『バカの壁』



『バカの壁』は去年流行語大賞にノミネートされるほど売れた本である。
実は打ち明けてしまうとぼくはそれでこの本の存在を知った。
養老さんは昔『唯脳論』を読んだことがあって、その考え方にいろいろと刺激を受けたことがある。
『唯脳論』のときは脳の機能としての意識によって世界というものが構築されているという観念論的色彩が強かったのであるが、今回は人間の行動や都市という即物的な事象を検証することによって、唯物的、身体的感覚から脳の世界から人間の、現実の世界へと引き戻そう試みている。
この脳の世界の境界が「バカの壁」であり、その壁を越えるために身体的感覚が必要になるというわけだ。

『唯脳論』で展開していた世界観をさらに違う側面から検証し、深みを増した印象はある。
あるんだけど、どうにもぼくはしっくりこない。
マルクスやらメルロ・ポンティやら、いろんな哲学者の考え方がちらほらと見受けられ、養老さん自身ずいぶん考えているなぁって感心させられてしまったが、どうもまだ理論として整理されきった感じはなく、『唯脳論』と比べると、インパクトがかなり弱い。
いろんな現実の事象を例に挙げて噛み砕いた説明を試みているんだけど、これもやや強引だなって感は否めず、その例自体、おかしなところがない分、逆に養老さんが本当に言わんとしていることが読者に伝わるのかなと思った。
もちろん、養老さんならではの切り口は随所に見られ、読んでいていろいろと刺激を受けたのであるが、表面の文章でつづられている事象以上に内容が難しいので、なんであんなにヒットしたのかは理解に苦しんだ。
それともぼくが思っている以上に世の中全体のレベルがあがっているということなのだろうか?

© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: