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さすらいの天才不良文学中年
俳句入門 再び吉田類
俳句への目覚め
俳句の対極は、散文である。
おいらは小説を書くが、句は作らない。散文に優るものなしと昔から決めていたのである。
しかし、今回、あの吉田類氏が「俳句入門」講座を開催されるという(NHK文化センター町田教室。4月15日開講予定)。氏の何とも云えない人間臭さが好きで、また、参加すれば一緒に飲めるだろうと思い、講座に参加することにした(写真は吉田類氏)。
申し込むと先日、受講に当たり、一句提出して欲しいとの話しがあった。
そうか、そうこなっくっちゃ、とおいらは説を変え、作句することにした。人間の考えなど簡単に変わるものである。
さて、おいらの俳句の師匠は三人いる。
一人目は、寺山修司である。俳句の天才である。昔から寺山の句集を読んでいたので、お手本である。二人目が異才、車谷長吉師匠。この人の句も舌を巻く。そして、三人目が鬼才、角川春樹。この人の句はぶっ飛んでいる。
こういう人たちの句を読んでいると、恐れ多くて作句などできないよぅ。
しかし、おいらも心底ではキライではないのである。
講座の事務局より春の季語を入れて欲しいと依頼されたので、早速数句を作ってみた。この俳句、受講前に披露するのはルール違反だろうから、後日、お披露目するつもりである。
ところで、俳句を作りながら考えたこと。
短歌の方が易しいのではないか。
何故なら、俳句の一七字と比較して短歌は三一字と一四字も多く使えるからである。俳句は季語を入れてわずか一七字。季語が五字だとすると、残り一二字でその句に思想(哲学と云い換えても良い)を入れなくてはならない。
これは言葉の重みをギリギリまで考えなければいけないことを意味している。散文の対極と云われる所以である。小説が易しいというのもむべなるかなである。
つまり、おいらは俳句に目覚めたのである。それに吉田類氏は俳句会「舟」主宰である。であれば、吉田氏の弟子になろうかのぅ。さて、この顛末、おいらの小説にどういう影響を与えるのであろうか。
吉田類の俳句入門講座(前編)
酒場詩人である吉田類さんの「俳句入門講座」の予告編を先日お披露目した(フリーページ「俳句入門」参照)。
その講座の第1回目が先週の15日(日)に町田市「NHK文化センター町田教室」で開催された(3回開催予定)。
同日の午後2時開講とあって、おいらは20分前に会場に到着した。既に多くの受講者が集まっており、テーブルの数から総勢40名の参加であると分かった。
これまでの酒に関する講座(「ほろ酔いトーク」など)では、約120名の参加だからやはり俳句がメインとなると参加者は減少するのだと思ったのである。
しかし、主催者であるNHKカルチャーセンター町田教室のWさんによると、講座の定員を40名としたからであって、しかも未だにキャンセル待ちがあるというから、一概にそうとも云えないようである。吉田類氏のファンが如何に多いかということの証左であろうか。
さて、この講座は句会の形式を取っている。今回の投句は春の季語を入れるというもので、出席者から1句ずつ募り、当日、40人の俳句を一覧表にしたものが配布された。その表の中から各人が気に入った俳句を発表して感想を述べるという形式である。
定刻に講座は始まり、吉田類氏が俳句について軽妙なトークを開始された(氏は句会「舟」の主宰)。そして、おもむろに5合瓶を取り出され、貰ったものだけれどとはにかみながら参加者に日本酒を振る舞い始められた。どうやら句会ではいつものことらしい。
なるほど、こういうことですか。こりゃ、この句会、楽しみだわい(この項続く)。
吉田類の俳句入門講座(後編)
