「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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さすらいの天才不良文学中年
アクアライン 白鷺城 秋田
東京湾アクアライン(前編)
川崎、木更津間を結ぶ「東京湾アクアライン」が10周年を迎えるという。
この三連休に「東京湾アクアライン」を利用して、木更津まで行き、帰路、「海ほたる」に寄ってみた。
まずは、「東京湾アクアライン」のおさらいである。
1997年に約1兆5千億円を投じて完成した、神奈川県川崎市と千葉県木更津市を結ぶ全長15キロの高速道路である。川崎から9.6キロのトンネル(アクアトンネル)を抜けて「海ほたる」のパーキングエリアに出ると、そこから木更津までの4.4キロが橋(アクアブリッジ)になっている。
15キロの速度制限は80キロだから、制限速度一杯で走れば約11分で通過できる勘定である。実際、通行料金が往復6,000円ということから交通量はガラガラであり、10分そこそこで木更津側に到着した。
木更津からの帰路は写真を撮ったので、ここからは横浜への帰路のライブとする。
高速に入り、あっという間にアクアブリッジに入る。橋は中央部が上向きになっているので、ワクワクする。
数分で軍艦のような「海ほたる」が見える。
「海ほたる」に上陸。「海ほたる」屋上(5階)からの景色は絶景である。当日は天気もよく、木更津側(写真下1枚目)、川崎側(写真下2枚目)双方が肉眼でくっきりと観ることができた。
「海ほたる」で、小腹がすいたので、「あさりまん」(350円)を食す。旨い。
4階に降りて、「さざえの串焼き」(400円)を所望する。これも美味。やはり、地元のものを食すのが一番である。
4階の展望フロアでは、老若男女が「足湯」を楽しんでいる。どの階も家族連れで一杯だ。カップルも多い。沢山四方が海に囲まれて、まるでお台場にいるようである。
海の上とは、かくも楽しいものなのか(この項、続く)。
東京湾アクアライン(後編)
夕方までゆっくりして、「海ほたる」を後にする。
帰路、トンネルに入る。
しかし、何故、トンネルにしたのだろうか。景観の良い橋にすれば良いではないか。今流行の都会伝説によれば、大手鉄鋼メーカーに資材を使わせるため、わざわざコストのかかるトンネルにしたという。本当なら、けしからん話しであるが。
そう思いながら、9.6キロのトンネルを走って川崎の浮島地区に出た。左右は見渡す限り工場群である。京浜工業地帯のど真ん中という感じか。
アクアラインに入るときも思ったのだが、川崎側はトンネルを抜けてからの距離が長い。木更津側はすんなりとアクアラインに入れるのだが、川崎側は入り口までが難儀なのだ。
我が家は港北区に位置しているので、409号線を通ってアクアラインの入り口までが約1時間、アクアラインに入って、木更津に着くまでが10数分とアンバランスが著しいのである。まあ、これも川崎側の交通量が多いから、仕方がないのかも知れないが。
ところが、アクアラインはガラガラである。
アクアラインの交通量を増やす方法はないのだろうか。一つの方法としては、料金を下げることだろう。実際、アクアラインの料金を800円にしろという運動もあるようだ。しかし、非現実的である。
それならば、往復割引とするのはどうか。多くのアクアラインの利用者は、往復しているはずである。そうであれば、帰路の3,000円を半額にするのだ。往復で4,500円となれば、6,000円の25%引きである。少しは乗りやすくなるのではないか。
運営主体者はそれ位の知恵を出して欲しいと思うのだが、如何か(この項、終り)。
白鷺城に出向く(前篇)
昨夜、広島への介護帰省を終えて横浜に戻ってきた。
今回は帰路、姫路に立ち寄り白鷺城の天守閣最上部を上から(正確には横の上から)観てきたので、その顛末を述べる(写真は姫路駅前と現在の姫路城外観)。
ユネスコによって世界遺産に登録されている姫路城の天守閣が現在修理中である。
