「40年目の初恋」 夫との結婚生活は、今年で40年目を迎える。 3人の子供はすでに独立し、孫も何人かいる。 夫は真面目な人で、この結婚生活に特に不満がある訳では無い。 それでも、時々考えてしまう時がある。 箱入り娘だった私は、女子高を卒業した後、 家で花嫁修業し、20歳の時に親の勧めるまま、 当時28歳だった夫と見合いで結婚をした。 そんな私には、所謂 「恋」 と言うものの経験が無いのだ。 相手の事を思うと、夜も寝られないとか 食事も喉を通らないとか、そんな事本当なんだろうか? 私だって若い頃は、恋愛小説などを読み 「運命的な大恋愛をして結婚」 なんてのに 憧れを、抱いていたものだった。 でも現実は、映画や、小説のような事など何も無い ごくごく普通の見合い結婚だった。 もちろん、それが幸せなことは100も承知だし、 親の判断が間違っていたとも思わない。 それでも 「初恋」 くらいは、 経験してみたかった気がするのだ・・・。 そんな事を考えている時、ふと私は、思いついた。 夫は、どうだったのだろう? 夫は大学も出ているし、私より8歳年上・・・。 「初恋」 の経験くらいあっても、おかしくは無い。 気になったら黙っていられない私は、 その夜さっそく夫に、尋ねてみる事にした。 「お父さんの、初恋っていつだったの?」 夫は、驚いた顔で、私を見た。そして 「・・・そんな事、どうでもいいだろう」 と少し、動揺した様子で答えたのだった。 やっぱり夫には、 「恋」 の経験があった。 相手は、一体どんな人だったんだろう? その人とは何か事情があって結婚できなかったのか??? なんとなく面白くない私・・・。 「お父さんの初恋の人に、会ってみたかっただけ」 私がおもわず不機嫌顔で言った時、夫が、ポツリとつぶやいた。 「そんなに会いたきゃ、洗面所でも行って来い」 ・・?えっえ?!洗面所って、鏡??・・・って言うことは 「初恋の人って、私のこと~??」 思わず叫んでしまった。 夫は赤い顔をして、新聞を読んでいる。 それから、嫌がる夫に無理やり話を聞き出してみると 実は何年も前から、私の事を好きだった夫は 私の両親に土下座までして、見合いの申し込みを し、結婚したらしいのだ。 無口で、真面目で、どちらかと言うとおとなしい夫が 私のためにそんな事をしてくれていたなんて!! 驚きと、感激が私の胸を騒がせた。 その話を聞いて以来、単純な私の目には 夫が今までよりずっと素敵に映るようになってしまった。 夫の顔を見ると、ちょっとドキドキしてしまう。 あれから夫には、度々 「おまえは、どうなんだ?」 と 聞かれているけれど、どうやら結婚生活40年目にして 「 初恋」 を迎えてしまった事は、秘密にしておこう。 文・挿絵/わち姫 (参照:Cam's北見2007年1月号) |