ここで句会の歌を発表することは、参加者の了承を得なければならないので、差し控えることにしよう(写真は二次会での類氏)。
そこで、おいらの句をお披露目する。
「人生は 一篇の詩と酒 涅槃西風(ねはんにし)」
解説が必要かも知れない。涅槃西風とは、春先彼岸のころに西から吹く風のことである。
「人生は 一篇の詩と薔薇 涅槃西風」
とも考えたが、やはり類氏の手前、酒だろう。
実は、今回、作句したのは、このほかに3句ある。
「わが死後を 思ふ手酌に 春の雪」
「きみの目に 波(なみ)映す海 城ケ島」
「車椅子、母の背、桜、馬路(ばじ)公園」
どれも気にいったものなので、不躾にも4句とも主催者に送ったところ、最初の句が選定された。
しかし、この句は参加者に涅槃西風のイメージが湧かなかったのか、評価されなかった(トホホ)ということだけを付け加えておこう。
さて、句会は午後2時に始まって熱が入り、午後4時に終了する予定であったが、30分以上も延長してのお開きとなった。そして、閉講後、二次会として会場近くにある「養老乃瀧町田店」にほぼ全員で突入したのである。
ここからは、完全な吉田ワールドじゃったのぅ。第3回「吉田類さんを囲む会」と銘打って、店の方も気合いが入っている。
驚いたのは、句会に出席しないで宴会のみに参加していたメンバーがいたことである。おお、嬉しいではないか。前回のほろ酔いトーク講座で一緒に呑んだメンバーと再び呑むことができたのである。俳句はパスしたいが、宴席はご一緒したいという気持ちは分からないでもない。
さて、今回も類氏と隣合わせで呑んだ。おいらが類氏に際どい質問をしたのは、云うまでもない。
おいら「俳句と酒とでは、どちらがお好きですか」
類氏「もちろん、お酒です」
おいら「では、酒と女では」
類氏「もちろん、女でしょう」
おいら「愚問でした。ところで、先生は短歌はおやりにならないのですか」
類氏「最初は短歌をやりました。しかし、歌の究極は俳句です」
おいら「恐れ入りました」
こうやって、夜は更けていくのである(この項終わり)
吉田類の俳句入門講座(第2回)
酒場詩人である吉田類さんの「俳句入門講座」の第2回目が先月に引き続き、今月の20日(日)に開催された(フリーページ「俳句入門」参照)。
今回も前回に引き続き、総勢約40名の参加である。
句会の形式はこれまでどおりで、参加者全員の俳句を一覧表にしたものが配布され(一人一句)、その表の中から各人が気に入った俳句を2句発表して感想を述べるというものである。
今回の兼題は、「新緑」と「杏(杏子)」
杏子はイメージが偏るので、新緑にした。
おいらの作品は、次のとおり。
「新緑の 村に旗来る 旅一座」
(しんりょくの むらに はたくる たびいちざ)
実は、この句は短歌の方が向いているのかも知れない。
「新緑の村に来たれり旅一座 鎮守の森に幟(のぼり)はためく」
というのが先に出来たからである。
これを俳句にするのは容易ではなかったことだけ付け加えておこう。短歌より俳句の方が難しいのではないかとおいらは思うのである。
しかし、この句が意外にも好評で、当日の句会では上位にランクされることになった。また、吉田類先生からは、過分のお褒めの言葉を頂戴したのである。
豚もおだてりゃ木に登る。
ところで、今回、吉田類氏の講義を聴きながら思ったのは(どうでも良いことだが)、氏の声の魅力である。ほど良い低音なのである。癒し系とでも云おうか。姜尚中(かんさんじゅん)氏や最近また話題になった山路徹氏(二股疑惑)などの声に通じるものがあるなぁ。何のこっちゃ。
さて、今回残念だったのは氏のスケジュールの関係上、句会の後の打ち上げがなかったことである。
この打ち上げで老若男女が集い、飲み明かす(そうでもないか)ものだから結束力が高まるのだが、そのまま散会とは何とも寂しい限りである。いやいや、俳句を作るために来ているのではないか。