屋根や外壁の漆喰などの修理をしているのだが、修理中、天守閣の周りを工事用の囲いで覆っており、その囲いの内部に設置されたエレベーターに乗車して天守閣の最上部の高さまで上がることができるのだ。
この工事は現在ほとんど終わっている模様であり、エレベーターで天守閣を上から観ることができるのも来年1月中旬までの予定だという。
おいおい、そうであるなら、残された期間はもう後わずかしかない。
そこで、今回は横浜に帰る途中、姫路で下車したという次第である。
思い起こせば姫路城を訪れるのは、約50年振りである。
中学3年生のときに家族全員で観光に行ったのである。ゴールデンウイークのときに福山から電車で行ったのだ。一番下の弟がまだよちよち歩きだった。親父が愛用していたマミヤカメラに当時としては珍しいカラーフィルムを入れ、おいらがカメラマンになったことをよく覚えている。
そのときの印象があまりにも強烈であり(今から考えてみれば、仕事の鬼であったオヤジがよくもまあ一緒に旅行をしてくれたものである)、姫路城はもう行かなくても大丈夫だと思っていたのである。
しかも、天守をすっぽりと工事現場の覆いで囲っているとすると、美的センス的には大問題。写真を撮るには台無しである。
さらに、来年の国営放送の大河ドラマが軍師黒田官兵衛で、姫路城が舞台になるという。スノビズムの権化である。ますます、行きたくないのぅ。
だから、その気にはならなかったのだが、天守を上から観るというのは、これがどうにも気にかかるのである。
もうそんなこと、二度とできないじゃろうのぅ。
そう思ったら、これは行くしかない(この項続く)。
白鷺城に出向く(中篇)
朝方、広島を出るときにはまだ雨は降っていなかった。台風27号と28号のアベック台風が日本の南方でランデブーをしているので雨模様は必至である(写真は、姫路城の堀)。
案の定昼前から天候が怪しくなり、姫路に入ったときにはしっかりと雨であった。雨男の本領発揮である。
いつものパターンで姫路駅の観光案内を訪ねる。姫路城についてはノーアイデアである。
聞いてみると、姫路城までは駅から歩いて約20分。近いのだ。
しかも、姫路城を一周するループバスが走っているという。それに乗るのが一番イージーな方法であると教えて貰う。姫路城の入り口まで数分であり、料金は100円。
迷わず、バスに乗ることにする。コインロッカーに荷物を投げ込み、乗車する。姫路城の入り口ですぐに下車するのも芸がないので、ひとまず城の周りを一周してみる。
これが約10分。バスの中から姫路城を遠目に眺めることができ、しかも土地勘が養える。だが、乗り物に乗ってみると、あれだけ広い姫路城も意外に狭いというのが感想である。
城をぐるっと回ったところで下車(「好古園前」バス停)し、そこから大手門(姫路城入り口。入り口は1か所しかない)まで歩く。
門をくぐると手前に三ノ丸広場、右手に動物園。手前から観た姫路城がこのとおり。
いよいよ城内に入る。入場料400円。姫路城と50年振りに再開である。
屋根と漆喰と石垣を修理しているので、天守閣はすっぽりと工事用の網で覆われており、外観はまったく愛想なしである。
しかし、この愛想なしの内部に入ると様子はがらりと変わる。何せ、天守のてっぺんの階層までエレベーターが上がってくれるからでる。まず、8階まで上がる。そこで見たもの。これがその光景。
どうですか、堪能されましたか。
そして、7階まで歩き、そこから下降用エレベータに乗らされるという筋書きである(この項続く)。
白鷺城に出向く(後篇)
天守閣の8階から観た下界である。展望台になっているのである(正面突き当り(上部)が姫路駅)。
天守閣の7階から観た下界、とりわけ西ノ丸は一瞬、万里の長城のように観えたのでオヤっと思ったのである。
ま、白鷺城の故事来歴を述べるまでもないので割愛するが、この西ノ丸は千姫(家康の孫)の居城でもあった。
内部の廊下を歩行できるようにしてあり、これがなかなかのものである。城内を歩けるなどそうそうできる経験ではない。
こうしておいらは西ノ丸も堪能したのである。
