月よりの♪

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小説「天使のお仕事」







「おーい、お~い。起きろぉー!」

(・・・・)

「ヒロトくん、ほら、早く起きて♪」

ヒロト :(・・・・)

「・・・オラァ~、起きんか、ワリャ!!!!!」


ヒロトはゆっくりと起き上がると、目の前に中学生ぐらいの女の子が額に「♯」を付けて笑顔で微笑んでいた。


女の子:やっと起きてくれましたね、ヒロトくん♪

ヒロト :ここはどこですか? あなたは誰ですか?

女の子:ここは現世から少し外れたところ。私の名前はココア、天使やってるの。

ヒロト :そうですか。道理で白い羽や頭にリングを付けて、コスプレしているのですね。

ココア :・・・まあいいわ。ところでヒロトくん、下を見てごらん。何が見える?


ヒロトが下を見ると、まるで透明のガラスの上に立っているようだった。その下には普段見られた風景が見える。


ヒロト :家の近所が見えます。でもこんな風に上から見下ろして見たのは初めてですよ。とても精巧な模型で、よく見ると人や車も動いているなんて、お金かかってるなぁー。

ココア :はいそうです。ヒロトくんの近所ですね♪ ではでは、あそこをじっくり見てください。何が見えますか?

ヒロト :えっと、火災です。車が電柱にぶつかって燃えてる。救急車や、消防車が集まって来てる・・・。

ココア :何か、思い出せましたか? あの場所であった出来事を。

ヒロト :・・・はい。

ココア :今から6時間ほど前、車を運転中に前に飛び出した女の子を避けようとハンドルを切ると、集団下校中の小学生の列に突っ込み、電柱に激突。車は炎上。ヒロトくんは気絶したまま燃えちゃいました。ヒロトくんは今、魂だけの状態。死んだ時の姿そのままだけど。

ヒロト :・・・子供達は?

ココア :1人死亡、7人重軽傷。

ヒロト :なんてことだ・・・。

ココア :起こった事は仕方が無いですね。

ヒロト :取り返しのつかない事をしてしまった・・・。せめて亡くなられた子供の親御さんだけにでも謝りたかった・・・。

ココア :うーん・・・。今の願い、出来ないこともないよ。

ヒロト :本当ですか? 出来るなら、お願いします。

ココア :わかったわ。じゃあ、少し目を瞑って。瞑ったら今の願いを言って。そして私が「契約しますか?」と訊ねたら「契約します」と答えてね。

ヒロト :わかりました。


ヒロトは目を瞑ると願った。


ヒロト :“亡くなられた子供の親御さんに謝りたい。お願いします。”

ココア :“ヒロトくんはその願いを叶えるため、ココアと契約しますか?”

ヒロト :“契約します。”


ココアはヒロトに軽く口付けした。するとヒロトの身体は淡く光りだした。


ココア :ヒロトくん。目を開けて。

ヒロト :(あれ、話せない)

ココア :契約中は言葉が出せないの。契約が叶えたら元に戻るから心配しないで。それじゃ、ちょっと移動するよ!


ココアがヒロトの手を掴むと、周りの景色は一瞬に女の子の部屋に変わった。窓の外は真っ暗で、ベッドには女の子が寝ていた。ココアとヒロトが淡く光っているので、部屋は暗くはなかった。ココアは女の子を指でつついて起こそうとしていた。


ココア :ちょっと起きて、みゆきちゃん♪

みゆき :・・・うーん。はにゃ? あっ、天使のおねえちゃん。

ココア :ヒロトくん、このみゆきちゃんは事故に巻き込まれたのよ。軽傷で済んだけど、頭を打った影響で私の姿が見えるみたいなの。

ヒロト :(そうなんですか)

みゆき :おにいちゃん、なんでしゃべらないの?

