『愛という字』



ちょっと前、結婚してからCM以外テレビに出てこなかった山口智子が、ひさしぶりのドラマ出演となって話題となったのが、向田邦子自身のドキュメントだった。
彼女の自由奔放でいて、苦悩多き生き方に不思議な魅力を感じ、今回とりあえず読んでみようと思って手に取ったのがこの本である。

この本は『びっくり箱』『母上様・赤沢良雄』『愛という字』の3つの短編からなるオムニバスである。
なんというか、最初この本を読んだ時の感想は、可笑しい、である。
おかしい、でもオカシイでもない。可笑しいだ。
なにが違うのかときかれるとうまく説明できないのであるが、こころがぽかぽかとしつつ、おもわず口の端をちょっと上に吊り上げてニヤッとしてしまう面白さがある。
基本的には日常が舞台になっており、その日常に、ちょっとした、媚薬的に非日常が煎じ込まれる。
で、その非日常はあくまでも媚薬であり、劇薬ではないため、日常を破壊することはない。
むしろ、日常をより意識の前のほうへと押しやり、そのありがたさを感じさせてくれる。
そう、言ってみれば、聖書でなにも欲しがるなと言っているのと似ている。
いま生きている日常を大事にしろと。

ぼくはこの本を読み終えて思ったのは、ぼくは自分の日常に恵まれているということだ。
この本は自分の日常と向き合う機会を与えてくれる。

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