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そんしてとくした話



<おかしなとりかえっこ>
 ある村に、おひとよしの、としより夫婦がすんでいました。そして、ふたりは、たいへんになかがよく、それまでにいちども、ケンカをしたことがないという評判でした。
 そのとしより夫婦のところでは、牛を二頭買っていましたが、あいにく、それにひかせる車がありませんでしたから、町へでかける用事のあるときには、頭をさげて、となり近所からかりました。

 それが、あまりかさなると、近所の人も、
「あいにく、わしのところも町にでかけるでな」とことわるようになりました。
「さて、どうしたらいいだろう」

 おじいさんが、うでくみをしてかんがえこんでいると、おばあさんがいいました。
「おじいさん、こうなったら牛を売りましょうよ。あの二頭を売って、そのお金で車を買えば、近所からかりなくてもすみますよ」
「おばあさんのいうとおりだ」

 さっそく、おじいさんは、二頭の牛をひいて町へでかけました。
 すると、とちゅうで町へ車を売りにいく若い男に出会いました。おじいさんはさっそく声をかけました。

「もしもし、若いおかた。あんたの車をわたしに売ってくれないかね?」
「ちゃんとお金さえいただければ売りますとも」
「あいにく、お金のもちあわせがないのだがーーー。どうだ、この二頭の牛を車一台ととりかえてくれないか」
「二頭の牛と車一台!」
 若い男は、びっくりしてさけびました。

 それもむりはありません。なにしろ、二頭の牛は、車十台のねうちがあるのですから。

「いいですよ、おじいさん。よろこんでとりかえましょう」
「そうかい、それは、ごしんせつに。ありがとう。ありがとう」

 おじいさんは、心からお礼をいって、大きな車を一台選びました。若い男の方は、おじいさんの気がかわってはたいへんと、大あわてでたちさっていきました。
「さて、車が手に入ったぞ。これで頭をさげて車を借りなくてもすむ。ありがたいこった」




 おじいさんは、すっかりうれしくなりましたが、車をひかせるかんじんの牛を手ばなしてしまったことに気がつきました。
「まあいい。わしが車をひいていこう」

 おじいさんは、ガラガラと車をひいてあるきだしました。
「どれ、あそこの木陰でひとやすみしょう。それにしても、村までは、だいぶ道のりがある。はて、こまったな」
 おじいさんが、木陰で考え込んでいると、おひゃくしょうが、二頭のヤギをひっぱってやってきました。

「これはありがたい」
おじいさんは、つぶやくと、お百姓に声をかけました。

「もしもし、そのヤギをどこに連れて行くのですか?」
「町の市場へ売りに行くところですよ」
「どうでしょう。わたしの車とそのヤギ一頭と、とりかえてくれませんか」
「おじいさん、からかってはいけませんよ」

お百姓は怒ったようにいいました。それもむりはありません。大きな車一台は、なん十頭ものヤギのねうちがあるのですから。
「からかってなんかいませんよ。ごらんのとおり、わたしはつかれて、車をひいていくちからがないんです」
「なるほど。それなら、二頭のうちのいいほうをつれていってください」
「ごしんせつに、ありがとう、ありがとう」

 おじいさんは心からお礼をいって一頭のヤギをうけとりました。
 しばらいくいくと、むこうからきれいなきれでつくったふくろを、たくさん腰にぶらさげた商人がやってきました。それを見るとおじいさんは、ほしくてたまらなくなりました。

「もしもし。このヤギ一頭と、そのふくろひとつと、とりかえてくれませんかね

「このからっぽのふくろひとつとヤギ一頭!いいですとも、さあどうぞ」
 商人はたいへんなもうけ話ににこにこしていいました。
「ごしんせつに、ありがとう、ありがとう」

 おじいさんは心からお礼をいって、ふくろをひとつうけとりました。
 しばらくいくと大きな川に出ましたので、おじいさんは、わたし船にのりました。船が向こう岸に着くと、船頭がよびとめました。

「おいおい、おじいさん、わたし賃をわすれてはこまるね」
 おじいさんはお金をもっていませんでしたので、袋を見せていいました。





 「船頭さん、このふくろを、わたし賃のかわりにとっておくれ」
「ほう、そんなりっぱなふくろをくれるんですかい」
 わたし賃はほんのわずかでしたから、何十倍もねうちのあるふくろをもらって、船頭は大喜びでした。
 二頭の牛をひいて家をでたおじいさんは、とうとう手ぶらになってしまいました。それでも、いっこうに平気で、のんびりと村への道をあるいていきました。

<まけたばくろう>
 しばらくいくと、ばくろう(牛や馬の商人)たちが、道端で焚き火をして、夕飯のおかゆをすすっていました。それを見るとおじいさんは、朝はやく家をでてから、何も食べていないことに気がつき、急にお腹がすいてきましたので、ばくろうたちにいいました。

 「みなさん、おいしそうなおかゆですね。わたしにも、一杯ごちそうしてくれませんか?」
「ごちそうしてやらないこともないがね。いったい、おまえさんはどこの人だね」
 ひげもじゃの、ばくろうの頭がたずねました。
 「それは、こういうわけですよ」
 おじいさんは、それまでのことをすっかり話しました。ばくろうの頭はおもしろそうにじっと聞いていましたが、そのうちに、まじめな顔になっていいました。

「おじいさんや、そういうわけなら、おまえさん、家に帰らないほうがいい。おばあさんがおこって、おまえさんを家から追い出すから」
 「なあに、大丈夫ですよ。うちのばあさんは、これまで一度だって、私に文句を言ったことがないんですから」
「そんなばかなことがあるか。いいかね。おまえさんは、牛を二頭ひっぱって家を出た。それが、手ぶらで帰るのだ。この世の中に、それをおこらないおかみさんが、いるはずがない」
「それがいるんですよ」

 「よし、それほどいうなら、ひとつかけをしようじゃないか。もし、おばあさんがおまえさんを追い出さなかったら、わしの牛を百頭やろう」
「それはありがたいことで」
「そのかわり、おばあさんがおまえさんを追い出したらどうするかね」
「死ぬまで、あなたの下男をつとめましょう」
「よし、約束を忘れるなよ」

 ばくろうの頭は、おじいさんについて、おばあさんのまっている家にいき、戸口に立って、中の様子をうかがいました。

 「おばあさんや、いまかえったよ」
 おじいさんの大きな声に、おくから、おばあさんの走ってくる音がしました。
「さあ、あのじいさんめ。ひめいをあげてとびだしてくるぞ」とばくろうの頭がにやりとわらったとき、つぎのような話し声が耳に入りました。




「おや、おじいさん、おかえりなさい。牛はうまく売れましたか」
「ああ、大きな車一台と、とりかえたよ」
「それはよかった。それで、車はどこに」
「車は、やぎととりかえたよ」
「それは良かった。それで、ヤギはどこに」
「ヤギは、ふくろととりかえたよ」
「それはよかった。それで、ふくろはどこに」
「ふくろは、渡し舟の船頭さんにやってきたよ」
「それはよかった、おじいさん。とおい道をよくぶじでかえってきてくれましたね。さあさあ、夕御飯にしましょう。牛がいなくなったおかげで、これからは車を借りなくてもすみますよ。うまくいきましたね、おじいさん」

 おばあさんは やさしくいいました。
 そこで、おじいさんは、戸口のばくろうのところへいきました。
「どうです。わたしのいったとおりでしょう」
「まったくおどろいた。 かけはわしのまけだ。あした、牛を百頭とどけよう」

 ばくろうの頭は、信じられないというように、頭をかしげながら、たちさっていきました。

おはなし おしまi

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