と思うものの、そこは良くしたもので会合の席上には寶缶チューハイがちゃんと置いてあり、句会が始まるや否や乾杯となったのである。その後、差し入れられた久保田の千寿をコップ酒でやりながらの句会となった次第である。
これは盛り上がるのぅ。次回の句会もまた楽しみである。何じゃそりゃ。
吉田類の俳句入門講座(第3回)
酒場詩人である吉田類さんの「俳句入門講座」の第3回目が今月の17日(日)に開催された(フリーページ「俳句入門」参照)。
今回は最終回ということで、この講座もいったん終了である。
吉田類氏は超多忙で、最近では週刊ポストの最新号グラビアで鈴木宗男氏と対談もされている。
ま、居酒屋のカリズマとまで評されている人であるので、今後もこの講座を続けて貰うのは至難の業なのだが、そこを何とか続けて欲しいということで、受講者有志が氏にラブコ-ルの俳句を作って色紙に書こうということになった。
おいらもラブコールの俳句を作ったのである。
「俳句路を 師匠と酒や あぢさゐ寺」
前二回に引き続き、総勢約40名全員が色紙に思いのたけを書き、師匠に渡す色紙は寄せ書き形式で2枚となった。
講座終了時に受講者の女性二人から色紙を手渡しされた類氏は「特別講座なら何とか検討しましょう。高尾山でやりましょうか」と今後に期待を含ませた回答をいただいたのである。お~、良かったのぅ。
さて、今回の兼題は、「炎天」と「炎暑」
おいらの作品は、次のとおり。
「炎天に きりりと喪服 締め直す」
夏のイメージは、死である。おいらの敬愛する某氏は夏の暑い盛りに亡くなった。炎天下での告別式は堪える。しかし、氏のことを思うと暑さに負けてはならないのである。
しかし、この句は不評であった。当日の句会では取り上げられることがなかったのである。とほほ。
ところで、今回の席上でも前回同様寶缶チューハイが置いてあったのだが、前回と異なったのは、ツマミに鹿肉(缶詰)が用意されていたことである。北海道では野生の鹿が繁殖しすぎて自然を破壊するため、鹿の狩猟が認められている。
おいらは初めて鹿肉を食したのだが、こりゃ珍味じゃのぅ。牛肉の大和煮か鯨肉に近い味であった。
さて、今回も吉田類氏の軽妙洒脱な講義を聴きながら、氏のほど良い低音にしびれ、今後の特別講座開催に期待するおいらであった。いや、本音を云えば、氏と今後も酒が飲めればそれで良いのである。何のこっちゃ、そりゃ。
吉田類。不思議な魅力を持った、人生の達人である。
歌人 齋藤 史
現代歌人である齋藤 史(さいとう ふみ)は、今から10年前の平成14年4月26日、93歳でその生涯を閉じた。
おいらの好きな彼女の歌。
老いてなほ艶(えん)とよぶべきものありや 花は始めも終りもよろし
齋藤史は、2・26事件で連座した陸軍少将の齋藤瀏(りゅう)の長女である。瀏自身が歌人であったため、彼女も父親から幼少時代より短歌を習う。
その彼女が64歳のとき、夫(医師)が脳血栓で倒れ、盲目の母が認知症となる(昭和48年)。
麻痺の夫と目の見えぬ老母(はは)を左右(さう)に置きわが老年の秋に入りゆく
起き出でて夜の便器を洗ふなり 水冷えて人の恥を流せよ
身体障害者二人を抱え生きゆくと 縄の梯子が揺れやまぬなり
腰立たぬ夫を乗せて押す車椅子 乳母車押しし日は遠きかな
以上は、歌集「ひたくれない」に所収された歌である。老々介護中のおいらにとっては、身に沁みる歌ばかりである。
しかし、昭和51年、夫が死去、母もその3年後には亡くなる。彼女は70歳になっていた。
老境に入り彼女の歌は老いを前面に出すようになる。が、老人力とでも云おうか、洒脱なものが増えてくる。
疲労つもりて引き出ししヘルペスなりといふ八十年いきれば そりやぁあなた