なお、姫路城探訪でもう一か所観ておいた方が良い場所がある(おいらも教えて貰ったので、偉そうには云えない)。
黒田官兵衛はキリシタン大名であったということなので、瓦に十字架が残されているのだ(写真下)。
実はこの十字架の場所が分かりにくい。事前に注意していないと見過ごしてしまう恐れがあるのだが、必要最低限のお知らせしかしていないのである。
おいおい、姫路市さんよぅ、目立つようにしたらどうかと係員に話しかけたら、世界遺産なのでむやみに宣伝用の看板などを用意する分けにもいかないのだとのたまわれる。
むげなるかな。
さて、当日は雨で、しかも平日。午後4時半までいたのだが(入城は午後4時まで、閉城は午後5時)、4時以降はほとんどガラガラであった。これについては、姫路市の宣伝不足かも知れないのぅ。
諸兄よ。
物珍しいことがお好きな方は、姫路城まで行かれることをお薦めする。
城の殿様であっても、上から城を観ることなどできないのである(この項終わり)。
本日と明日はお休み
本日と明日は休日につき、お休みです。
写真は、先月訪問した姫路城を一周するループバス。
この写真、ブレてますし、雨でレンズが曇っています。
しかし、このときは台風のような大雨。
しかも、バス停で「バスに乗りますよ」という意思表示をする直前のタイミングで撮ったものです。ボンネットバスがウインカーをこちらに向けており、運転手もおいらを見ています。
森山大道の写真には遠く及びませんが、このときの臨場感がたまらないなぁ。
だけど、これって、ただの自画自賛だよねぇ。まだまだ、写真の道は遠い。
それでは、皆様よろしゅうに。
平成25年11月30日(土)
謎の不良翁 柚木惇 記す
秋田探訪記(フジタの「秋田の行事」を観に行く)(前篇その1)
吉永小百合が一枚の絵の前で佇んでいる。
脇には「たった一枚の絵を観に行く。旅に出る理由は簡単でいいと思います」というコピーがある。
同じことをおいらは考えて秋田に行こうと思った。愚妻と一泊二日の旅行である。
なお、吉永小百合様で驚いていてはいけない。原節子様もこの絵を観るためにかつて秋田に来たという。
6月2日(火)朝、8時40分東京始発の「こまち7号」に乗車である。午前8時10分にホームに立つ。
ホームでは、新幹線「なすの」が折り返し新青森と秋田行きの新幹線「はやぶさ」と「こまち」になると放送している。こまちははやぶさとドッキングしており、チューしているようにも見える。
そうか、秋田に行くためには東北新幹線で盛岡まで行き、そこから切り離して在来線で秋田まで行くのだと気付く。だから、新青森行きと秋田行きの新幹線が連結しているのだ。
こまちは定刻にスタートした。音もなくスムーズな走りである。車内は空いている。
11時過ぎに盛岡に到着、これは速い。ここでこまちが切り離される。
間もなくこまちが斜め前に下り始め、あっという間に地上を走るようになる。踏切が見える。踏切で待っている人の顔が分かる。新幹線が地べたを走っているのだ。これじゃ私鉄沿線の特急に乗っているのと変わらない。
のどかな田園景色となる。既にここは岩手なのだと気付く。15分程度走行すると、今度はこまちが停車した。車内アナウンスが「上りの電車を待つので停車する」というのだ。ゲゲ~、ここは単線なのだ。単線を走る新幹線なんて聞いたことがないぞ。
田沢湖に停車する。我、生レテ始メテ、秋田に入レリ。
標高が高いので耳が痛くなる。
考えてみれば奥羽山脈を越えて表日本から裏日本に向かうのである。トンネルをいくら通過しても標高が低いはずがない(この項続く)。
本日と明日はお休み
本日と明日は休日につき、お休みです。
写真上は、今回の秋田探訪の新幹線「こまち」車内の広告。秋田の男鹿半島をゴジラに模したところがいいのぅ。
写真下も、同じく新幹線こまち車内の広告。
解説不要。彼女は秋田出身です。
それでは、皆様よろしゅうに。
平成27年6月13日(土)
謎の不良翁 柚木惇 記す
秋田探訪記(フジタの「秋田の行事」を観に行く)(前篇その2)
車窓から観える風景はひたすら山の中である。左右に森林が連なっている。
