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2005.09.18
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テーマ: お勧めの本(8118)
カテゴリ: 村上春樹
国境の南、太陽の西


ます。

「僕」は1951年1月4日に大手の証券会社に勤める
父親と普通の主婦である母親との間に生まれた「一人っ
子」。「僕」の通っていた小学校では、「一人っ子」は
「僕」と「島本さん」だけでした。二人は親しい友だち
になって、心を通いあわせました。

「島本さん」は、転校生で、生まれてすぐ患った小児麻
痺のせいで左脚を軽くひきずっていました。学校の成績


「でも彼女には、僕を別にすれば、友だちと呼べるよう
な相手は一人もいなかった。彼女はおそらく彼らにはク
ールで自覚的に過ぎたのだろう。でも僕は島本さんのそ
うした外見の奥に潜んでいる温かく、傷つきやすい何か
を感じることができた。それはかくれんぼをしている小
さな子供のように、奥のほうに身をひそめながらも、い
つかは誰かの目につくことを求めていた」

しかし、小学校を出ると、二人は別の中学校に進み、や
がて「僕」は彼女に会いに行くのをやめてしまいます。

「でもそれはおそらく間違ったことだった。僕は彼女を
必要としていたし、彼女だってたぶん僕を必要としてい

女のことをいつも懐かしく思い出しつづけていた。思春
期という混乱に満ちた切ない期間を通じて、僕は何度も
その温かい記憶によって励まされ、癒されることになっ
た。そして僕は長いあいだ、彼女に対して僕の心の中の
特別な部分をあけていたように思う。島本さんと会うこ


「僕」は、高校2年生のとき同じクラスになったイズミ
と友だちになります。

「彼女の隣に座ってその指に手を触れていると、僕はと
ても自然な温かい気持ちになることができた。他の人間
には言えないことでも、彼女に対しては比較的楽に話す
ことができた。僕は彼女の髪をあげて、その小さな耳に
口づけするのが好きだった。僕がそうすると、彼女はく
すくす笑った。今でも彼女のことを思い出すと、僕はい
つも日曜日の静かな朝の情景を目に思い浮かべる。穏や
かで、天気が良くて、まだ始まったばかりの日曜日。宿
題も何もなく、ただ好きなことをすればいい日曜日」

しかし、「僕」は、イズミに少なからず困惑し失望して
もいました。

「僕が困惑し失望したのは、僕がイズミの中にいつまで
たっても僕のためのものを発見できない点にあった。僕
は彼女の美質を並べることができた。そしてそのリスト
は彼女の欠点のリストよりずっと長いものだった。でも
彼女には決定的な何かが欠けていた。もし彼女の中にそ
の何かを見いだせたなら、僕はたぶん彼女と寝ていただ
ろう。でも結局のところ、あえてそうするだけの確信が
僕には持てなかったのだ」

11月はじめの肌寒い日曜日、「僕」が一度だけ裸のイ
ズミを抱いた(セックスはしませんが)あと、公園でイ
ズミは、こう言います。

「あなたといるときは私はいつもすごく楽しいのよ。で
もね、そのあとで一人になると、私にはいろんなことが
わからなくなってしまうの。あなたは私のことを大事に
してくれる。それはわかるのよ。でもあなたが本当は何
を考えているのかが私にはときどきわからなくなってし
まうの。あなたはきっと自分の頭の中で、ひとりだけで
いろんなことを考えるのが好きなんだと思うわ。そして
他人にそれをのぞかれるのがあまり好きじゃないのよ。
それが私をときどきすごく不安にさせるの。なんだか取
り残されたような気分になってしまうの」

イズミは「どうしてわざわざ東京の大学に行かなくちゃ
いけないの」と言って、「僕」に、この町に残ることを
願いますが、「僕」は、この町を離れて、両親から独立
して、一人で生きることが自分には必要なのだと思うよ
うになっていました。

「僕の体と心は見知らぬ土地と、新鮮な息吹とを求めて
いた。その年には多くの大学が学生の手で占拠され、デ
モの嵐が東京の街を席巻していた。世界が目の前で大き
く変貌しようとしていたし、僕はその発熱を肌にじかに
感じたかった。もしここに残ったなら、僕の中の何かが
きっと失われてしまうだろう。でもそれは失われてはな
らないものなのだ。それは茫漠とした夢のようなものだ
った。そこにはほてりがあり、疼きがあった。それは人
が、おそらく十代の後半の限られた時期にしか抱くこと
のできない種類の夢だった。そしてそれはまたイズミに
は理解することのできない夢だった」

2週間後、「僕」とイズミは京都に遊びに行き、京都の
大学に通っているイズミの従姉を呼んで昼食を一緒にし
たとき、「僕」は「この女と寝なくてはいけない」と思
います。

「僕が強く引きつけられるのは、数量化・一般化できる
外面的な美しさではなく、その奥の方にあるもっと絶対
的な何かなのだ。僕は、異性が僕に対して発するそのよ
うな強くひそやかな何かを好むのだ。その何かを、ここ
では仮に<吸引力>と呼ぶことにしよう。好むと好まざ
るとにかかわらず、否応なしに人を引き寄せ、吸い込む
力だ」

