝起きたら、まず父上にあいさつする。あいさつは、立派な大人になるための第一歩なんだ。
「おはようございます! 父上!」
今日も、大きな声であいさつ!
そういえば『父上、母上』なんて呼び方は今時古いんだって、由太郎さんが言ってた。母上も『お父さん、お母さん』でいいって言ってる。だけどおれは、父上母上って呼びたいんだ。父上が、おれの死んだおじいさまとおばあさまのことを話すとき、そう呼んでるから。父上は、おじいさまとおばあさまをとっても尊敬してて、誇りに思ってたんだって。だから、おれも父上母上をそう思ってるから、同じように呼びたいんだ。
朝ご飯を食べ終わると、おれはすぐ出かける。走って神谷道場へ行く。これも稽古なんだ。
剣路兄ちゃんが道場を出て、それからなんでか和は急に元気になった。稽古も遊びも、長い時間は出来ないけれど……。
道場で待っている和をつれて、河原へ遊びに行く。和と遊ぶためと、もう一つは出稽古へ行く途中の父上にその姿を見せるため。
和は、いっつも剣路兄ちゃんからもらった剣玉を握ってる。おれは、あんまり走ったりできない和に合わせて、いつも和のとなりに座ってる。母上から渡された本を二人で読んだり、お話したり、草笛を吹いたりして遊ぶ。時々やるおもしろい遊びは、交換ごっこ。和とおれの服を着替えっこするんだ。そうすると、おれは和になったような気がして、和がおれになったような気がするんだ。この遊びをなんで思いついたかっていうと、前に薫さんが、おれと和は似てるって言ったから。そうそう、こないだはこの近くの木の下に、おれと和の宝物を埋めたんだ。おれはビー玉。お祭りのとき、母上に買ってもらった。きらきらしてて、とってもきれいなんだ。和は、剣路兄ちゃんが使い古して捨てちゃった筆。和は剣路兄ちゃんが大好きだから、剣路兄ちゃんのものはみーんな宝物になっちゃうんだ。
今日は二人で本を読んでるときに、父上が歩いてきた。おれは気付かないふりをして、和と遊ぶ。そのほうが、夢中でいつまでも遊んでるように見えると思うから。
父上が行ってしまうと、おれたちは立ち上がる。ずっと遊んでいたいのを我慢して、和を道場へ送り届けて、また河原へ戻る。今度は竹刀を持って。そしてひたすら素振りする。 父上にはこんな姿見せられない。あの時、おれが刃渡りの稽古で体こわしたとき、父上を泣かせてしまった。だから、もう絶対、おれが無理して稽古するところを見せてもいけないし、その後の稽古で辛くても平気そうにしてなくちゃだめなんだ。
本当は父上の言うことを聞いて、こんな稽古はしなければいいんだけど……。でも、ごめんなさい父上。おれは、どうしても強くなりたいんです。剣路兄ちゃんより強くなって、父上の跡を継ぎたいんです。逆刃刀、剣路兄ちゃんには渡さない。絶対に……!
だけど父上。おれは剣路兄ちゃんを……嫌いになったわけじゃないんだよ。
午後の稽古が終わると、おれは急いでまた河原へ向かう。父上はこの道を通りたがらない。なんでか分かんないけど、おれはそっちのほうがよかった。夕方ここでまた稽古が出来るから。もう一つ。いつもここを、剣路兄ちゃんが通りかかるから。
剣路兄ちゃんは、いつも傷だらけで土手の上を歩いていく。おれのほうを見ようともしないし、おれが呼びかけても返事もない。おれはいつも悲しくなる。剣路兄ちゃんがおれやみんなを嫌いになっちゃったことと、あと剣路兄ちゃんが辛そうだから。普通にしてても、おれには分かるんだ。剣路兄ちゃんが行っちゃって、独りで帰る夕焼けの道はとってもさみしくて、ときどき泣いてしまう。でも、父上と母上が心配するといけないから、家の前で涙をぬぐう。早く、泣かないくらいに強くなりたい。
道場の稽古では、和はすっごく技も上手いし覚えるのも早い。剣路兄ちゃんが「どうじょうあらし」をして神谷道場をやめさせられてから、和は前よりずーっと頑張ってる。体が弱いから誰にも勝てないけど、もし病気でなかったら、すっごく強いんだろうなって思う。
だけど、おれとの手合わせの時、和がわざと負けている気がするのは、気のせいなのかなぁ。
夏になると、おれは毎日のように和と森へ行った。涼しくて気持ちよかった。だけどそこで、剣路兄ちゃんを見かけた。森の木々を相手に、木刀を打ち付けて稽古してる。おれは声をかけようとしたんだけど、和はおれの袖をつかんで首をふった。いつもにこにこしてる和なのに、そのときはめずらしくさみしそうだった。
剣路兄ちゃんは、毎日稽古していた。