携帯電話持たず終わらむ 死んでからまで便利に呼び出されてたまるか
お見事である。
その彼女は亡くなるまで歌を詠んでいる。その歌の力強さ。こういう老人においらはなりたいのぅ。
吉田類さんと吞む句会(前篇)
今週の日曜日(平成26年7月27日)、久し振りに吉田類さんと呑んだ。
横浜で類さんの句会が開催されたからである。
この句会、NHK文化センターの主催であり、今回の開催で10回目を迎えた。句会の参加者は毎回約40名。
俳句の素人集団だが、素人ほど怖いものはない。だから、秀作に出会うことも度々である。ほんまかいな。
さて、この句会のルーツをたどると、もともとはその文化センター町田教室で平成23年新春特別講座「吉田類の酒場の楽しみ方」という1回きりの講演会に遡る。
その内容はこのブログ(「吉田類氏と吞む」)に掲載しているとおりであり、そのときの評判が良かったので翌24年にも新春特別講座「吉田類のほろ酔いトーク」が開催されたのである。
この担当が名プロデューサーのWさんであり、類さんに町田教室での句会の開催をお願いされたようである。
そのWさんは控えめな性格でしかも美人だから類さんが断ることもなく、「吉田類の俳句入門講座」と銘打って平成24年の第2四半期(4月、5月、6月)に3回の句会が開催されたのである。
これが類さんの横浜句会スタートの経緯である。
この句会のパターンは、類さんが兼題を提示し、約40名がそれぞれ俳句を提出するのである。
全員の俳句が匿名で発表され、皆がその中から気にいった俳句に票を入れ(一番気にいったものが天、次に気にいったものが地)、票を入れた理由や感想をメンバー全員が述べ合うというものである。
しかし、無論、主眼は句会終了後の類さんとの飲み会である。普通は俳句好きが集まって句会をするのだが、このメンバーで俳句など作ったものはおいらを含めて誰もいない。
だから、類さんとの飲み会では俳句の話しはほとんど出ることがなく、ひたすら居酒屋談議、つまり酒を飲んでのバカ話しとなる。これが痛快で、だって、相手は類さんだよ、痛飲してしまうのである。
3回の句会が開催された後、類さんのスケジュールが殺人的なこともあり、句会は中断していた。
だが、ここでもWさんの名プロデューサー振りが発揮され、その年の11月に多摩川沿いの「たぬきや」で吟行(風流な場所に集まり俳句を詠むこと)が開催されることになった。
秋の多摩川は絶好の吟行日和で酒が進んだのは云うまでもない。なんのこっちゃ。
面白いものでこの頃になると、句会の参加者が特定してくるようになるのである。句会と銘打ちながらも、俳句は関係なくて類さんと吞みたいというメンバーが集まっていると考えると分かりやすい(この項続く)。
吉田類さんと吞む句会(後篇)
名プロデューサーであるWさんが頑張って、翌25年の2月と4月にも俳句入門講座が開催され、累計で6回の句会が開催された。
類さんの横浜町田句会が再び開催され定着したかに思えたのだが、ここで事件が起きるのである。
Wさんが町田教室から横浜教室に転勤になられたのである。えっ、え~。Wさんがいなくなると、類さんの句会は途絶えてしまうのか。
しかし、ここでもWさんは力を発揮する。
今までの句会の固定客(おいらたちのこと)を見殺しにはされなかったのである。それに類さんの絶大の人気もある。Wさんが横浜勤務に慣れたころ、今度は横浜ランドマークタワー教室でWさん、類さんコンビはただの句会ではなく、「吉田類の俳句&俳画入門」と銘打って俳画の世界に入ったのである。
そして、この「吉田類の俳句&俳画入門」は平成25年10月と12月、今年の3月と7月(今回)に4回開催され、これまで都合10回の句会が開催されたことになる。
