一日ひとつありがとう

一日ひとつありがとう

こわいはなし

コツ・・コツ・・コツ・・

おい、なんだ、なんだか、へんな音がするぞ。

「はい、ただいま、調べてまいります・・。」


「大統領、大変です。地面より、人間とも宇宙人ともつかぬ者が出てまいりました・・」

なに、そいつを連れて来い。


「〇△◇×〇×△◇・・・」

おい、言語翻訳機で、こいつの話していることを通訳しろ!

「はい・・」



「なんでも、光のかけらを探し当てるため、土を掘っていたそうであります・・」

なに?掘っていただと??
もう、ダイヤのひとかけも、残ってはおらんのだぞ!
いったいいつから、掘っていたんだ!

掘り続けて、そんなに鋭い爪となって、
目は退化したように、小さくなったというのか?
では、もとは人間だったというのか!
はっはっはっは!

おい、その気の毒な男に、今の世界を見せてやれ。



・・・・有害な太陽光線をさえぎる、建物が立ち並び、
人間たちによって開発された、人口植物がテラテラと光っている。

人間たちが食べる、一日一粒だけの、錠剤が売られ、
癒しのために、遺伝子改良された、きれいな顔の動物たち。

半永久的に、卵を産み続けるニワトリ。
半永久的に、乳を出し続ける牛・・・。



いや~、見たかね。
君が掘り当てたのは、素晴らしい文明に囲まれた、地球だったなぁ。はっはっはっは。

みろ、おまえのような泥にまみれんでも、
すべて組み替えられた、素晴らしい頭脳と容姿をもった人間だけが
ここにいるのだよ。
もう、泥にまみれんでもいいのだよ。よかったではないか。


「〇×△◇〇△×・・・!」


「家に帰して欲しいといっております・・・」

なに?家だと?
おまえ、家があるのか?

「妻と子供と牛が一頭、待っていると・・言っております・・。」


はっはっはっはっは・・


みろ、素晴らしい美女がたくさんいるではないか。
牛だって、この装置で作り出せるぞ。
食い物だって、この小さな粒で、満腹となり、癒されるのだ。

それでも、おまえは帰りたいと言うのか?


「あなた方の力があれば、私を帰すことなんて容易なことでしょう・・と言っております・・」


おい、その男の住んでいた地点を、モニターで見せてやれよ。


突然、男の目の前にスクリーンが現れ・・

暗く、光りの当たっていない、一面砂だらけの砂漠が映し出された・・

何か、ひとつ光るものが映っている。

男は目を凝らす・・



そこには白く光り輝く、妻と子の重なり合った白骨だった。

牛の骨にもたれるように、女の骨の中で、小さな白い骨が、
薄明るく厚い雲から、かすかにもれる太陽の光りに反射していた・・。


男は退化してしまった目で、それを何かと見分けることができずにいた。


男は光るものを見、また、自分の出てきた穴に帰っていった・・・。


愚かな男だ。
なぜ、また、苦しもうとするんだ?

すべてが保障されるこの地に、なんの不満があるというんだ。
まったく愚かだ・・。

「大統領、まあ、好きなようにやらせておけばよろしいでしょう。
われわれとは、住む世界が違うのですよ・・。」

おお、そうだな~、はっはっはっはっはっは・・・・。


男は気づいた。
自分の大切なものは、土の中の光りではなかったと・・。

そして、文明に支配された人間たちが、目ではなく、生きる力が退化してしまったことを・・。生きる世界がちがっているのだと・・・






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