雨がしずかに降る日には

心理療法~ものの見方~



 精神的な健康を保つためには、柔軟なものの見方、行動や感情のコントロール感覚、人間関係が大事です。
 心の健康を保ったり、取り戻すためのキーワードとして、「3つのC」という方法があります。それは、Cognition(認知)、Control(コントロール感覚)、Communication〈コミュニケーション〉の3つです。
 この「3つのC」という基本的な考え方と、それを応用した認知療法、行動療法、対人関係療法という3つの方法は、薬物療法と並んで、うつ症状に悩む患者さんをケアするためのだいじなアプローチです。また、私たちが日常的に経験する軽い落ち込みに対しても役立つはずです。


 ---Congnition ひとつめのC 「ものの見方」---

・ 認知療法(アーロン・A・バック)

 気分が落ち込むと、ものの見方に柔軟性がなくなって、視野が狭くなります。そのような「認知のゆがみ」に注目するのが、認知療法という治療法です。
 私たちは普段から、現実をありのままに見ているわけではなく、主観的なものの見方をしています。それぞれの人なりのフィルターを通して見ていると言ってもいいでしょう。このような、人それぞれのものの見方のことを「認知」と呼びます。

 ひとつひとつの認知がプラス思考でも後ろ向きであっても、現実とさほどずれていなければ、とくに問題にはなりません。普段元気なときは、何でも順調にいっているときには、そんなにいいことばかり続かないぞと気持ちにブレーキをかけたり、いろいろ試してもうまくいかないので、また別の方法を考えて解決しようと考えたり、とくに意識せずにものの見方や気分を調整してバランスをとっています。

 けれども、ストレスが強くなり、気分がひどく沈んだときには、考え方が狭くなり、気持ちに柔軟性がなくなって、現実の自分の姿が見えにくくなり、考えが極端にマイナスな方向ばかりにいってしまうようになります。いつもなら一度失敗すれば別の方法を考えるのに、最初にうまくいかなかった方法を何度でも繰り返したりします。
 このような認知のゆがみを知っておくと、自分の認知を再検討するよい手がかりになります。


1)自分勝手な推測
 物事を判断するのに、具体的な材料はないのに、一方的に思い込む。
「もう一週間も電話をくれない…」
  ⇒相手は忙しかっただけかもしれない。

2)選択的な抽象化
 自分がこだわっていることにしか、目が向かない。
「傘を持たずに出かけて、雨に濡れた」(外に出て嫌な目に遭った)
  ⇒他に有意義なことがあったのは喜ばず、雨に濡れたことにばかり目が向く。

3)過度の一般化
 例えば、ただ一つの出来事から全てを結論付けてしまう。
「受験に失敗した」(もう自分には一生、絶対にいいことはない)
  ⇒不十分な材料だけで、一生は決まらないのでは?不十分な判断材料で決め付けている。

4)誇張と矮小化
 色々な出来事に対して、悪かったことは誇張し、良かったことには気付かないか、低く評価する。
「英語の点が悪かった」(英語の点が悪くては、どうにもならない)
「数学の点が良かった」(まぐれだから、次のテストは悪いに決まっている)
  ⇒悪かったことを強調して、良かったことは評価しない。

5)個人化
 悪いことを自分に関連付ける。
「手紙を書いたが返事がない」(気が付かないうちに、自分が相手を傷つけるようなことを書いたからだ。どうしよう、困った)
  ⇒相手が留守でまだ手紙を読んでいない、忙しくて返事を書けない、手紙を書くのが苦手だ、などが理由なのかもしれないとは思わない。

6)絶対的、二者択一的思考
 YESかNOしか、選択肢がないと思い込んでしまう。
「自分は昇進に失敗した」(もうおしまいだ。会社を辞めなくてはならない。完全でないなら絶対にだめである)
  ⇒昇進しなくても良い成績を上げており、次の機会が期待できることは認めない。


