「君の机の傷」 クラス会の日が近づいてくる。それは、5年ぶりで君に会える日。 5年前、15歳だった僕は、いつでも君の姿を追い、 いつでも、君の声を探していた。あの頃君がいるだけで、 僕の世界は明るく輝いていた。とても、とても。 そう、“あの”夏休みに入る一週間前までは・・・。 「父の仕事の都合で、転校する事になりました」 予想も出来なかった一言を、君は突然言ったね。 泣きそうな君の横顔と、女の子達のすすり泣く声・・・。 そんな光景を僕はどこか遠い所で、見ていた気がする。 その時「寂しさ」とか、「悲しさ」は無かった。 だって、それは、全く現実味を帯びていなかったから。 君が僕の前からいなくなる。 そんな事あるはずが、無いのだと。 おかしいね、あの頃の僕は、 何故だか本気で、そう信じていたんだ。 でも、君は、あっけなくいなくなってしまった。 まるで、元々存在していなかったかのように。 僕の世界は、静かに輝きを無くしていった・・・。 人影の無い夏休みの午後の教室。 気が付けば僕は、君のいた席に座っていた。 突然、僕の目から涙が溢れ出した。 君がいなくなってから、初めての事だった。 君の机を抱きしめて、声を押し殺して泣いた。 泣いて、泣いて・・・そして、泣いた。 その時、僕の指先を何か「傷」がふれた。 机の裏側に“何か”が、彫ってあったのだ。 「???」と思い覗きこんだ所に 彫ってあった4文字。それは・・・ 「上山 昌希」 ああ・・僕の名前だった・・・。 あれから5年、君は十分に大人になり 今では、もう恋人もいるのかもしれない。 でも、僕は勇気を出して君に伝えたい、伝えよう。 5年前、言えないままだった「僕の思い」を・・・。 そして、君にも聞かせて欲しい。 あの頃、君の世界に少しでも僕が、いたのかを。 未だに僕の記憶から色あせない「君の机の傷」の訳を・・。 文・挿絵/わち姫 (参照:Cam's北見2006年7月号) |