さて、この句会はこれまで参加しているメンバーが次回の出席も優先されるので、メンバーの8割程度は毎回同じである。今回の新規メンバーは7名。
面白いもので10回目ともなると、素人だった集団も少しずつではあるが上達し、唸らせる句も出るようになるから不思議である。
メンバーの秀句は当人の了解がいるので出せないが、おいらの駄句が皆さんに褒められたものを紹介する。
8回目句会 兼題「大根」
大根を 洗ふをんなや 白き艶
おいらは散文を書くが、俳句はこの句会と年賀状に掲載する句以外は作ったことがない。まあ、ほぼ全員が同じようなものである。だが、今回、新たに俳句歴のある人が参加されたので、少しはこの句会もシマルかも知れない。
しかし、類さんを慕うメンバーが俳句に目覚め、句会の後の懇親を愉しみにするのもそれで良いと思う。句会参加のほとんどのメンバーが馴染みとなっているので、もはやこの句会終了後の飲み会も内輪会もどきの趣である。
もちろん新規に入られたメンバーもウエルカムであり、「友遠方より来るまた楽しからずや」で温かく迎えるので毎回盛り上がる。お陰で今回も痛飲してしまった。
それにしても類さんって、本当に魅力的な人だよなぁ。類さんのことはこれまで散々書き込んでいるのでこれ以上は書かないが、本当に気さくで人間味あふれる人である。雑誌が「吉田類になるという特集」を組んでも、そう簡単には類さんになれないのである。
ところで、二股交際で有名になったジャーナリスト山路徹氏に類さんがちょっと似てるかなぁと思ったのだが(二人とも男の色気あり)、そう云うと怒られるだろうか。忘れてたもれ。
次回の句会は、少々先で来年の1月開催である。今から愉しみじゃのぅ(この項終わり)。
居酒屋のタッチパネル
吉田類さんのようにふらりと街角の居酒屋に入り、そこに居合わせた人と忌憚なく飲み明かす。
そういう飲み方に憧れるが、なかなかできるものではない。
居酒屋の常連さんとすぐに打ち解けるというのはその実、難しい。そこのところは、ある意味で文学でもある。
他方で誰にも気兼ねせず手っとり早く飲める、というのが居酒屋チェーン店である。
おいらはそういう類の店にはめったに顔を出さないが、先月の類さんとの句会ではそのチェーン店での新年会となった。句会メンバーの30名以上が一堂に会して入れる店となるとそうならざるを得ない。
何故このことを書くかというと、その店での注文方法がたまたまタブロイドを使ってのタッチパネル方式であったからである。
このタブロイドを使っての注文がおいらの心にちょっとひっかかった。違和感を覚えたのである。
タブロイド、なるほど便利ではある。操作さえすれば、簡単に注文ができる。
しかし、居酒屋は非日常に浸りたい場所である。仕事を終えて一日の心の垢をぬぐうところである。そういうところにまでタブロイドによって酒のつまみを注文しなければならないのだろうか。
便利だから良いというものでもあるまい。それにタッチパネルの使い方が分からないご仁も未だにいるはずである。
そのときおいらはタッチパネルも罪つくりなものよ、と複雑な気分になりながら、しかし、類さんと飲んでいるので心地よく酔っ払っていった。おいらは単純なのである。何のこっちゃ。
角打ち(かくうち)(前篇)
「角打ち(かくうち)」と聞いて、ピンとこない人は酒飲みの通ではない。
だが、初めて聞く人もいるだろう。現に広辞苑にはこの言葉が掲載されていない。
角打ちとは、酒屋の店頭または店内で酒を飲むことである。
ただし、関西では酒屋で飲むことを「立ち飲み」と呼ぶ。東北では「もっきり」と云うらしい。関東と九州が、酒屋で飲むことを「角打ち」と云うのである。
だから、ここで注意することは、角打ちは「立ち飲み屋」で飲む酒とは違うということである。立ち飲み屋で飲む酒は、あくまでも飲み屋の酒である。