ココア :おにいちゃん、今ちょっと喋れないの。みゆきちゃん、ずっと泣いていたの? そんなに目を腫らして。

みゆき :だって、おとなりのあけみちゃんがしんじゃったんだよ。いつもいっしょでなかよしだったのに。ぐずっっ。

ココア :ほら、泣かないの。

ヒロト :(あけみちゃんというのか・・・俺が殺してしまった子は・・・)

みゆき :だって、だって、もうあけみちゃんといっしょに、なかよしになれないんだよー。でもパパとママは、みゆきがいなくならなくてよかったっていうんだよ。あけみちゃんがかわいそう。ぐずっ。

ココア :みゆきちゃん、今でもあけみちゃんと一緒になりたい? お姉ちゃんならあけみちゃんのいるところへ連れて行ってあげるよ♪

みゆき :ほんと!? みゆき、あけみちゃんといっしょになりたい! でもとおかったら、パパとママがしんぱいするよ。

ココア :心配しないで。このおにいちゃんが、みゆきちゃんのかわりになってくれるんだって。

みゆき :みゆき、おにいちゃんと全然似てないよ。パパとママにすぐわかっちゃう。

ココア ;だいじょうぶだよ♪


ココアはヒロトの腕を引っ張ると、ベッドで座っているみゆきの胸にヒロトの手をあてた。


ココア :みゆきちゃん、おにいちゃんの腕を両手でつかんでごらん。

みゆき :うん。わっ、おにいちゃんの腕がみゆきの胸に“ぐちゅぐちゅ”って入ってきたよ!

ココア :うん。そしたら「おにいちゃん、みゆきになあれ♪」って言ってみて。

みゆき ;おにいちゃん、みゆきになあれ♪


ヒロトの身体は光を増し、身体が縮んでいった。

ヒロト :(うわっ、みゆきちゃんの記憶が流れ込んでくる。幼稚園、小学生の思い出。パパとママの思い出。そしてあけみちゃんとの思い出・・・)


みゆき:わあー、おにいちゃん、みゆきそっくりになっちゃたぁー!


ヒロトは、パジャマ姿のみゆきちゃんそっくりになっていた。


ココア :これで、パパとママに心配ないでしょ。それじゃあみゆきちゃん、少し目を閉じて。目を閉じたら、今のお願いを言ってね。そして私が「契約しますか?」といったら「契約します」と答えて。

みゆき :けいやくって、なに?

ココア :契約って約束ってことだよ。

みゆき :うん、わかった。目を閉じてお願いをするんだね。


みゆきは目を瞑ると願った。


みゆき :“なかよしのあけみちゃんといっしょになりたい!”

ココア :“みゆきちゃんはその願いを叶えるため、ココアと契約しますか?”

みゆき :“けいやくします。”


ココアはみゆきに軽く口付けした。するとみゆきの身体は淡く光りだした。


ココア :うん。あとは・・・ヒロトくん、何かを掴むような感じで腕を引き抜いてみて。

ヒロト :(何かを掴むような感じで引き抜くんだな。)


ヒロトがみゆきの胸から腕を引き抜くと、淡く光ったパジャマ姿のみゆきが現れた。ベッドには抜け殻状態になったみゆきの身体が寝ている。


ココア :ヒロトくん、今取り出したのが、みゆきちゃんの魂。

みゆき :(あれ、しゃべれないよ)

ココア :みゆきちゃん、願いが叶えたら喋れるようになるからね♪

みゆき :(うん)

ココア :ヒロトくん、それじゃあみゆきちゃんの抜け殻に入ってね。

ヒロト :(どうやって入るんですか?)


ココアはみゆきちゃんの抜け殻に触れた。すると、まるで“ツタンカーメン”の上蓋が外れるように“カパっッ”と開いた。


みゆき :(わっ!?みゆきのからだ、からっぽだよ)

ココア :ヒロトくん、その中に入って。今のヒロトくんはみゆきちゃんそっくりだから、ぴったり入るから。


ヒロトは抜け殻に入ると、ココアがフタを閉めた。


ココア :どう、ヒロトくん。いや、今はみゆきちゃんか。これで願いが叶えられるはずよ。みゆきちゃんの記憶もコピーされているから問題ないはず。

みゆき(ヒロト) :あ、話せます。みゆきちゃんの身体だけど、何らかの形であけみちゃんの親御さんに謝る機会ができると思います。みゆきちゃん、あけみちゃんと会っている間、身体を貸してね。

みゆき :(うん♪)

ココア :さて、みゆきちゃん。あけみちゃんに会わせてあげるね。みゆきちゃん、私の目をよく見て。

みゆき :(目をよく見るんだね)

ココア :そう。それじゃ、みゆきちゃん。食べ物で好きなものはなに?