それで思い出したのが、クアラルンプールからシンガポールまでアジアオリエント急行に乗ったときのことである。
10年以上前にタイに旅行した帰路、空路でクアラルンプールに入り、そこから列車でシンガポールを目指したのだ。そのとき車窓から観えたのは南洋のジャングルの連続であった。行けども行けども南洋の植物群が生い茂っていたのだ。
それがここでは行けども行けども針葉樹林である。地球は広い。
さて、こまちで面白いのは、在来線を走っているためにホームも在来線のホームを使うのである。だから、新幹線をおりるときにホームと新幹線のドアの位置がずれているのである。
具体的には、新幹線のドアの位置がホームの高さよりも20センチ程度高い位置にあるのだ。だから、降車するときは階段を一段降りるような感じとなり、新幹線に入るためには階段を上る要領となる。
気をつけなければ転げ落ちてしまう。このことを車内放送していたのだが、最初は意味が分からなかった。おいらは大曲駅で用もないのにこまちから降りてみた。面白い。
もう一つ面白いことは、大曲駅から新幹線がスイッチバックすることである。こまちはここからバックで秋田に向かうのである。これも駅の構造が歴史的にそうなっているからだろうが、なぜそうなっているかは分からない。調べてみると面白いのだが、おいらも暇ではない。
和田駅でも上りのこまちと離合する。
12時半、秋田駅に到着である。それにしても秋田新幹線は、盛岡までが2時間20分に比べ、盛岡から秋田までが1時間半と長い。これは新幹線と呼ぶべきではない。約4時間かかる特急こまちと呼ぶべきだろう。
ま、それまでの特急が上野から秋田まで奥羽本線を利用して8時間半かかっていたことを考えると大幅に短縮されていることには違いないのだが。
なお、藤田嗣治が戦前上野から秋田に行ったときはまだ急行しか走っておらず、それも上野からまず終点の福島まで行き(約12時間)、そこから秋田行きの急行に乗り換えたのである(約9時間)。乗車時間は合計約21時間と当時は二日がかりの旅行だったのである(この項続く)。
秋田探訪記(フジタの「秋田の行事」を観に行く)(中篇その1)
秋田駅構内改札口の手前に立つ。早速、フジタの「秋田の行事」のお出迎えである。
改札を出ても「吉永小百合さまのフジタを観るポスター」である。ボルテージがあがるのぅ。おいらは、生まれて初めて秋田に入ったのである。これで、探訪していない県はついに徳島県のみとなった。
さて、到着していつものパターンである観光案内所の門をたたく。
ポイントは、秋田飯の旨い店を聞くことと、「佐原商店」の場所がどこかである。
秋田飯とは「きりたんぽ」、「しょっつる鍋」、「稲庭うどん」の3点セットである。秋田に行ってこれを食べない手はない。教えてもらった店の名前が「無限堂」。外内装がオランダ様式だそうである。
次に、佐原商店とは知る人ぞ知る「そばの自動販売機設置店」である。珍百景にでも出てきそうなレトロな自動販売機による立ち食いそばである。これが何故か観光名所になっているのだ。
この佐原商店は秋田港にあるのでJRで行く方法もあるが、バスならすぐに行けると云うのでその時刻表ももらう。市内散策のための大きな地図も同時にもらって市内散策の準備は万端である。
宿は駅前の「秋田ビューホテル(西武デパートと同じビル)」なので、荷物を預け、その足で「秋田市民市場」に行く。なお、このビューホテルはフジタに秋田の行事の制作を依頼した平野政吉の本葬告別式が行われた場所でもある(平成元年)。
さて、ホテルから3分の市場で漁師飯を食べようとしたが、すでに1時を過ぎていたので海鮮丼と刺身定食は売り切れていた。そこで市場の中のすし屋に入り、地元のネタのランチとする。これが美味。生ビールも旨かったのぅ。昼酒は旨いのである。
さあいよいよフジタの大作に会いに行こう。秋田県立美術館はこの市場から徒歩で5分程度と近い。佐竹藩久保田城(秋田城)のお堀を右に観ながら美術館を目指す。
右手に平野政吉美術館(旧秋田県立美術館。写真上)が観えたところで左折すると安藤忠雄が設計した新秋田県立美術館が観えてきた。