つまり、角打ちは飲み屋ではなく、酒屋で飲むことである。
しかし、ここがポイントなのだが、酒屋はもともと酒を売るのが商売である。飲ませるところではない。
ところが、酒屋でお酒を買った客がただちにキャップを開け、その場で立ち飲みしたらどうだろう。
酒屋の店前で立ち飲みするのであれば、店としても店の端や店の中を提供することを考えるだろう。これが角打ちの始まりである。
ただし、客は定価で酒を買い、その酒を飲んでいるだけなので、酒屋が客にサービスをしてはいけない。それをすれば飲食営業の許可が必要になるので違法である。ナルホド。
ところで、酒を飲むとつまみが欲しくなるのが人間の常である。良くしたもので、酒屋はつまみも売っている。そこで、サキイカなどの乾き物を定価で買い、袋を破ってつまみを食べるのである。う~む、なるほど。
さて、角打ちは酒飲みの通が行うものであり、その場合には作法がある。
一人で行くのが王道である。
二人で行くなら飲み屋である。次に、角打ち店では他の客に話しかけないのが仁義である。話し合い手を求めるなら飲み屋である。また、角打ちは日本酒がルールである。最後に居座り時間は10分程度で長居しないのが粋だと云う。
つまり、角打ちの定番はふらりと酒屋に現れ、親父に日本酒と云って小銭を渡し、グイッと一息に飲む。周りで飲んでいる人には黙礼だけで去って行く。
こういうのが通のようだ。粋だねぇ(この項続く)。
角打ち(かくうち)(後篇)
では、なぜ角打ちを今回取り上げたのか。
それは、BSフジで「百年食堂」という番組が開始され、第2回の番組で横浜大口にある「百年の歴史の角打ちの店」が紹介されていたからである。
そこは飲食業の許可も取っているので、酒だけではなく、つまみとしてふろふき大根なども出していた。これは同時に立ち飲み屋でもある。
おいらはこの番組を観て、今から40年以上前のことを思い出したのである。
入社して数多くの先輩から酒飲み道の洗礼を受けた。中でもおいらは、先輩のHさんから酒飲み道の指南を受けた。Hさんは地元では有名な割烹料理店の次男で、酒の飲み方は洒脱である。
そのHさんから角打ちの飲み方を教えて貰ったのである。もっぱらHさんの飲み方は、本格的に飲みに行く前のウォーミングアップであった。
酒飲みのパターンには2種類がある。
飲み始めてすぐにアルコールが効き始めるが、赤い顔にはならずそのまま酔わずに飲み続けることができるタイプ(いわば2次曲線タイプ。Hさんとおいらがこのタイプ)と、飲んだ量に比例してアルコールが効き、酔って行くタイプである(1次直線タイプ)。
だから、Hさんは高級店に行く前にはまず角打ちで飲むと云う離れ業を使って酒飲み道を精進していたのである。
なるほどそうだったのかと、今ごろになって気付いたのである。気付クノガ遅イワイ。
閑話休題。
昨日の前篇では角打ちの作法を述べたが、本来、角打ちは自由に飲んで良いと思う。
だから、仕事帰りに仲間と一緒に軽く一杯やるのも良い。一人で主人や常連と軽口を叩きながら飲むのも良い。店の片隅でひっそりと飲むのもまた良い。
最後に、角打ちの利点をいくつか述べる。
それは、明朗会計だということである。定価で日本酒が飲めるのである。千円札が1枚あれば、飲みすぎるくらい飲めるのである。
しかも、一見の客にとってそこが怪しい飲み屋かどうかの心配がない。だって、酒屋だよ。酒屋は、昔は免許商売で、地元の名士しかなれなかった。水商売とは違うのである。
さらに、酒屋が角打ちをやっているということは、百年食堂の横浜の店のように新参者であろうと常連客であろうと酒飲みを心地よく受け入れてくれるということである。
角打ちを見直そう(この項終り)。
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