みゆき :(好きなたべもの?イチゴケーキ♪)

ココア :ココアもみゆきちゃんの好きなもの。たべたいなぁー。

みゆき :(そうなんだ。たべさせてあげたいなぁー)

ココア :みゆきちゃん、今度、たべさせてくれる?

みゆき :(うん、たべさせてあげる♪)

ココア :みゆきちゃん、ありがとう♪


ココアがみゆきの後ろから抱きしめると、みゆきの体はみるみる形が崩れていき、おおきなイチゴケーキに変わってしまった。


イチゴケーキ(みゆき) :(あれ?みゆき、イチゴケーキになってる!?おもしろーい!!)

ココア :じゃ、みゆきちゃん、願いを叶えてあげるね♪ いただきまーす!

イチゴケーキ(みゆき) :(えっ?あわわわわ・・・)


ココアは両手でイチゴケーキ(みゆき)を掴むと大きな口に一口で呑み込み、満面の笑顔でもぐもぐし始めた。ヒロトは突然の出来事にあっけにとられていた。


ココア :んーっっっつーん、おいしぃー♪やっぱり、純心な魂は甘くておいしいです!!

みゆき(ヒロト) :みゆきちゃんをどうしたんですか!!あけみちゃんに会わせるんじゃ、なかったのですか!?

ココア :そうよ。みゆきちゃんはあけみちゃんと一緒になりたかったんでしょ。みゆきちゃんの願いをかなえたんだよ。

みゆき(ヒロト) :まさか、あけみちゃんの魂も、たべ・・・


ココアとみゆき(ヒロト)の話をさえぎるように、部屋に突然女の子が出現した。その姿は黒い羽、先のとがった尻尾をした「悪魔」と呼ばれる姿をしていた。


ココア :あっ、カカオお姉ちゃん♪

カカオ :ココア、お食事の時間はとっくに終わったわよ。あ、また天使の姿で食事してたでしょ。食事する時は「悪魔」にならなきゃならないでしょ! みっともない。


カカオがココアの頭上に浮かんでいる「輪っか」を両手でつかみ勢いよく下ろすと、スポッと首まで入り、首輪になった。するとココアの身体は純白から漆黒にみるみるうちに変化し、天使から悪魔の姿に変貌した。


ココア :ごめんなさい。

カカオ :ところで、ちゃんと罪のある“魂”をたべてるわよね?美味しいからって、罪の無い“魂”を食べちゃだめよ。罪の無い方は天国へ連れて行かなきゃならないのだから。

ココア :うん、2個しか食べてないよ。えへへ♪

カカオ :(手を額に押さえて)はぁー・・・。あれ、この子は?私たちの姿が見えているみたいだけど?

ココア :みゆきちゃん。今、願いを叶えたんだよ。えらいでしょ!

カカオ :そうなんだ。みゆきちゃん、人間で私達の姿が見えるのも何かの縁。また出会えたら、ココアと遊んでやってね♪ 今は悪魔の姿しているけど、寂しがりやなの。ほらココア、もう仕事にいくよ!

ココア :うん!


ココアとカカオはポンポンっと両手で首輪を引っこ抜くと、悪魔から天使に姿を変え、ふわっと羽ばたき部屋の窓をすり抜けていった。ココアは笑顔で手を振りながら消え去って行った。




=====  次の日 ===




あけみちゃんの家で葬式がいとなまれた。俺はみゆきちゃんの姿で焼香をあげ、あけみちゃんのご両親に何度も何度も頭を下げ、涙が止まらなかった。俺の不注意であけみちゃんだけでなく、みゆきちゃんも・・・。

でも、もう悔やんでも仕方が無い。俺が今出来ることは、しっかり勉強して、将来立派な“みゆきちゃん”になること。それが、みゆきちゃんやご両親への罪滅ぼしなんだ・・・。




=== それから半年後 ===




お母さん :車に気をつけるのよー。

みゆき(ヒロト) :うん! いってきまーす。


あれから半年。最初は苦労したが、みゆきちゃんとしての生活も問題なく過ごしている。小学校での生活や週2回のピアノの習い事、休みの日にはこっそり図書館へ行って、大学生レベルの勉強を復習して・・・。

そして・・・夜には・・・


カカオ :みゆきちゃん、寝ているとこゴメンネ。

みゆき(ヒロト) :あっ、カカオさん。

カカオ :昨日も頼んだのだけど、今日もまた手伝ってくれる?