中に入る。愚妻がいつも持ち歩いている引き車を一階の案内所に預け、二階に上る。フジタの大作「秋田の行事」は二階に展示してあるのだ。
二階に上がると右手にラウンジがあり、窓から外を観ると水面が広がっている。安藤忠雄が設計し、清水建設が竣工した心にくい建物である。この風景はなかなかのものだ。絵を観たあとはここでお茶を飲もう。
入場料500円を払って左手にある会場に入る。さあ、いよいよフジタの「秋田の行事」とご対面である(この項続く)。
秋田探訪記(フジタの「秋田の行事」を観に行く)(中篇その2)
入場券を買った受付のすぐ近くに入口があって、その入り口をめざすとフジタの「秋田の行事」が迫ってきた。
あまりにも絵が大きすぎるので入り口に入る前から全景が目に迫ってくるのだ。
これには解説が必要で、秋田の行事は横20.5メートル、縦3.65メートル、これを畳に換算すると64枚分の大きさでいわば映画のスクリーンなみの大きさと考えればよい。
読者諸兄は映画館の中で一番前の席で映画を観るのがお好きであろうか。いや、嫌いに決まっている。なぜなら動く画面を一瞥できないので、登場人物をその都度追いかけなければならないからである。ひっきょう、真ん中あたりが最上の席になるのである。
これと同じで秋田の行事を観るためには、適度の距離が必要なのである。会場に入ると、秋田の行事を目線が上になるように展示してある(もう少し低くても良いか?)。しかし、中に入ると右端から左端までを観るためには首を動かさなければならない。
そう、一瞥できないのである。
一瞥するためには、換言すると、眼の玉を動かさないで観るためには、入り口を二歩程度後ずさって入口の外から観るのがベストポジションなのである。ここで問題は後ずさりしすぎると、入り口の左右が邪魔になって今度は秋田の行事の両端が見えなくなるので厄介だということである。
これは一体どういうことかと考えたのだが、安藤忠雄はここに秋田の行事を入れることを当初は考えていなかったのではないか。いや、設計の段階で知らされていなかったとは考えにくい。もともとこの美術館は場所や広さが当初から限定されていたというから(再開発の一環だろう)、限界があったのかも知れない。
つまり、この作品はそれほど大きな絵なのである。おいらがこれに匹敵する大きな絵を観たのは、渋谷マークシティの京王井の頭線渋谷駅とJR渋谷駅を結ぶ連絡通路に展示してある岡本太郎の「明日の神話」以来である。
あの壁画もずば抜けて大きい(横30メートル、縦5.5メートル)が、遠くから見渡すことができるように巧く展示に工夫がされている。
いずれにしても、もう少し奥行きのある会場にしてあると良かったかも知れないというのが最初の感想である(この項続く)。
秋田探訪記(フジタの「秋田の行事」を観に行く)(中篇その3)
前置きが長くなったが、フジタの大作「秋田の行事」である。
結論から述べると、一生のうちに一度は観ておいて損がない傑作である。
フジタは乳白色がトレードマークであるが、この作品はその対極にあるとも云える風俗画である。しかし、風俗画をバカにしてはいけない。絵とはもともとそういう要素を持つものだからである。静物や風景、女の裸だけが美術だと決めつけてはいけない。フェルメールも元をただせばオランダの風俗画家である。
要は、風俗画とペンキ絵とは違うのである。このフジタの絵には昭和の秋田が生きているのである。今にも群像が動きそうな躍動感は観るものを圧倒させる。フジタはこの壁画で日本人を描きたい、秋田を描きたい、西洋の物真似ではないものを描きたいと願ったのだとおいらは思う。この絵はそういう心意気が伝わってくる傑作である。
結局、その絵が芸術かどうかは絵の中に情熱が塗り込められているかどうか、換言すれば思想があるかどうかである。
だから、日本で初めて世界記憶遺産に登録された山本作兵衛の「炭坑の記録画」もおいらは立派な芸術作品と認めるのである。
ところで、おいらはフェルメールの作品では手に注目しなければならないと述べたが、フジタの場合に注目すべきは人間の動作である。一人ひとりの動作や所作に全て意味があるのである。