次の日曜日に「僕」はひとりで京都に行って彼女と会い
、その午後にはもう彼女と寝ていました。

「僕とそのイズミの従姉とはそれから二カ月に亘って脳
味噌が溶けてなくなるくらい激しくセックスをした。僕
らは顔をあわせるとほとんど口も利かずにすぐに服を脱
ぎ、ベッドに入って抱き合い、交わった。僕は文字どお
り精〇が尽きるまで彼女と交わった。でもそれほど激し
い吸引力をお互いに感じあっていたにもかかわらず、自
分たちが恋人になって、長く幸せにやっていけるだろう
というような考えはどちらの頭にも浮かばなかった。我
々にとってそれはいわば竜巻のようなものであり、いつ
かは過ぎさっていってしまうものだった。僕はイズミの
ことが好きだった。でも彼女はこのような理不尽な力を
僕に一度も味わわせてはくれなかった」

1月の終わり、「僕」とその従姉との関係がイズミに露
顕し、イズミはひどく傷つき、ひどく損なわれてしまい
ます。「僕」は一度だけ、イズミの会って長い話をしま
すが、イズミは理解しません。3月の末には町を出て東
京に行くことになっていた「僕」に、イズミはもうどん
な関わりも持とうとはしませんでした。

「その体験から僕が体得したのは、たったひとつの事実
でしかなかった。それは、僕という人間が究極的には悪
をなし得る人間であるという事実だった。僕は誰かに対
して悪をなそうと考えたようなことは一度もなかった。
でも動機や思いがどうであれ、僕は必要に応じて身勝手
になり、残酷になることができた。僕は本当に大事にし
なくてはいけないはずの相手さえも、もっともらしい理
由をつけて、とりかえしがつかないくらい決定的に傷つ
けてしまうことのできる人間だった」

大学に入った「僕」は、政治闘争に熱中することもでき
ず、講義にも興味を持てずに過ごします。気がついたと
きにはもう政治の季節も終わっていて、一時は時代を揺
るがす巨大な胎動と見えたいくつかのうねりも、まるで
風を失った旗のようにその勢いを落とし、色彩を欠いた
宿命的な日常の中に呑み込まれていきました。「僕」は
、大学に入ってから三十代を迎えるまでの十二年間を、
失望と孤独と沈黙のうちに過ごします。

「僕」は、三十になる少し前、夏休みに一人で旅行して
いるときに、有紀子とめぐり会い、一目で引かれあいま
す。「僕」が久しぶりに感じた吸引力でした。「僕」は
有紀子と結婚し、建設会社の社長である彼女の父親の勧
めで、青山のビルの地下で、ジャズを流す上品なバーを
始めます。店は予想を遥かに越えて繁盛し、2年後には
、もう一軒もっと規模の大きい店を出し、「僕」は一息
つきます。最初の子供が生まれ、青山に4LDKのマン
ションを買い、BMW320を買い、二人めの子供を作
ります。三十六歳のときには、箱根に小さな別荘をもち
、移動のために赤いジープ・チェロキーを買い、有紀子
の父親の勧めで、余った金を株と不動産に投資し、短期
間にかなり大きな利益をあげます。

「なんだか自分ひとりが不正な近道をして、不公平な手
段を使って、いい思いをしているような気がした。僕ら
は六〇年代後半から七〇年代前半にかけての、熾烈な学
園闘争の時代を生きた世代だった。それは、戦後の一時
期に存在した理想主義を呑み込んで貪っていくより高度
な、より複雑でより洗練された資本主義の論理に対して
唱えられたノオだった。でも今僕がいる世界は既に、よ
り高度な資本主義の論理によって成立している世界だっ
た。結局のところ、僕は知らず知らずのうちにその世界
にすっぽりと呑み込まれてしまっていたのだ。まるで誰
かが用意してくれた場所で、誰かに用意してもらった生
き方をしているみたいだ」

最初の子供が生まれたころ、「僕」は実家から転送され
てきた会葬御礼の葉書を受け取ります。「僕」は、三十
六歳で亡くなった女性がイズミの従姉であることに気づ
き、その葉書を送ってきたのがイズミであり、彼女は僕
のやったことをまだ許してはいないのだと感じます。

『ブルータス』の「東京バー・ガイド」に載った「僕」
の写真を見て、店にやってきた高校時代の同級生が、イ
ズミの消息を教えてくれます。イズミは、彼の妹が住ん
でいる豊橋のマンションの同じ階に住んでいました。

「大原イズミさんは、そこのマンションでは謎の人なん
だ。誰も彼女と口を利いたことがない。廊下ですれ違っ
て挨拶しても返事がかえってこない。用事があってベル
を押しても出てこない。あの子はもう可愛くはないよ。
あのマンションの子供たちの多くは彼女のことを怖がっ
ているんだ」

彼が帰ったあと、「僕」はカウンターで一人で酒を飲み
ます。

「みんなどんどん消えていってしまうんだ。あるものは
断ち切られたようにふっと消えさり、あるものは時間を
かけて霞んで消えていく。そしてあとには砂漠だけが残
るんだ」





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Last updated  2019.05.16 02:50:40
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