みゆき(ヒロト) :はい、いいですよ。


カカオがみゆき(ヒロト)に軽く口づけすると魂が抜け出し、背中に白い羽根が現れ、天使のようになった。


カカオ :みゆきちゃんごめんね。昨日もとても冷え込んだでしょ。あちこちでお年寄りが亡くなられて、人手(天使手)が足りないのよ。

みゆき(ヒロト) :わかりました、手伝います。ところでココアは?

カカオ :あれ? いまそこにいたのに・・・。あっ、あそこにいる。またつまみぐいしようとしているわ!


みゆき(ヒロト)は猛スピードで飛び、ココアが魂をたべようとしているところを頭を叩き、阻止した。


ココア :いったぁーーい。わっ、みゆきちゃん!?

みゆき(ヒロト) :こらぁー!!だめでしょ。罪の無い魂を食べちゃ。

ココア :ごめんなさーい(;;)

みゆき(ヒロト) :ほら、仕事するよ!

ココア :はぁーい。


今では、夜、2日に1度ほどココア達の仕事を手伝っている。
ココアがみゆきちゃんやあけみちゃんの魂を食べてしまった事を恨みもしたが、みゆきちゃんはそれを望んでいないだろうし、ココアも悪気があった訳ではない。私が事故を起こさなければこんな事にはならなかった。ココア達の手伝いをして、少しでも罪滅ぼしになればと思っている。
カカオは事情を知るとココアを反省させ、今ではとても仲良くしている。


カカオ :ふぅー、お疲れさま、仕事終ったね。みゆきちゃんが天使の仕事手伝ってくれるおかげで早く終るし、ココアの悪い癖もなくなって良かったわ。そうそう、今日はみゆきちゃんにプレゼントがあるのよ♪

みゆき(ヒロト) :えっ、何ですか。

カカオ :はい♪


カカオは、みゆき(ヒロト)の頭上に光るものを浮かべた。


みゆき(ヒロト) :わっ、これって!?

ココア :そう、天使の輪。これで本当にココア達と一緒だね♪

カカオ :今日、天使長さまから預かってきたの。天使長さまがみゆきちゃんの活躍をごらんになってね。これでみゆきちゃんの意思で、いつでも身体から抜け出して天使になれるわよ。天使の名簿リストにも登録されたしね。

ココア :ココアとカカオお姉ちゃんとみゆきちゃんの3人のコンビで登録されたんだよ。これでみゆきちゃんは、いつ死んでも大丈夫だね♪

みゆき(ヒロト) :まだ死にません!!

カカオ :うふふふ、ほんと仲良しですね。

ココア :カカオお姉ちゃん、お腹すいたよぉー。

カカオ :それじゃご飯にしましょうか。ココア、みゆきちゃんの天使の輪を首にずらしてあげて。

みゆき(ヒロト) :えっ、私はいいですよ。もう身体に戻りますから。それに魂を食べるなんて・・・。

ココア :だめ。今日はみゆきちゃんのために、罪のある魂をたくさん捕まえたのだから。

カカオ :罪のある魂を食べるのも、悪魔での私達の仕事なのですよ。とてもコクがあって美味しいですから。

ココア :えいっ!はい、輪っか、首にずらしたよ。

みゆき(ヒロト) :あっ、うぐぐぐっぐぅぅーー・・・・

カカオ ;最初は苦しいかも知れないけど、慣れるからね。ココア、私達も悪魔になるよ。お食事する時の、エチケットだからね。

ココア :はぁーい。


悪魔の姿になったみゆき(ヒロト)には、罪のある魂が急に美味しそうに見えてきた。そしてココアからそれを受け取った。


みゆき(ヒロト) :わぁー、ホっぺが落ちそう。罪のある魂って、色が黒っぽいけど美味しいですね♪

カカオ :私達が罪のある魂を食べないと、未来が悪くなるからね。

ココア :みゆきちゃん、ほら、この白いのも甘くて美味しいよ♪


みゆき(ヒロト)は差し出された白い魂を見て、ココアをキッと睨んだ。


みゆき(ヒロト) :ココア、今、私、悪魔だから、こ・わ・い・よ。

ココア :みゆきちゃん、こわいよぉー。・・・これ、天国へ連れて行ってきます(涙)

みゆき(ヒロト) :うん♪





(おわり)






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