だから、それを見逃してしまうと絵の意味が分からなくなる。秋田の行事でも群像が計算されていないように見えていても描かれている一人一人が全てフジタの思うがままである。
例えば、絵の中央部分の竿灯である。この竿灯の一部が燃え始めているのに気付く!が、それは竿灯を持っている筋骨隆々たる男の腕から竿灯が倒れようとしているからであり、周りの者も含めてそれを元に戻そうとして男たちが必死にもがいているのである。
そういうふうに右端からこの絵の人物を一人ひとり観ていくとゆうに3時間は必要となってしまうのである。
加えて、この絵の歴史を重ねて見る愉しみもある。
それは、この絵を描かせた平野政吉とフジタとのやり取りである。
秋田の名士である平野政吉が昭和11年7月にフジタの美術館の建設構想を打ち出す。その美術館の壁を飾るため、翌年の昭和12年にフジタがわずか15日間で描き上げた作品である。
フジタはこの作品さえ観れば秋田の全貌と秋田の歴史が分かるという絵にしたいと考え、構想は半年に渡ったのである(フジタはその間、秋田を頻繁に訪れた)。
もう一つ、フジタはこの絵を右側から左側に向かって下絵なしにひたすら描いたのである。
これは人間業ではない。
普通、絵は全体像から入り、大きな部分から描いていき、細部を輔弼して完成させる。それがデッサンの基本である。端から描いていくと全体像が歪んでデフォルメされた絵になりかねない。
しかし、フジタの脳には下絵が完成されており、粛々と右端から絵を描いていったという。脱帽である。フジタがアルティスト(芸術家)ではなく、アルチザン(技術師、工芸家)であると云われる所以でもある(繰り返すが、フジタはアルティスト(芸術家)である)。
とにかくこの絵は、観なければ話しにはならない(この項続く)。
本日と明日はお休み
本日と明日は休日につき、お休みです。
写真上は、先日掲載できなかった写真の一枚目で秋田ビューホテル。
秋田は雪国ですので駅前から主要地にアーケード(写真の左)を伝って歩くことができるようになっています。
下の写真は、秋田市民市場の看板。市場直営のお店が宣伝されています。
最後は、「ババヘラ・アイス」。
これは、お堀のそばの露店で売っていたアイス(シャーベット)です。綺麗なおばさんが金属製のヘラさばきでピンクのいちご味と黄色のバナナ味のシャーベットをコーンに見事に盛り付け(薔薇盛り)にしてくれるのです。一個200円。
題して「ババヘラ・アイス」。ババがヘラで創るアイスからの命名のようですが、違う場所では若い女性が創っていました。これも秋田名物のようで(「ご当地アイスグランプリ金賞」受賞)、なんと昭和25年ごろから発売されているとのことです。こりゃ、すごいわ。
それでは、皆様よろしゅうに。
平成27年6月20日(土)
謎の不良翁 柚木惇 記す
秋田探訪記(フジタの「秋田の行事」を観に行く)(中篇その4)
フジタの秋田の行事を観て圧倒されたおいらは、平野政吉氏に興味を持った(写真の左が平野氏)。
それまでの平野氏のイメージは、秋田の傲慢な金持ちでフジタに無礼なふるまいをして壁画を描かせたと思っていたのだが(そういう逸話を書いた本が多い)、どうもそうではないのではないかと思うようになったからである。
その逸話とは、例えば、フジタの前で平野氏が「世界一の証拠を見せろ」と尻をまくってタンカを切ったとか(放屁もした)、壁画をなかなか描かないのでフジタの前で火箸を畳に刺したとかというものである。平野氏にはそういう伝説が多いのである。
しかし、金の力や脅しだけであれだけの大作を描かせることはできない。人が心を動かされるのはやはり人の心である。平野氏はひとかどの人物ではないかと思ったのである。
そこで、二日目の午前中は市立中央図書館に行って平野政吉氏の人となりを調べてみようと思った。
秋田ビューホテルの最上階ラウンジで朝食を取り(なお、前日の夕食は前述のとおり無限堂。「きりたんぽ」がことのほか美味で、若かりし頃新宿で食したものとえらい違いであった。東京で食べる郷土料理は偽物だ!)、愚妻と二人で図書館に赴く。
