ジェシーは黒猫。大きなお屋敷に住んでいる、大金持ちのロゼットさんがご主人様。
いつもきれいなリボンをつけて、ロゼットさんの膝でおとなしくしています。
お腹がすいてロゼットさんの足に擦り寄る必要ありません。
いつも決まった時間に、すばらしくおいしいご馳走と、
ミネラルウォーターが銀の食器に用意されています。
つめが伸びてガリガリと壁を引っかく必要はありません。
いつも決まった頃に、ロゼットさんのお手伝いさんがつめをやさしく切ってくれます。
前足で顔を洗う必要はありません。
毎日、ロゼットさんのお手伝いさんがシャンプーをして、乾かして、
ブラッシングして、リボンを取り替えて、最後にコロンをシュッ。
それから、それから…。なんて優雅な生活!ジェシーも満足していました。
でも、何かが足りない気がしました。
ジェシーは考えました。
「こんなに恵まれているのに?」
ジェシーは思いました。
「私ったらばちがあたるわ!!」
ジェシーは悩みました。
「でも、でも…。」
こんなことを考えるのは初めてでした。
ロゼットさんに優しくなでられているときも、つめを切られているときも、
シャンプーされているときも、ジェシーは考えていました。
『ジェシーは本当におとなしい子。』
ロゼットさんも、ロゼットさんのお手伝いさんもこう言います。
『おりこうさんね。』
ある朝、目がさめたジェシーはあくびをしながら思いました。
「あー、退屈だこと。」
そしてドキッとしました。
恥ずかしくなりました。
でも、なんだかじっとしていられなくなりました。
お腹のそこがドキドキしています。
ワクワクしてきました。
ジェシーは初めてロゼットさんのお屋敷のお庭に出てみました。
大きな池に噴水。そして広い広い芝生。美しいイングリッシュガーデンもあります。
ジェシーの青くてビー玉の様な瞳はキラキラしています。「なんてステキ!」
キャットミントの香りに思わずゴロゴロしたくなりました。
チャイブの葉っぱにかみつきたくなりました。
そよ風にゆれる美しいラヴェンダーの中に寝ころんでみたいと思いました。
ラムズイヤーのベルベットのような葉っぱは
ほおずりするときっと気持ちいいに決まっています。
かぐわしい香りはオールドローズ。
幾重にも重なるピンクやオレンジの花びらはドレスのようです。
キラキラとまだ消えない朝露が宝石のようです。
「なんてステキ!」ジェシーはうっとりしました。
『ジェシー!ジェシーや!』
ロゼットさんのお手伝いさんの呼ぶ声がします。
ジェシーは我にかえりました。思わずニャーと鳴きそうになりました。
でも、ローズマリーの茂みに身をひそめます。
ローズマリーは少しチクチクしましたが、
色濃く茂ったローズマリーの茂みとブルーの小花はうまくジェシーを隠してくれるようです。
『ジェシー!ジェシーや!』
ロゼットさんのお手伝いさんは池の周りを探しています。
ジェシーはローズマリーの茂みの中でドキドキワクワクしていました。
「見つからないですんだら、きっと、キャットミントの茂みの中でお昼寝するんだわ。」