《自動思考を見つめなおす》

 認知のゆがみを修正していくためには、根拠を探す、結果を予測する、代わりの考え方を探すという3つのポイントがあります。

 悲観的になったり、気持ちが動揺したときには、私達のなかになんらかの考えやイメージが浮かんできます。例えばある会社のA子さんは今日が締め切りの資料が出来ているかどうか後輩に尋ねたときに、「え?私は聞いていませんが」とやや強い口調で返事をされて、沈んだ気持ちになりました。このときA子さんのなかには、「私が言わなかったんだ。嫌な思いをさせてしまった」という考えが浮かんできました。

 このような考えやイメージは、自分の意思とはかかわりなく浮かんでくるように感じられるので、「自動思考」と呼ばれています。認知療法では、このような自動思考を見つけて、もう少し柔軟な考え方ができるようにしていきます。


1)根拠を探す
 気持ちが揺れてしまったときには、そのときの自分に浮かんだ考えを見つめ直していきましょう。その考えにはきちんとした根拠や証拠があるでしょうか。出来事を振り返ってみると、動揺して狭まった考え方がもう一度現実的になり、少し視野が広がることがあります。

2)結果を予測する
 それでも元の考えが正しいと思えるときに、「だったらどうなるんだ」と結果について予測してみます。それからどんなことが起こるのか、どんな困ることが出てくるのか、どれくらい重要なのか、などと考えてみると、多くの場合、それほど大変なことはそうそう起こらないし、起きたとしてもそれなりの対策があると思えてきます。

3)代わりの考えを探す
 最後に、「では別のように考えることはできないか」と自分に質問してみます。前の2つのチェックで大分頭が柔らかくなっているはずなので、かなり現実的で幅の広い考え方が見つけられるだろうと思います。


《コラム法で現実を見る》

 自分の考えや判断がどの程度現実にそっているかを、紙に書き出してみると、自分の考え方を見直すのに役立ちます。適当な紙に線を引いて欄(コラム)に分けて、それぞれの欄に「状況」「不快な感情」「自動思考」「代わりの考え」「心の変化」と見出しを立てておきます。


1)状況
 つらい気持ちになったり、なにか困ったことが起きたときの状況を書き出します。5W1H(いつ、どこで、だれが、なにを、なぜ、どのように)にのっとって、なるべく具体的に客観的に書いてみましょう。

2)不快な感情
 そのときに自分がどのように感じたかを書きます。悲しい、恥ずかしい、嫌だ、不安だ、腹立たしい、苛立つ、わるい、困った、ショックだ、かわいそう、うらやましい、うれしい、満足だ、といったさまざまな感情を、短い言葉で書き込みます。あわせて、いちばん強い感情を100%として、そのときの感情が何%にあたるかも書いておきます。

3)自動思考
 「不快な感情」で書いたことを体験したときに、あなたのなかに浮かんでいた考え(自動思考)を書き込みます。長くなっても、ひとつひとつ追うようにしながら書き出してみてください。ここでも、まったく疑いなく信じられる場合を100%として、その考えを何%として、何%くらい確信していたかということも書いておきます。このように%で表した数字で評価することは、自分の気持ちや考えを一歩引いて見直す練習といういう意味があります。気持ちが落ち込んでいるときには「いつも」「絶対」と決めつけるような考えを持ちやすくなりますが、そういう傾向を見直す手がかりになります。

4)代わりの考え
 今度は、「では、別の考え方はできないだろうか」ということを出来るだけ沢山考えて、書き出します。「自動思考を見つめなおす」で説明した、3つのチェックをもう一度やってみるのも役に立ちます。少々突飛な思いつきも、簡単に書いておくようにします。やふぁり、その考えをあなたがどれくらい信じられるかを%で評価しておきます。

5)心の変化
 ここまでを書き込んでみて、それぞれをもう一度振り返り、感情に変化があったか、どの程度信じられるかをそれぞれ%で評価します。変化が見られて、気持ちが楽になっていれば、「代わりの考え」でやってみたような方法、新しい考え方が役に立つかもしれない、ということでもあります。あまり変化が見られないようなときには、もっと別の見方や考え方が出来ないかと、さらに探していけばいいのです。


⇒行動療法~コントロール感覚~

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