森へ行ったことを父上に話したら、怒られた。崖があるから危ないって言われてたのを、おれすっかり忘れちゃってたんだ。父上はその後、どこかへ出かけていった。出稽古の格好じゃなかったから、おれはどこへ行ったのか不思議だった。
神谷道場でそれを剣心さんに話したら、そばで聞いていた和はぞくっと体を震わせた。剣心さんは和を見て、はっとした顔をした。倉から縄を持ち出してきて、おれに森へ案内してほしいと言った。剣心さんはおれを背負って、全速力で森へ向かった。
崖の木にぶらさがる父上と剣路兄ちゃん。こわくて震えがとまらないおれの横で、剣心さんは縄を下げて、二人を助けた。
崖から助け出されてそのまま帰っていく剣路兄ちゃんを、おれは思わず追いかけた。なんでだろう。今までそんなことしたことなかったのに。でも、おれの体は、勝手に動いてたんだ。
☆あとがき☆
弥彦編の心弥視点です。
第二十三話「太陽と河原と痛みと」(番外編~三年間の記憶 心弥編 後編~)
「剣路兄ちゃん!」
おれは追いかけながら、何度も呼びかけた。だけど、剣路兄ちゃんの足は速い。すたすた歩いていく剣路兄ちゃんの背中を追いかけて何度も呼びかけるのに、返事はない。
だけど、いつもの河原へ着いたとき、剣路兄ちゃんは立ち止まってくれたんだ。背を向けたままだったけれど……。
「剣路兄ちゃん。だいじょうぶ? こわかったでしょ? おれ、おれね……剣路兄ちゃんが……死んじゃったらどうしようかって……思って……」
「俺のことが……心配だったか……」
「うん……」
おれは、我慢してたのに、涙がぼろぼろこぼれた。
「自分の父親のことは、心配しないのか?」
剣路兄ちゃんは、なんだかおもしろそうに言った。
「父上は強いから、崖から落ちたりなんかしないよ」
「そーじゃねぇよ……」
剣路兄ちゃんは、おれに背を向けたまま、またおかしそうに言った。
「覚えてねーのか? 俺がお前を殺すと言った言葉を」
そのとき、剣路兄ちゃんが振り向いて、おれに木刀を振り下ろすのがなぜかすごくゆっくりに見えたのに……。気がついたらおれは倒れてて、額から血がたくさん出てた。見上げた剣路兄ちゃんの目はとっても意地悪で……おれは痛いことよりもそれが悲しくて、いっぱい涙が出てきた。
「お前が死んで、大事なお前を失ったアイツは、悲しくて壊れちゃうぞ。だからアイツの心配したほうがいいんじゃねーかって言ってんだ」
「剣路……兄ちゃん……」
「けど、今のお前は弱すぎる。殺してもあんまり面白くねぇ。もっと強くなれよ。俺のためにさ。アイツがお前を守らなくてもいいと安心したとき、ふいをついてお前を殺してやるから。そーすれば、アイツを一番苦しめることが出来る。楽しみだな」
剣路兄ちゃんは、意地悪な目のまま笑った。そして、帰っていった。
おれは涙が止まらなくて、いっぱいいっぱい泣いた。少しして、おれは立ち上がってとぼとぼ帰りはじめると、向こうから歩いてきたのは父上だった。おれは父上にかけよって、しがみついた。父上の前で泣かないようにしようとがんばってたのに、今日はどうしても我慢出来なかった。肩がふるえて、涙があふれて、とまらない。
父上は、おれの両肩をつかんで、おれをのぞきこんで言った。
「どうした?」
「剣路兄ちゃんが……」
おれは、その先を言えなかった。だって、言えるわけないよ。剣路兄ちゃんが、父上を苦しめることを楽しみにしてるなんて……。
おれは、苦しくって、辛くって、悲しくってさみしくって、どうしようもなくて……。ただ、父上に抱きついて、泣くことしか出来なかった。
あれから、またいつもと同じ毎日が続いた。剣路兄ちゃんは、河原を通りかかっても、おれに声をかけることはなかった。毎日、傷だらけの体で通り過ぎていった。
おれは毎日いっぱい稽古して、少しだけ和と遊んで、それを繰り返す毎日だった。六歳になってからは、学校へ通い始めた。和は、体が弱くて、学校へは行けなかった。だけど、弱い体が持つ限りの短い時間で、稽古に励んでた。
そうして、剣路兄ちゃんとは一言も話すことなく、毎日が過ぎていき……。
おれは七歳、剣路兄ちゃんは十三歳になった。
☆あとがき☆
長い番外編も終わりです。ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。次回からは第二部です。
第二部からはあとがきを入れません(ストーリーの流れを中断しないためです)代わりに「るろうに剣心小説(連載2)設定」の裏話を不定期更新いたします。
今後とも『剣と心』をよろしくお願い致します。
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