ここで平野氏のリファレンスをしてもらったところ、図書館のSさんが大変親切で数多くの平野氏関連書籍を紹介してもらうことができたのである。
平野氏の本を調べていくうちに、昨日の県立美術館に「秋田の行事」の図録が販売されていなかったので、果たして本当に販売していなかったのかということと平野氏について話しが聞ける人がいないかと思い、再び秋田県立美術館に出向くことにした。
これが運が良かったのだが、美術館でフジタに最も詳しいHさんに当日たまたまお会いすることができ、平野氏のことも詳しくお聞きすることができたのである。
Hさんによれば、平野氏は巷間云われているような非常識なエピソードの持ち主ではなく、また、彼は人から云われてフジタを評価したのではなく、審美眼に優れ、自分の眼でフジタが世界に誇れる画家だと評価した立派な人物であるとのことである。
Hさんからお話しを伺って、おいらも平野氏のことをそう思うようになったのである。
だって、そうでなければフジタはあの絵を描かないよ。いくら平野氏がフジタのコレクター(パトロンでもある)だと云っても、金だけでは人は動かない。フジタがあれだけの絵を描いた背景には、フジタと平野氏に通じる何かがあったからである。
Hさんに用意してもらった「秋田信用金庫創業百周年記念誌第二章 秋田が世界に誇る大壁画『秋田の行事』」によれば、フジタは「平野氏と芸術談がよく合ってそれから男らしい気持ちが合って非常にむすばれ兄弟以上の交際となったわけで」としている。
やはり二人には通じるものがあったのである。
また、平野政吉氏の長男誠氏(元美術館名誉館長)によれば政吉氏の伝説にはいい加減な話しが多く、その理由は「(父政吉は)秋田弁の駄洒落で興奮してしゃべりますから、だいたい東京の方から取材に来た人は、父の話が三割も分からないと言っていましたね。興奮して、実際にあったことも、自分がそう思ったことも、ごっちゃになって早口でまくしたて、勢いがいいから、本気にして描かれてしまうということがあったんじゃないでしょうか」と解説している。
やはり、絵には人とのつながりがあるのである。歴史があるのである。それを正しく知ることが絵にとって幸福なことであるとおいらは思うのである。
以上、図書館のSさんと美術館のHさんには大変お世話になりました。この場を借りて厚くお礼申しあげます。
お分かりのとおり、秋田の人は皆親切であった。おいらはすっかり秋田ファンになってしもぅたのである(この項続く)。
秋田探訪記(フジタの「秋田の行事」を観に行く)(後篇その1)
いよいよ佐原商店の自動販売機である。
中篇その1で書いたように、珍百景にでも出てきそうなレトロな自動販売機による立ち食いそばである。
「何故か観光名所になっている」とおいらの敬愛する全オム連会長のMさんにその話しをしたらがぜん興味を示され、この佐原商店がYOU TUBEで紹介されているので必見だとM会長から教えられたのである。
早速、YOU TUBEを観ると大量の天ぷらそば(うどん)を自動販売機に入れるサマを観ることができた。一杯200円だそうである。こりゃ食べない手はない。200円のそばを食べるために金に糸目をつけないで秋田に行ってもいいとまで思うようになった。ほんまかいな。
秋田駅前のバス乗り場で「セリオン行き(秋田港行き)」のバスに乗車する(秋田港には「ポートタワー・セリオン」という塔が建っているのだ)。バス料金は430円。乗車時間は約25分。
おいらは見知らぬ街でバスに乗車するのが好きである。愚妻と二人で車窓から景色を観ながら、秋田らしい景色と全国どこにでもある景色(マック、スタバやブックオフなどのチェーン店)を観ていた。だけど、やはり地元秋田にしかない景色を観たい。秋田に来てまでマックの看板を観たいとは思わないのぅ。
さて、秋田港はもともと土崎港と呼ばれ、昭和16年に秋田市と合併して今の秋田港になっている。この秋田港、ただものではない。秋田を代表する貿易港で、その昔は北前船の寄港地でもあった(江戸時代は佐竹藩の藩港)。
明治以降、ここは油田の産油量が多いことが分かり、秋田だけで国内産油量の7割以上を誇ることになる。そのため、鉄道でも船舶でも輸送が可能な土崎には大規模な製油所が立ち並ぶことになり、街は栄え、遊郭も乱立することになる。
今ではその名残は全くないが、それでも土崎は港町として健在であり、現在では地上143メートルのタワーが建つ観光名所にもなっている。
バス終点で下車するとき、運転手さんに「佐原商店の場所をご存じですか」と聞いたら、「???、タワー内の案内所で聞いてください」との返事。おいおい、名所ではないのかとタワーを目指す。
タワーは地上100メートルのところに展望台があるので、早速エレベーターで昇る。料金は不要。これは嬉しい。あっという間に展望台に。これが大正解。秋田港のみならず、秋田市内も一望できるのである。
海上保安庁船も上から観るとこういう景色。
さて、展望台から自動販売機の佐原商店が観えるかのぅ~(この項続く)。
秋田探訪記(フジタの「秋田の行事」を観に行く)(後篇その2)
さて、自動販売機の佐原商店である。
これがあっさりと展望台から見つかった(写真上)。愚妻と二人でそそくさと展望台から降りて佐原商店を目指す。
タワーから徒歩数分のところに目指す佐原商店はあった。おお、夢にまで見た蕎麦の自動販売機である。
確かにこの自販機はレトロである。蕎麦かうどんかの選択なので、愚妻と二人でそれぞれを注文した。時間は午後2時ごろであるが、おいらの後ろに待っている人がいる。そういえば、この自販機、ひっきりなしにお客さんがやってくるのである。
おいらがお金を入れてお湯が注がれるのを待っているとチン!という音がしたのである。
ところがこの自販機には欠点があり、お湯が注がれているところを観ることができないのである。だから、音がしてもまだお湯が注がれている恐れがあるのではないかと待っていたら、後ろのお兄さんから「早くしろよ~」と催促されてしまった(笑)。ゴメンチャイ。
これを佐原商店の軒先に置いてある椅子に座り、テーブルの上に吊ってある唐辛子をかけて食べるのである。こ、これが、美、美味。
蕎麦は生めんで出汁は最初から入っているのだろう、天麩羅は乾燥したものがめんの上に載せてある。めん良し、つゆ良しでこれで本格的なかき揚が入っていれば文句ないのだが、自販機なのでやむをえないだろう。
隣をみると、ハンバーガーの自販機がある。ただし、売り切れのランプが点灯している。ハンバーガーは食べれないのかと思っていたら、目の前に軽トラックが停まった。
おじさんがハンバーガーの箱を両腕に抱えて自販機の中に入れたのである。おいらが200円を出してチーズバーガーを買ったのは云うまでもない。
これは、自販機内部にレンジ機能が組み込まれており、温かくなったハンバーガーが出て来る仕掛けである。これも捨てたものではない。
どうしてこのレトロ自販機が都会にないのだろう。こういうのが秋田らしさなのである。また、秋田に来たらここには必ず立ち寄りたいものである。
以上、駆け足であったがその後、秋田駅まで戻り、駅前の古書店でフジタや平野氏の古本を探したり(置いてなかったが…)、千秋公園を散策して夕方発のこまちで横浜に戻った。中身の濃い秋田訪問であったのぅ。秋田よ、本当にありがとう(この項終わり)。
本日と明日はお休み
本日と明日は休日につき、お休みです。
写真上は、秋田ポートタワーセリオンの1階が道の駅もどきになっており、そこに掲げられていたものです。
元の写真は、秋田県立美術館で開催されていた「田園にて」でも展示されていた木村伊兵衛の「おばこ・大曲」。
伝説のカメラマン、木村伊兵衛の実力を思い知らされました。この写真には力があります(モデルのおばこ=娘は、秋田県大曲高校の三年生(当時19才)の柴田洋子さん(後に結婚されて三上姓)です)。
それでは、皆様よろしゅうに。
平成27年6月27日(土)
謎の不良翁 柚木惇 記す
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